今日、婚約破棄、してきました
ウィルフォード公爵令嬢マリエルの趣味は『婚約破棄』。
もちろん彼女なりの理由があるのだが、兄友の魔導師キーランに協力してもらって、魔術を使ってズルをしてまでこぎ着ける婚約を、自ら壊すというのが彼女の趣味。
何故、彼女はそんなことが趣味になってしまったのか?
マリエルは何処に向かってるのか…
「この辺りで、終わりにいたしましょうか…」
「では、やはり…」
「ええ、婚約破棄をいたしましょう。今までありがとうございました」
ベンチに座り一息ついた途端、ウィルフォード公爵令嬢マリエルは、しっとりと別れを切り出す。
初夏に近い日射しは、公園に集う人々に容赦なく強い光を降り注いでいるが、大きな木陰のベンチにいる二人は春の名残の爽やかな風すら感じる。
しかし、その中での言葉は『婚約破棄』だ。全く爽やかではない。
元婚約者であったベルビュー伯爵家次男ラグノールは、葉陰の出来た地面を少しの間じっと見つめ、スッと息を吸い込むと勢い良く嘆き出した。
「嫌です。何故終わらせなければならないのですか?私には納得できません!お願いです、考え直して下さい!私には貴女しかいないのです!」
「とんでもない!ラグノール様ならばどんなご令嬢でも来てくださいますわ…」
「いませんよ、そんな方は!私は貴女が…マリエル嬢がいいのです、お願いします!もう一度だけ、考え直して頂けませんか?貴女のお気に召さない事は直します。ですから、お願いですからもう一度だけ!」
どちらかというと気弱だったラグノールの、今までにない強い食い付きにマリエルは少し驚いた。
「…ラグノール様…」
まるで三文芝居の愁嘆場のようなやり取りが続き、最後にフッと下を向いたマリエルは、ラグノールに見えないよう満足げにニマっと笑った。
それから見事な睫毛を震わせながら顔を上げ
「…ごめんなさい…でも、もう…もう…無理なんですの…どうか、わたくしの我儘をお許し下さいませ…ラグノール様にはわたくしよりももっと素敵な方がいらっしゃいますわ、必ず。わたくしが保証致します!」
「…本当に、もうダメなんですか?」
「…お許し下さい…」
二人の間に暫しの沈黙が流れ、ラグノールは意を決したように口を開いた。
「分かりました。ここは潔く諦めましょう!しかしマリエル嬢、最後に私の至らぬ点を教えては頂けませんか?貴女の教えを受けて今後を改善したく思うのです。」
「まぁ、そんな…わたくしこそ至らないことばかりでしたもの、ラグノール様にそのような事を申し上げるなど出来ませんわ。」
マリエルは柔らかく持ち上げた指先をクルリと返し、手の甲で口許を隠すようにすると、同時に瞼をそっと伏せ、頬に長い睫毛の影を作る。
その儚げな仕草や手指の細さは、見せつけられた男ならグッとこないものはない美しさだろう。
例え芝居がかっていても。
「いえ、マリエル嬢。そんなことは言わず、どうか教えて下さい!貴女のような方と縁を結ぶことは今後は、もう無いでしょう。しかし、せめて貴女とお付き合い出来た記念を私の胸に刻んでおきたいのです。どうか、最後の情けと思って…お願い出来ませんか?」
尚も懇願するラグノールは今やマリエルの両手を握り、すがりつく勢いだ。
「………、仕方ないですわね…」マリエルは軽く逡巡した後に口角をキュッと上げて滔々と話し出した。
「よろしいですか?まず、ラグノール様、この手をお離しください!」
「え、あ、はい!」キツい声音に、男の両手が顔の位置まで瞬時に上がる。
「お出かけの時など、エスコートとして手を差し出してくださるのはありがたいのですが、手汗!手汗が酷すぎます!こちらの手まで滑りだして、かえって転びそうになりますのよ?」
「あ、それは緊張で…つい」
「そうだと思っているからこそ黙っていましたの!でも、緊張から手汗が酷くなるのでしたら、まずは手袋を!手袋を必ずお付けになって、お相手に馴染んだ頃に少しずつ外していけばよろしいのです。そもそも、最初から素手とはマナー違反ですわよ?それに、手を出す回数も多すぎます!エスコートの時は男性の腕に女性が手をかけるのがマナーです!あれでは子供の手繋ぎですわ!」
「す、すみません…」
「それから、その謝り癖。それも何とかしませんとね、お相手の方が不安になるばかりですわ!皆様、わたくしのように気の強いご令嬢ばかりではないのですから!」
「すみ…あ、はい…」
ジロッと睨まれてラグノールは言葉を直す。
「お出かけの場所もですわね。たまにはご自分でお考えなさいませ!わたくしに行きたい場所を訪ねてくださるのも優しさからと存じておりますが、それではラグノール様の好みが分かりません。たまにはご自分の好きなものをお伝えになってお出かけされませんと、お相手の方との距離は縮まりませんわ」
「…はぁ…」
「結論から申し上げまして、ラグノール様、貴方の行動は女性に不安を与えすぎです!自信を持ってリードしてくださらないと、女性は安心して我が身を預けることが出来ませんわ!…婚約とは、これからの人生を共に歩むことが出来るか、を見極めるものですわ。もし政略だったとしても、相手の方に寄り添えるところはどこかを、お互い見付ける期間なんですのよ?お相手に不安を与えるのは一番ダメです!お分かり頂けまして?」
「…はい…それは…もう…」ラグノールは肩も丸く落としてしまい、目も当てられないショボくれようだ。
「それと、ラグノール様?」
「うぁっ、はいっ!」
自分から言い出したこととはいえ、まだ続くのか、と覚悟を新たに顔を上げると、目の前には元婚約者の光を振りまくかのような、優しく綺麗な微笑みがあった。
「マナー違反ではありましたが、街中で手を繋いでくださるのは…礼儀上してるのではなく、わたくしだけの為にしてくださってる感じがして…わたくし、嬉しく思ってもいましたのよ。」
と頬を僅かに赤らめながら、少しはしたないかしら、と小さな声で囁くマリエルに、振られたばかりの上、たっぷりダメ出しされたラグノールは、へこんだ気持ちもすっかり忘れてポーっと見つめていた。
(こりゃ、敗けだ。完敗だ。見とれるしかない。自分は何て人を婚約者にしていたんだ)と、心がグルグル駆け回る。
顔を赤くしながら頬に手を添え俯く公爵令嬢と、その令嬢を嬉しそうに、これまた赤い顔で見つめる伯爵令息は、『婚約破棄』したての二人ではなく、何処から見ても幸せそうな、仲の良いカップルにしか見えなかった―――
n番煎じの『婚約破棄もの』です?かな?だと思います。
ふと思い付いて、頑張って書いてみよう!とやってみたのはいいのですが、なろうも小説も全てが初めて、超初心者マークです。
どうか、ぬるーい目で見てやって頂けると助かります。
主人公だけでなく、私も何処に向かってるのか…




