届かない想い
マリエルが倒れたおかげで少し白い画面になったはず。
文字が多くて黒いのは反省材料なんです。はい。
暗い闇の中にいた。
わたしの一部が、この闇に取り残されている。
自分でもよく分からない自分の欠片。
それがポツンと忘れ去られたように置き去りになっている。
暗闇の何も見えない中で、確かに感じる存在。
わたし、あれをとりもどさないといけないの。
微かな呟きに、何かが答えた。
無理だよ。
あれを取り戻すには、あそこに行かなきゃいけない。
そして、君は君を切り開かないといけない。
ねえ、本当に君にそんなことできる?
取り戻せるの?
その醜い顔と心で。
わたし………
答えようと口を開くと、指先の血の気が引いてピリピリとした寒気に体が震える。
さむい…すごく、さむいの…
ここはくらくて、さむくて、くるしいの。
…サムイノカ?
アタタメテ アゲルヨ。
あたたかくしてくれるの?
はやくあたためて、さむくてしかたないの…
おねがい。
はやく……わたしがきえてしまうまえに…
でも願いは届かない。
そしてまた、暗い闇の中―――――。
☆☆☆☆☆
「…っーーーー…と、……か?」
ああ、ごえいのひとね。
…ちがう、それはむかし。こどものわたしのきおく…
「…!ーーーは…………だ」
いまは…そうだ、おにいさまにあっていそいで逃げないといけないわ。
いえ、逆かしら?急いで逃げておにいさまに会わないといけないわ。
そして、綺麗にしてもらいに行くの。
美味しいケーキを持って、キーランの所に。
キーランは必ず助けてくれるから!
「…ーラン…」
「っ!」
何かしら、バタバタと音がする。そんなに煩くするとまた怒られてしまうわ…ガタガタ何を動かしてるの?
あぁ…誰なの?頭に響くわ…煩くってよ?
「…かになさって…」
「マリエル!気がついたかい?」
耳元で響くマリウスの声に、はっ!と目が覚めた。
「お兄様?…あの…わたくし…」
「良かった…ごめんよ、マリエル。一人にして悪かった。もう大丈夫、ここは僕の執務室だからね、安全だよ」
(安全?わたくし、そんな危険な場所に居たかしら?)ボヤけた最後の記憶を手繰り寄せていく。
「覚えてるかい?…お前、『裏庭』で倒れたんだよ。それで僕の執務室に運んだんだ。どう?どこか痛むところはあるかい?」
定まらなかった焦点が、ハッキリと像を結び兄の心配する不安げな顔が目に入った。
(ああ、そうだった…わたくし、逃げ出したのね。意識を放り出す。…なんて情けない逃げ方したのかしら…)
「大丈夫、問題はないと思いますわ。それより、お兄様、お水をひと口頂けまして?」
「もちろん、ほらっここに用意してあるよ。起きられるかい?」
マリエルは寝かされていた長椅子の縁に手を掛け、力の抜けた腕を目覚めさせるように、少しずつ力を込めて起き上がる。
浮かせた上半身をマリウスが最後まで助け起こしてくれた。
「はい。手に持てる?…危ないね…あぁ、いいよ、一緒に持つよ」
マリウスは、起こした体をマリエルの背中から抱え込んで長椅子に座り、後ろから回した手で水の入ったカップをマリエルの手ごと包み持つと、彼女の口元に運んだ。
「少しずつゆっくり飲んで」
兄の言うことに素直に従って、少し口に含むと滑らすように飲み込んだ。
「美味しい…」
「もう少し飲めるかい?」
マリウスが新たな一口を含ませて、あれこれ異常がないか質問を続けているところへ、バタンッと大きな音を立てて扉を開け、ドタドタと父のグイドが入ってきた。
「マリエル。大丈夫なのか?」
長椅子の横にしゃがみ、マリエルの顔を覗きこむ。
(ここが家なら、今頃はお母様も一緒になって騒いでるわね…)マリエルは内心苦笑する。
「まったく、あの馬鹿者が!あれほど近寄るなと言ってあったのに…」
マリエルは父の苛立たしげな言葉に、少しの違和感を覚えたが、その追及よりも父に詫びることを優先した。
「お父様…ご心配をおかけしてごめんなさい。もう、大丈夫ですわ」
「いや、無事ならいい。今日はもうこのまま帰りなさい」
グイドも娘の顔を見て安心したのか、先程より落ち着いた声で帰宅を促す。
「いえ、魔道省に行かないといけないんですの。もう落ち着いてきましたし、予定通り、この後はキーランの所へ寄ってから帰ることにいたしますわ」
「明日だっていいだろう?今日のところは帰りなさい」
「いえ、急いで行って、いつものようにお願いしないと…元に戻ってしまいますもの…せっかく、お二人に新しいご縁を決めて頂いたのに、このままでは嫌われてしまいますわ。ですから今日行かないとダメなんですの。…直して頂いたらすぐに帰ります。お約束しますわ」
父に、有無を言わせない笑顔で笑いかけると、心配いらないと手をひらひらと振る。
その何でもないとばかりに振りまく笑顔を見て、マリウスとグイドは顔を見合わると、ため息を吐く。
「…ねえ、マリエル。何度も話しているけど、お前は本当に綺麗なんだよ?キーランの魔術は要らないんだ。家族だから言ってるんじゃない。本当の事だから言ってるんだ。今のお前だったら、何もしなくても結婚話なんていくらでもやってくるんだよ?」
「?分かってますわ。公爵家とお父様のおかげだってことも、わたくし理解してましてよ?」
「いや、分かってないね。確かにお前には私と言う宰相である父親と、公爵家という家柄と、二つの強力な後押しがあるのは事実だ。しかし、それは時として足枷にしかならない。お前にはお前の魅力があって、それはちゃんと知れ渡ってるんだよ」
「?…魅力?特にはないと思いますけど…学舎での成績だって特別悪くもなかったですが、特別良くもありませんでしたわ。お兄様みたいに領地管理ができるわけでもないし、そのうえ、見た目も良くないのだし…」
「いや魅力はあるよ。夜会に僕がエスコートしていくよな?そしたら着くなり、いろんな人に声を掛けられるだろ?あれは純然たるお前の魅力だよ。お前だって知ってるはずだ。夜会では、いくら見た目が良くても、話題豊富に会話ができたり、状況を読めないような人の所に人は集まらないものだ。」
「ええ、まぁ…」
マリエルから初めての同意を得た!とばかりに二人はさらに言葉を尽くす。
「お前には、お母様譲りの美しさもある。でも、それが信じられないと言うなら、言葉を変えよう。今、社交会で一番お前が重宝されているのは、人を繋ぐことだ」
父の意外な言葉にマリエルは目を見開いた。
「人を繋ぐ…ですか?」
「そうだよ。例えばだけど、お前のところにいろんな人が来るだろ?するとそこで誰かが『○○な人を探していて…』と言う。するとお前は自分が知ってるなら、惜しまずその人を紹介するし、知らないなら知ってそうな人を紹介する。これは立派な才能なんだよ。最近特に、社交会でうちが重宝されるてるけど、これはお前がもたらした功績なんだよ」
続けた兄の言葉に、父が満足そうに頷く。
「…でも、それ…知ってる方が必要とするなら、間に入るのは当然のことではありませんの?……しかも、それって、何かわたくし頭が悪そうだわ。わたくしだって、誰でも考えなしにご紹介してるわけではないんですのに…」
「ほらね、それがお前の力なんじゃないか!いいかい?人脈は力だ。だから自分の人脈は出し惜しむ奴が殆どだ。お前はそれを、公爵家を筆頭に他家にも害のないレベルを見極めて、誰に誰を目会わせるか、きちんと判断できているから評価されてるんじゃないか。…それも否定するのかい?」
兄が優しく話しかけてくれるのは昔からではあったが、最近は特に気に掛けられていると感じる。
やはり将来のことで心配をかけているのかもしれない、とマリエルは申し訳なく思った。
「相変わらずお兄様はわたくしにお優しいのね…。わたくし、お兄様やお父様にこれ以上、ご心配お掛けしないように頑張りますわ!…うん、やっぱり今日はキーランの所に行かなければならないですわね。前回の施術から、もう十日近くなりますもの。これ以上間を空けてもお見苦しいことにしかなりませんわ」
「はぁ…ほら、やっぱりあらぬ方に走り出す…」
ボソッとマリウスが呟く。
父の言葉にも兄の言葉にも『是』と言わない。
二人の愛情はしっかり感じているものの、逆にそれが原因で信じられない。
マリエルの頑なさに、いつもながら父と兄は説得する言葉ももはやなく、ただ立ち尽くすばかりだった。
マリエルは二人の同意を得たとばかりに立ち上がると、二人をしっかりと抱擁した。
「うふふ…わたくし、お二人に大事にされているなぁ、って、ちゃんと分かっておりますわ。お母様やターシャにも。本当に幸せ者ですわよね。だから、もう一頑張りするお薬がキーランの魔術なんですの。わたくし、しっかり前向きに歩んでますでしょう?」
(この硬い壁を、どうしたら壊せるんだ!何故こんなに『まやかし』を信じてしまったんだ…)
(誰の目にも写るものが、この子の目にだけ映らない…頑なな自己否定は、家族の愛情位では壊せないと言うのか…)
父と兄のやるせない傷みは、まだマリエルに届かない―――。
だんだんマリエルが闇落ちバカ、な子になってきたような…
タグからほのぼのを外すべきかも…
思ったよりマリエルちゃんの闇が深くてですね、なかなかほのぼの可愛いに行ってくれなくなってきました。
あれ?
父と兄も可哀想になってきてるし…
あれれれれ?




