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"強化蘇生"  作者: ハヤサマ
強化蘇生【リバイバル】
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5 . 黒貂之裘のリーサルウェポン

こんばんは、ハヤサマです。

第五話です。

よろしくお願いします。

深い海の中を泳いでいる感覚。

不思議と息は苦しくない。

ゆらゆら。

むしろ緩やかな潮流が心地良いとすら思える。

ぬるい、ぬるーい海。

ゆらゆら。

奥の方に白い光が見える。

この水の世界の出口みたいだ。

あれはなんだろう。



 でも気持ちがいいからどうでもいいや。











 ゆらゆら。








〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ーーーっはぁ!!?」


 タツトは目を覚ますと同時、弾かれたように身体を起こした。その表情は愕然一色に彩られている。つい先ほどまで遭遇していたはずの、人智を越えた超常の化け物に出会った記憶が鮮明に残っており、意識が覚醒した瞬間にそれを思い出したのだ。


 無理解と混沌に脳が思考停止しそうになる。


 一体アレはどういう存在なんだ? 意思はあるのか?あるとしたら、なんで急に現れて、吐瀉物を撒き散らしたんだ? 意思がないとしたら、誰がアレを動かしているんだ? 目的は? というかあれは死ぬのか?なんで僕を見ていたんだ? あの異常なスピードはどこから生まれているんだ? 首から生えていた気色悪い触手はなんなんだ? あの悍ましい吐瀉物は何で出来ているんだ? あそこはどこで、なんで花を摘んだ瞬間に空気の色が変わったんだ? 空気の色の変化とあのカオには何かしら関係があるのか? そもそも、あれは夢だったんじゃないか?



 疑問が疑問を生み、タツトの脳内を堂々巡りする。何分、手掛かりが全くないので全く見当が付かない。それでもなお、タツトには一つだけ、あのカオの化け物に関しての確信があった。



 曰く、恐らくアレは、万物を司る神々すら喰らう超常の化け物。


 曰く、恐らくアレは、倫理を超越したこの世の理不尽そのもの。



 何故そんなことが分かるのかと聞かれれば、「見れば分かる」としか言いようがないのがアレだが、タツトの本能の部分、その直感があの化け物は絶対に手を出してはいけない、そういう存在だと告げていた。


 触れてはいけない禁忌。そんな単語がタツトの脳内に浮かぶ。あのカオについては考えること自体、関わること自体が間違っているのだ。こうして今、“考えてはいけないと考える”ことすら許されない。生物としての格が違いすぎる。


 幸か不幸か、カオの化け物の吐瀉物に衝突した際には特段痛みなどの苦痛を感じことはなかったので、自分がどうしてここにいるのかわからない。ゲロで視界が埋め尽くされたと思ったら、気付いたらここにいたのだ。


「死んだのか?僕は......」


 この状況を鑑みると、実際そうなのだろう。だが実感がほとんど沸かない。衝撃や痛みの一つでもあれば多少納得することができるのだが、“死んで天国的な場所に来た”というよりは“急に瞬間移動した”そんな感覚の方がよほど近い。


「仮に死んだとしても、異世界に飛ばされた直後に馬鹿でかい顔にゲロられて死ぬとかどうなんだよ......」


 心中察するに余りある死に際である。世界広しと言えどもここまで不可解な今際の際を体験した人間はおそらくタツトだけだろう。


「というか、なんか首の後ろの方が痛い。」


 徐々に冷静になってきたタツトは、首の裏辺りが軽い痛みを訴えていることに気が付く。


 見ると、タツトがさっきまで転がっていた地面は硬い岩盤で出来ており、そこで意識を失っていたために寝違えてしまっていたようだ。



「はー、これはまた、とんでもない光景だな。」


 タツトが居たのは、切り立った崖の頂上だった。恐る恐る端の方に近づき、頭だけを出して崖下を見下ろすと、かなり下に岩場が見えたので標高凡そ1000メートルあるかどうか、といったところだ。先ほどから息がしにくい気がするのは、空気の酸素の含有率が【花畑】より僅かに低いためか。

 近辺にはどこまでもどこまでも黄土色の崖やくすんだ灰色の岩が続いていて、「この世界はこんな極端な地形しかないのか」と半ば呆れていたところだった。




ピコン。




◁◁【強化蘇生(リバイバル)】を行いました。各ステータスの強化と、【復活報酬(リバイバルアイテム)】がドロップされます▷▷


唐突に、脳内にそんな言葉が響いてきた。更に、




ガコン。




「おっと?」


 背後で金属を硬い地盤に落としたような鈍い音がしたので振り返ると、そこには縁などの細かいところまで見事な装飾の施された豪華絢爛な【宝箱】が出現していた。


「お?おおおおぉ......」


 更に更に、タツトの身体中に赤みがかった橙色の光が纏わりつき、シュウウウゥと蒸気のような音と共にタツトの体内に入ってきた。

 全ての光がタツトの体に入り込み、血が急速に体を駆け巡るのを感じた。


 すると、体が異様に軽くなり、頭の回転もクリアになった気がした。不思議と首の痛みも消え、急激に強くなったような全能感すら感じる。


「なんか、初めて異世界っぽいことが起きたな。」


 何度か手を握ったり開いたりしていると、握り拳に込められる力の最大量が明らかに上がったのが分かった。


「それと......あとはあの宝石やら何やらでゴテゴテした宝箱だな」


 不自然に出現した眼前の箱を訝しむが、


「何にせよ、開けてみないことには始まらないか」


 羽根のように軽くなった足取りで【宝箱】のもとへ近寄り、箱を開けて中身を確認する。罠の可能性もあったが、そんな可能性を考慮せずに開けてしまった。何か不思議な力がはたらいているのかも知れない。


  中身は1本のナイフだった。


 柄の細部に至るまで細やかな意匠が凝らされており、刃の部分はぬらりと妖しく輝いていて、まるで水に濡れているようだ。持ち手を握ってみると、驚くほど手に馴染む。指先だけで、柄の表面の凹凸がどのようになっているか手に取るように分かり、自分の体の一部になった気がした。


 試しに軽く振ってみる。


「ほっ!」


 ブンッ!


 ズギャギャギャギャギャギャズガアアアアアアアアアアアアアン!!!


「...........はい?」


 タツトは硬直した。ナイフを降った瞬間、空を切ったはずのそれから剣旋が迸り、そのまま地面を深く裂きながら飛んでいき、前方にあった岩の壁を冗談のように切り刻み、瓦解一歩寸前というところで勢いが止まった。


 ありえない。


(斬撃の出る短剣なんて漫画の世界のそれじゃないか)


 しかも、軽く振るっただけでこれだ。謎の光を取り込みパワーアップした今の状態で全膂力をもって振り抜いたら一体どうなってしまうのだろうか。考えたくもない。


(序盤からわりといいナイフをゲット出来た感じってことか。幸先いいな)


 実はこのナイフ、【空虚と否定の短剣(イミディナイダガー)】という、過去の遺物とされるとんでもないレアリティを誇る神話(ミソロジー)級の武器なのだが、異世界に来て間もないタツトはそんなことを知る由もなく、このチートレベルの武器に対しても、“やたらとよく切れるナイフ”というレベルの感想しか持っていなかった。


 因みに余談ではあるが、この世界の武器や防具、道具などのレアリティは6段階で計られている。




 【夢幻(ファントム)級】・・・たった一つでこの世界のゲームバランスを破壊する、全てがイレギュラーな存在してはいけない禁忌の武具。次元や距離など、あらゆる概念に干渉する。



 【神話(ミソロジー)級】・・・かつて神々が使っていたとされる、遙か昔にのみ存在した先史遺産(ロストテクノロジー)とされる武器や防具。歴史上ではこの武具を手に入れた国家が世界を制服してきた。



 【伝説(レジェンダリー)級】・・・世界を救った伝説の勇者が使用していたとされる武具。履いて歩くだけで傷が癒える靴や、身につけるだけであらゆる魔法を防ぐネックレスなど、不思議な効力を持つものが多い。



 【最高(ハイエンド)級】・・・人の手で作る事が出来る限界の品質だといわれる武具。世界に数人といない伝説の鍛冶師や錬金術師にしか作ることが出来ない。



 【上位(プライマリー)級】・・・名うての剣士や王国直属の騎士が装備している武具。鋭い切れ味のレイピアや、魔法のダメージを軽減する盾など、市販の装備とは一線を画す能力を持っている。



 【普遍(コモンズ)級】・・・一般職の冒険者が主に扱っている武具。特別な効果はほとんどないので基本的なことしかできない。武器防具屋で購入可能。




 とどのつまり、タツトは世界のあらゆる武器や防具などの内、二番目に貴重で、強大な力を持つ武器を手に入れてしまっていたのである。

 にも関わらず、“異世界だからこんなモノなのか”という謎の理屈により、「良い武器が手に入った」ぐらいにしか思っていない。


 その価値を知らない者に高価なものを与えることを“豚に真珠"などと言ったりするが、“豚にマシンガン”とは、ある意味大変危険だ。下手に真珠なんかを与えるよりもよっぽどタチが悪い。


 後に【空虚と否定の短剣(イミディナイダガー)】の詳細を知って愕然とするタツトの表情は大変面白いことになるのだが、それはまだ先のお話である。






「ん?あれは......洞窟か?」


 持ち手の部分をニギニギし、感触を確かめながら辺りを見回すタツトは、いつまで経っても代わり映えしない黄土色の風景の中に、その深奥へと誘うように魔性の香りを漂わせる洞穴を発見する。あまりに崖と岩しかないため、そこだけ異次元のようにぽつん、と浮いてしまっている。



「んー、何か手掛かりがあるかもしれない。入ってみるか。」



 この洞穴に入って中を探索する以外に特別出来ることがなかったのと、急激なステータスアップで冷静さを失ってしまっていたことが合わさり、タツトは【神話(ミソロジー)級】の短剣を片手に、無限に連なる崖の一角に()()()()存在している洞窟に、深く考えずに足を踏み入れてしまう。






 更なる絶望が口を開けて待っているとは知らずに。






読んでいただきありがとうございます!

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