表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/52

げに恐ろしきは、我が母なり

終わりに近づいてきたー!


でも、皆さん自由に動き回る…お話書くってこんななの!?

 再び、暗い闇の中にいた。


 ああ、わたし、またここにきたのね。

 こんどこそ()()をとりもどすわ。


前よりも強く言うと、前と同じように≪何か≫が答えてきた。


 また来たのかい?どう?君は変わった?

 君は君を切り開けるようになったの?

 その醜い顔と心で。

 痛みから逃げてばかりの君が?

 周りの人なんか大事にしたこともない君が?

 自分の傷しか見てないくせに、その傷からすら

 逃げてばかりの君に…何ができるの?


≪何か≫の詰問は、()()を取り戻そうとする私の気持ちを簡単に挫く。


 わたし………


 ほぅら、もう諦めそうだ。言っただろう?

 君は君だけの優しい世界に居ればいいんだ。

 君の周りは君をもう傷つけない。

 辛い思いをしてまで、()()を取り戻す必要な

 んて無いんだよ?


 ひつよう、ないの?


………ダメ、トリモドスノヨ!


突然別の≪なにか≫も話し出す。これは初めてだ。わけの分からないものが、一つ増えてしまった…と悩む。


 そうだ…必要ないんだよ。

 君はまた、穏やかな所に落ちればいい。

 優しい人達が作ってくれた、優しい世界だけを見て

 いればいい。幸せだろ?

 

 しあわせ…うん、しあわせ…よね…。


………ダメ!ダメナノ!()()ヲ、トリモドサナイト、

ホントノ、アナタニハ、モドレナイノヨ!


  ほんとの、わたし?


ソウヨ、ウマレタトキカラノ、ホントウノ、アナタヨ…


 余計なことを言うな!

 違うんだ。

 ()()は君には要らないものだ。

 ()()を手にした途端、君は不幸になる。

 今の君ではいられなくなるんだ。

 醜い心と顔を世界中にさらすことになる。

 それでもいいのかい?君は耐えられるの?


 …わからない。でもとりかえしたいわ。


 痛みを抱えても?


 そうね。わたしから、なにかぬけおちてしまったも

 のが、あるきがするの。

 それが、()()よね?

 だったらとりもどしたいわ。

 わたしから、なくなって、あいてしまった、あな

 を、ふさぎたいの。


 君には無理だ。今なら間に合う。

 帰れ!帰るんだよ。


イイエ、タタカイナサイ!マリエル、アナタナラ、カナラズ、トリモドセルワ!タタカウノヨ!


≪何か≫と≪なにか≫が争う。


 やめてよ!頭が痛い…私は忙しいの!

何だか分からないモノ達の争いなんて、興味ないし、聞きたくない!


暗い闇から浮き上がり『自分』が戻ってくるのがわかる。


 ああ、また、いけなかった…


 ほぅら、無理だっただろ?それが君のためさ!


………………………………


 後は沈黙。

残された『自分』だけが、明るい光に照らされた―――――。


 ☆☆☆☆☆


 目が開いたと同時に、目に飛び込んできたのは、自室の壁と母の不安そうな顔だった。


「お、母さま…」


「良かった。気がついたのね?お水はいる?何か食べられるかしら…」


「奥方様、こちらに。それから、スープのご用意がございますが、お嬢様、召し上がられますか?」


 ターシャが横から水の入ったコップを差し出す。


「あら、ありがとう。どう?マリエル、いただける?」


「ええ、お母様…ターシャ、ありがとう。いただくわ…」


 マリエルは寝台から体を起こして、母から水を受けとる。本当はスープも何も要らなかったのだが、二人の不安そうな顔をみると、安心してもらうために、せめてスープくらいは…と思い、もらうことにした。


「お母様、どうして?わたくし、また倒れてしまった?」


「そうみたいね…ビックリしたわよ。いきなり殿下が家の廊下を、あなたを抱き抱えて歩いてるんですもの」


「え?…殿下?」


 口に出してから、直前に何があったか思い出したマリエルは、顔が熱くなった。

耳まで赤くなった姿に母は、やっぱり、と呟いた。


「何かあったのね?殿下は、あなたと外でばったり会ったら自分の顔を見たせいで、いつものように倒れてしまった。と言ってらしたけど…違うわよね?いつもの倒れた時と違ったもの。そうでしょ?」


「え、えっと…あの…」


「大丈夫よ。男どもは追い出したから。それに、あの二人は気付いてないわよ?それなりに経験あるでしょうに、娘や妹のことだと目に入らないのかしらね…」


「え?あ、あの…お母様?」


「殿下に想いを告げられた?…口づけされたのよね?」


 ガシャンッと、ターシャが器をぶつけた音がした。珍しいこともある、と目をやると、スープ皿にスープを注いでいるところだった。

 が、明らかに手が震えていた。


「…チッ……殺す…」


 小さい呟きが聞こえて、マリエルの背中に悪寒が走る。


(ターシャ、今、舌打ち?…それに不穏な発言…それ反逆罪!)


 それから、遅れて母の言葉に気づくと、慌てて顔を見返す。


(あれ?今、お母様何て言った!?)


「馬鹿ね…。私は二人の子を持つ母親なのよ?鈍い父親や兄と一緒にしないでもらいたいわ。殿下が抱き上げてるあなたの唇が、あれだけふっくら腫れているのに気づかない方がおかしいわ。だいたい、殿下のマリエルへの気持ちは分かりきっていたしね」


「そっ、え…?そんな…」


「一人の男性として考えれば、まだ伝えないのかしら?ってくらいに、昔から分かりやすかったわよ?ただ、お父様やマリウスに阻止されてただけで…きっと、明日、あなたがヨルゲン様に返事をすると聞いて、いてもたってもいられなかったんでしょうねぇ」


「お嬢様、こちらを…」


 ターシャが、寝台の上掛けの上にトレーに乗せたスープをそっと置く。

ターシャらしくなく、見るからに申し訳なさそうに眉が下がっている。


「ありがとう…」


 マリエルはターシャの手を軽く握り、気にしないように伝える。


 トロっと濃厚なスープを口にすると、喉の奥までストンと滑り込んでいく。

 マリエルの負担にならないように、と野菜や肉を煮込んだものを潰して裏ごしした、手間隙のかかる滑らかで滋養に富んだスープは、彼女の体を芯から温めてくれる。


 マリエルを心配して作ってくれたのであろう、料理人のその気持ちも伝わって、より心も温かくなるのが分かる。

 その気遣いを嬉しく感じた時に、ふと浮かんだ問いをマリエルは母にぶつける。


「ねえ、お母様…やはり、わたくし、気が利かない…と言うか、周りの人達に対して鈍いでしょうか?」


「そう…ねぇ。マリエルはまだ育ってない部分があるものね…」


「未熟ということですか?」


「ん…未熟というより、未経験、に近いかしら?確かに、自分のことに精一杯で、見えなくなってしまってるものはあると思うわよ。でも、それも成長と共に変わっていくと思うの。だから今、焦らなくてもいいと思っているわ」


「やっぱり…わたくし、見えてないことがたくさんあるのね…もしかしたら、お父様やお母様、お兄様の気持ちも見えてなかったのかもしれない、と思うと情けなくなるわ…」


「あら?あなた…私やお父様やマリウスが、あなたを心から愛していることは伝わってる?」


「もちろんですわ!それがなければ、わたくしはきっと耐えられなかったはずですもの」


「じゃあ、大丈夫。我が家に関しては見えてるわよ?あぁ、あえて言うならマリウスね。あの子は…あなたを、あの日守れなかった、と思うあまり、どんどん過保護になっちゃって…それも分かってるでしょ?」


「…ええ、まぁ…でも、お兄様には、いつも守ってもらってますわ」


「今日の殿下とのことが知られれば、泣いて怒るのはきっとマリウスね。とにかく今は黙っておきましょう?…で?あなた、殿下のこと、どう思ってるの?」


「どうって…分からないの。…今までわたくしにとって殿下は、恐怖の対象だったから…あのね…今日、いろんな殿下についてのお話を伺ったの…」


「それでもまだ、怖い?」


「………怖いと言うか…何て言ったらいいのかしら………うん、気づいてしまったの。わたくしが本当に怖かったのは、殿下その人じゃなかったみたいだって」


「…そうなの?」


「ええ、説明が難しいのですけど…昔、殿下に言われた言葉より『醜い私』が怖くて…多分、その象徴が『ユースタス殿下』だったのかもしれないなって」


「…あなたに、そう思わせた本人だから、ということ?」


「…ええ、そんな感じかしら?だってね、お母様、殿下の話を伺っても何も感じなかったの。何もよ?小さい子どもに酷いわね、って理解してるのに、だから許そうって思えなかったの…」


「それだけ腹を立てているからではないの?」


「いいえ、怒りもなかったわ。ただ、あの日に思わぬ態度と言葉を言ったことで、彼自身も傷つくくらい子どもだったんだな、と思っただけ。じゃあ、わたくしはいったい何に怯えていたの?それが、分からなくなってしまって…それに、さっき殿下はわたくしを…その……き、きれいだと、言ってくださったの。醜くないと…それでね、怖かったのは『醜い私』という存在そのものだった、とようやく気がついたの。…だから、恐怖の対象として『自分』を憎めないから…それを、殿下に押し付けたんだと思うの。酷いわよね…」


 さっき、ふと思い付いたことを母に話すことで、その漠然とした思い付きが、次第に形作られていく。


「じゃあ、もう殿下を憎んでいないのね?」


「分からないけど…多分?さっき思いついたことだから、もう一度殿下にお会いした時に、どう思うか分からないけど…」


「…もう憎んでいないとして、確認するけど、想いを告げられたのよね?」


「え?…ええ…まぁ…」


 母の問いにマリエルは顔を赤くして、歯切れも悪く返事をする。


「それなら、明日のヨルゲン様のことはどうするの?」


「…まだ分からないわ…とにかく明日お話してみないと…そもそも、王族の殿下とどうこうなんて、考えること?」


「家柄としても、あなた自身にも、問題ないと思うわよ?実際、王家からの打診はあったもの」


「え?そうなの?」


「当然、お父様が即答で断ってらしたけど…でも、あなたはどうしたい?」


「本当に…分からないの…自分のことなのに、どうしたいか、分からないの…」


「いいわ。ゆっくり考えなさい。なんなら、ヨルゲン様のことも無理に明日お返事することもないでしょ?明日はあなたが決めた期限でしかないんだから」


「確かにそうなんだけど…お母様、わたくしね、『醜い私』が怖くてたまらないのに、今は『分からない自分』も怖いの…変よね…」


「あら、分からないことだらけよ?世界なんて。そして、自分も世界の一部ね」


「お母様でも?」


「もちろん、お父様もでしょうね。とにかく、慌てて答えを出さないこと!これだけが私からあなたに言えることよ。わかった?」


「はい、お母様」


 


 そして翌日、トール・ヨルゲンとの外出から戻ったマリエルの顔色は青ざめていた。

 心配したマリウスとターシャが問うと、震える口から絞り出された返事は


「……………婚約破棄………されました…」


だった。


母親って、時に驚くほど何でも見てたり、知ってたりしますよね?バレたくないことほど、何故かバレてるという…。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ