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 意識を取り戻したとき、男は“歩き続けなければならない”という考えに囚われていた。

 

 なぜそう考えることしかできなかったのか。男は理由を考えることができずにいた。それは目的を失い、手段だけに縋る愚かな行為かもしれない。しかし、男は果てしない砂漠の砂を掻いて立ち上がり、男は一歩、そしてまた一歩と日に照らしつけられながら足を動かした。


 さて、男の外見は酷いものであった。壮年の肉体は哀れなほどやせ細っており、皮膚は乾燥してひび割れ、さらに爪はところどころ欠けていた。身にまとうそれは衣服とは呼べない代物で、ほとんど半裸であった。しかしその目だけは黄金に輝いており、一切の恥を捨てて世界を睥睨していた。


 歩き続けているうちに、男は自分の身体が熱を帯びていることに気が付いた。その熱は太陽に熱せられたものではなく、肉体の奥から湧き出るものであった。熱は次第に強くなり、やがて全身から蒸気が吹き上がり、皮膚は段々と赤くなりつつある。さらには足の裏の砂が溶解するほどになっていく。


 熱に煽られて、男の周りで陽炎(かげろう)が蠢く。足場が溶けてしまうため、うまく歩くことのできない男は、両手を地面についてしゃがみこんだ。しかし、その手も赤く発光して地面を溶かしてしまうために、男はさらに体勢を崩して地面を転がった。

 男は熱に焼かれ、陸にうちあげられた魚のように苦しみもだえた。男が悶える度に、溶けた砂が皮膚に纏わりつきガラスの糸を引く。なす術もなく、男は世界を覆う蒼い空をみあげながら声なき悲鳴をあげた。


 いよいよ死を覚悟したその時、男は自身の熱を制御する方法を思い出すことができた。男が身を捩りながら全身の熱を鎮め始めると、赤い光はうねるように身体の内側へと戻りだす。

 そのようにして、男は自分の奇妙な体質を制御することができるようになったのだが、男の外見はさらに哀れなものになってしまった。皮膚はところどころ炭化し、砂が溶けてガラス質になったものが斑模様となっている。さらに髪や髭、睫毛はすっかり焼け落ちてしまった。


 それでも男は再び立ち上がり、歩き続ける。


 夜になり陽が落ちると、男は自身の身体が火を抱いた炭のように光っていることに気が付いた。特に男の胸部、心臓が脈打つその度に、暗い世界に光を灯す。


 そして、地球上の宇宙(そら)を這うように飛ぶ機械が、その脈打つ光を無表情に捉えていたのであった。


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