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 時間として朝になるくらいであるが、空が明るくなるにつれ、地上の気温も上がりうだるような暑さが荒野を支配する。そのような過酷な場所で、前を歩く老婆が生活していることに男は少し驚いていた。だが老婆の足取りは、手に持つ杖が必要ないのではないかと思えるくらいにしっかりとしたものであった。

 見た目以上に彼女は老いていないのかもしれないと、男は考えた。


 荒野を歩くと、そこは砂漠と違って高低差が大きいことに気づく。緩やかに下り、そして上り、道無き道を歩いて、やがて男と老婆は巨大な岩々が鎮座する場所に辿りついた。


 その岩々は、太古の巨人が寿命を終えて朽ち果てた様に似ており、その巨大さの前で人々は畏怖の念を起こすほどの物であった。しかし、老婆はその巨大さを畏れてはいないようであった。なぜなら、赤土に似た色をしているその岩々の根の一つに老婆の宿営が設けられていたからだ。

 宿営の近くには、何体かの家畜が足を折りたたんで寝そべっていたが、男と老婆が近づくと警戒したように立ち上がって足踏みをした。


 人が畏れて寄り付かないような寂しい場所に、なぜ老婆は独り住んでいるのだろうか。それは男には分からない問いであったが、褪せた色をした宿営の外布を捲って中に入ってみると、人から哀れに思われるような生活を送っているのではない事が分かった。


 暗い宿営の中にあって、男の肉体から発せられる光が空間を満たす。使い込まれた絨毯に炎で変色した調度品、壁に吊るされた干し肉と、土の器、使い古された弓。狭いように感じるが独りで生活するには十分な広さと、快適さがそこにはあった。

 干し肉や弓もあることから、老婆はもしかして狩りをするのかもしれない。もっとも、荒野において獲物がある程度捕れるかどうかは分からないが。

 

 老婆は絨毯に座り込むと、杖で地面を一つ、二つと叩いて男にも座るよう令した。


「あんた、不思議な身体をしているねぇ。わたしは人ではないものを招き入れてしまったのかい?」


 胡坐をかいた男が喋らないことに、老婆は鼻を鳴らしてせせら嗤った。


「まあいいさ、若い娘のように五月蠅くされるよりはましさ……だがあんた、あんたは招かれざる客だ。この死にかけの家においても荒れ地においてもさ」

 

 そう言いながら老婆は隅においてあった箱を引き寄せた。蓋を開いて中から取り出したのは、幾色かの毛糸で織り込まれ、それが細かな模様となっている丈夫な外衣と、宿営の壁を囲う布のような、暗い土のような色をした腰履きであった。これらを着るようにと、老婆は男にあてがう。

 依然として足は裸足のままであったが、男の恰好は裸でいるよりは真面(まとも)に見えるようになった。


 さらに、男の肉体が帯びる光は老婆の目に優しいものではなかったが、外衣を着ることによって男の発する光が隠された。そのようにしてやっと、老婆は男の顔をしっかりと見ることができるようになったのであった。

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