幕間 電飾街道のラプソディ
こんばんは。28話です。一章完結です。
よろしくお願いします。
「......―――どっっへええぇ〜」
間の抜けた、驚嘆混じりの声を漏らしながらあんぐりと口をあけるのは、唯の親友にして、彼女のタツトへの恋心を知る美琴だ。
「......いつもなら、そんなおっさんみたいなリアクションをとるなって言いたくなる場面だけれど、この光景を見たら仕方ないって思っちゃうわね」
「すっげぇ......。 なんかこう、男心的にクるものがあるな。 ちょっと、いやかなりワクワクしてきたんだが」
「これは......すごいわね。夢とかじゃないかしら」
「僕たち、本当に異世界に来てたんだな。 これを見てやっと実感が沸いてきたよ」
いまだに開いた口が塞がらない美琴の後ろに並んでぞろぞろと歩く彼らは口々に感想を告げる。前から唯、真之介、千里、龍二の順だ。
「すごいよ唯ちゃん! リアル中世だよ唯ちゃん! 武器屋とかあるよ唯ちゃん! 馬車も通ってるよ唯ちゅあだっ!」
「こら、はしゃがない。 後静かにする。 私たちは
追われる身なのよ、万が一捕まったら、きっと殺されちゃう」
神経が通ってるのかと思うほど器用におさげ髪をピコピコさせて嬌声を振りまく美琴に、唯が脳天チョップで諫める。
―――そう、彼らは今、アルンセリア王国の城下町を歩いているのだ。――勇者の歓迎会を抜け出して。
無論、それを許すはずもないハワード率いる王国側であるが、捜索に入る前に金的ヤクザキック×5を食らったハワードの容態を確かめるのに時間が掛かるだろうという千里の読みだ。それでも念を入れて唯たちは身を隠すための衣服を一式買い揃え、町民に紛れて移動中なのだ。
どういう仕組みかは分からないが、歓迎会にある料理や酒類を口に入れた生徒達は皆、洗脳状態となり、ハワードを妄信的に信仰してしまっている。自分たちが勇者となり、魔王を倒すのだ!と王国のために身を粉にする心構え。そんなの到底理解の出来ない唯たちは、ハワードに扮した真之介を囮にし、その間に王宮から脱出したというわけだ。
因みに、唯たちの他にも、王国の出す食べ物を食べなかった聡明な生徒が何人かおり、あまり大所帯で動くとバレやすいために二手に分かれて行動中だ。しかし、全員同じ格好でコソコソ移動する団体もそれはそれで怪しいのだが、そこは高校生。彼らもまだまだ若いということなのだろう。
今現在、時刻は二時十五分。四時までに城下町の入り口集合と、もう一班に伝えてある。それまでに各自必要なものを買い揃えたり、情報収集をしておかなければならない。
「―――それにしても、良かったね唯ちゃん。 憧れのタツトくんの無事が聞けて」
「こら、茶化さない。 でも良かったわ」
美琴が、二人にしか聞こえないくらいの小声でそう言うと、唯に頭をぐりぐりしながら制された。しかし双方笑みを浮かべている。
そう、ハワードの従者にタツトの処遇を含めたいくつかの質問をし、既にある程度の疑問は解消させているのだ。
曰く、召喚の際の手違いでタツト一人だけ召喚できなかった、とのこと。かといって別の場所に召喚される訳もないので、恐らくは無事――つまりは日本に一人取り残されているということらしい。
(―――本当に、良かったわ)
「お、あそこに道具屋があるぞ。 ちょっと入ってみようぜ」
「行く行く! 便利な物があれば買ってこう!」
「はぁ......。 最初に従者の人からもらったお金ももうそんなに残ってないのよ? ホントに必要なものだけ買うんだから」
そういってやれやれ顔をする唯も、内心ワクワクを抑え切れないでいるが、それも無理のないことである。見たことのない石で出来た通り、夜になったら点くであろう不思議な形の電灯、噴水、レンガの家、活気溢れる町人、武器を持つ冒険者、魔法使い、竜車。日本の高校生が舞い上がるには少々オーバーすぎるほどのラインナップだ。
照りつける太陽の下、あちらこちらで商売が繰り広げられている。どうやら商い通りに来たようだ。その一角にある道具屋に、興奮気味に入店した真之介に追従するように、一向はその暖簾を押し上げた。
「わぁ〜っ、すごいっ! 薬草とか毒消し草って、本当にあるんだね!」
「......やばい、泣きそう。 琴線が刺激されまくってる。 さっきの防具屋で見た鎧とかもそうだけど、薬草はアツすぎる」
「これ、説明文のところに『HPを30〜回復』って書いてあるけど、僕たちにもステータスがあるのか?攻撃力とか」
「HPとか攻撃力とか、まるでゲームの世界ね......」
十数畳間ほどのこぢんまりとした店内で、ギシギシとセピア色の木の床を踏み鳴らしながら、各々商品を見て回る。一見乱雑に置かれているように見えるが、その実用途ごとに配置する棚が分かれていたり、簡素ではあるが手書きの説明文が書いてあるなど、細かい配慮の利いたレイアウトだ。
雰囲気を演出するためか、薄暗い店内の隅にはいくつか、薄地のフェルトの内部に発光性の魔法石を仕込んだものが置いてあり、間接照明のような役割を果たしている。そんなところにも「異世界だなぁ」とそぞろ感慨を抱いていると
「すみませーん! これください!」
美琴が、いいものめっけ!といった表情で、店内奥のカウンターにいる、白髭を貯えた上背の大きな老人に、鍵を持った女性を象った、小さな彫像を手渡しながら言った。
大きな老人だった。185、いや190cmはあるだろうか、そのせいで店員の印として着る可愛いエプロンがヤケに不自然に映るのが印象的だった。かつてはかなりやり手だったのが窺える体つきをしているが、そのガタイのわりには温厚そうな、朗らかな雰囲気を纏っている。
老人はその予測を決して裏切らない柔和な顔付きを見せながら、美琴に応えた。
「あいよ、これ一個で80ゴールドだよ。 見たところあんた方この町は初めてのようだが、旅人さんかい?」
「あ、えと......」
「――そうなんです。 遠いところから来たので、この辺りのことについてまだあんまり詳しくないんですよ」
「そうなんかい、ワシも歳だけは食うとるから、この辺のことなら力になってやれると思うぞい。何か分からんことがあったら、聞きに来るといい」
毎度のことではあるが、ここでも唯のナイスフォローが炸裂する。追われの身であることがバレずに済むばかりか、体のいいガイド役までゲットしてしまった。
「あ、じゃあ早速なんですけど、この薬草とかの説明文にある『HP』っていうのはどういうことなんでしょうか?」
「なんじゃ、あんたら旅人のくせにそんなことも知らんのか?ギルドに言って冒険者登録すれば“ステータスカード”っちゅうのが貰えるから、詳しいことはそこに書かれてあるわい」
「そうなんですか、その“ギルド”へはどこに行けば?」
「店を出て、商店街を抜けた先の突き当たりを右に、真っ直ぐ進めば見つかると思うぞい。 何せ大きな建物だからなぁ。 あぁ、折角だからこの街の地図をやろう。 本当なら20G取るところなんじゃが、お嬢ちゃん達可愛いからね」
「ひっ!?」
「可愛い」の言葉に美琴が小さく悲鳴を上げる。未だに王宮であった事件のトラウマが払拭しきれていないようだ。男性に異性として見られることにアレルギー反応が出るようになってしまった。
美琴から見ればネットリとした視線を目の前の美琴に注ぐその表情は、かのロリコン大帝ハワードを彷彿させんとする勢いだ。
「あっありがとうございます! それではさようなら!」
ズダダダダ!ガシッ!
「あっちょっ、美琴!? 俺もまだ買いたいものがあるんだけど」
「おい原田っ、ッなんなんだよこの握力は!」
恐怖した美琴が、未だにキラキラした目で道具屋を
物色していた龍二と真之介の襟首を掴み、ずるずると引っ張っていく。
千里も物珍しそうに薬品などを見ていたが、美琴の挙動を察した唯が何やら声を掛け、老人をちらと見て嫌そうな顔をすると、二人でそそくさと出て行った。
「......ワシ、何かしたんか? そんなつもりじゃなかったんだが......」
情けない声は、小さな店に悲しく響くだけだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
一向は、老人の言ったことを唯づてに聞き、『冒険者ギルド』に向かっている最中だ。
「―――やっぱりあるんだね......ステータス」
「なんだ、原田は嬉しくねーのか? そういう数値があると俺は俄然やる気出てきたけどな。」
「いや、真之介くんは多分ステータスも高いんだろうけど、私は絶対一桁とかだからちょっと心配になっちゃうな......」
「お前、それはテストの点数の話だろ」
「な、何を言うかね! 私は国語はいつも30点とかあるんだよ!」
「赤点じゃねーか。 じゃあ英語と数学はどうなんだよ。」
「う......8点とか?」
「一桁じゃねーか。 まあ俺もそこに関してはあんま言えないんだけどさ。 ほら、本郷がいるし」
「ん、何か言ったかしら?」
「「いや、何でも」」
「そう? ならいいんだけど」
容姿端麗、頭脳明晰な彼女、――本郷千里にはどうしてか、他人を寄せ付けない冷たさがある。それを差し引いてもあまりある圧倒的なスペックに隠れファンも多いが。
千里としてはもっとみんなと和気藹々と話をしてみたいと思っているのだが、彼女の場合、先天的なそれ由来の冷たさなので、己の背負ってしまった宿命に半ば諦めかけているところなのだ。
「みんな、ギルドが見えてきたぞ。 王国側の人間もいるかもしれない、気を引き締めていこう」
「そうね、気を付けていきましょう。 美琴、特にあなたよ」
「がってんしょうち!」
先ほどから空気気味な龍二だが、ギルドが見えてくると、ここぞとばかりに皆を牽制した。唯、美琴が一応は追従するが、他の二人は頷くだけだ。
龍二は一見大きな人望を抱えているように見えるが、実のところその多くは空気感に飲まれて単に迎合しているだけの生徒たちで構成されていたりする。人の芯を見る唯たちには、その人柄はあまり響いていないというのが実情だ。
無論、エゴに寄りがちな龍二にはみんな自分を信頼しているものだと信じて疑わないが。
雑談を交わしながら歩き、ギルドに辿り着いた一向。龍二が木張りの大きな扉を押し開けると、中に広がっていたのは―――
―――受付やスタッフがポツポツと数人いるだけの、閑散とした広間だった。
「ん〜、なんか思ってたのと違う......?」
「何かあったのかしら、受付の人に聞いてみましょう」
石造りのギルドは二階建てになっており、階上へ続く階段が入り口から見て両端に二つある。その間に作られた木造の受付窓口に、「受付嬢」と書いた名札をつけた、四十路あたりのおばさんがいた。
「受付“嬢”......?」
「なんだい、あんたら。 私が受付嬢じゃ悪いかい」
「いや、わりーってことは無ぇんだけど、そうかー。俺の守備範囲外だへぶっ!?」
「真之介くん......?」
「いえ、何でもないです。すいませんした」
眼前のマダムを見た、真之介の失礼な言葉を、美琴がグーパンで封じ込んだ。
「失礼な子だね。 改めて、あたしはここで受付嬢やってるクラリッサだよ。 他の人からはマダム・クラリーって呼ばれてるかね。 このギルド今はみんなクエストに出向いてて人が少ないけど、いつもは人でいっぱいなんだよ」
「クエスト?」
「そう、クエスト。 ここから西にある港町、“ポートセルミ”の近辺に出た“アビスドラゴン”の討伐で冒険者は皆出ずっぱりさ。 何しろ報酬が莫大でね。 ドラゴンを討ち果たした者には、と莫大な金額に付け加えて、勇者の武具まで与えられるそうだよ」
「勇者の武具......アツいな」
少年が好みそうなワードの登場に、真之介が即座に反応する。
「吉田くん、私たちは冒険者登録をしにきたんでしょ。 それにここももう、訪れることはできそうにないし」
「そうなんだよなぁ〜」
ハワードが復活し次第『WANTED!』になるのが明白な真之介たちには、仮にクエストを果たしても帰ってきたところを御用となるのが目に見えている。せめて別の町に移動してからクエストを受けたいところだ。
「おや、冒険者登録かい? それなら今すぐにでもできるよ。 一人100ゴールドだけど、やっていくかい?」
「結構取るんだな。 みんな100ゴールド、持ってるよな」
「おう」「えぇ」「あるわ」「......」
「え、まさか原田さん」
「うぅ......龍二くん、ごめんなさい。 これ買っちゃったから後60ゴールドしかないです......」
そう言って美琴は申し訳なさそうな顔をしながら、おずおずと女性の彫像を取り出す。
「それは......! どこで手に入れたんだい!?」
「え? これですか? この町の道具屋さんで買ったんですけど......」
「あのジジイか......。なるほどね。 お嬢ちゃんそれはね、この国の宗教――グレイス教の女神様、ミカエル様の象なんだよ。 恐ろしく高価な物だから、あまり人に見せない方がいいよ。特に異教徒には。 お嬢ちゃんかわいいから、きっとサービスしてくれたんだよ」
「そ、そうなんですか......」
脳内ににこやかな老人の姿が思い浮かぶが、帰り際のことのせいで、些か殴りたくなる。悪い人ではないのは確かなのだが。
「まあ、いいさ。 あのジジイが気に入った人なら、悪い人間じゃないだろうからね。 お嬢ちゃんだけ60ゴールドでいいよ」
「本当! ありがとうございます!」
感謝の表現なのか、美琴のおさげがピンピンする。
「いいってことさ。 さ、この紙に手を翳しな。」
そう言いながら、クラリッサは美琴に藁色をした、革製のシートを差し出す。本当に気の良い人なのだろう。そのどっしり構えた笑顔には、何か人を安心させるところがある。さしずめ、冒険者たちのオカンといった感じだ。
「っと、こうですか?」
「うん、そのままじっとしてな。............はい、オッケーだよ。 それはステータスカードといってね。嬢ちゃんの今のステータスやスキルが確認できるものなのさ。 無くしてもまた発行できるけど、人に取られたら悪用されかねないから、その彫像もそうだけど、気をつけるんだよ」
「はい! 本当にありがとうございます!」
美琴もクラリッサが信頼できる人だと感じたのだろう。感謝の籠もった満面の笑みで礼を伝えて、手元のカードに視線を移した。
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名前:原田美琴
年齢:17
性別:女
種族:人間
レベル:1
職業:
職業レベル:
HP:153
MP:242
ATK:26
DEF:43
AGI:102
MATK:53
MDEF:56
スキル:俊足 [+逃げ足]・泥棒
固有スキル:【盗むの極意】
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「えぇ〜、泥棒って......」
「お、ちゃんと登録できたみたいだね。 見ても良いかい?」
「あんまり見せたくないけど、どうぞ......」
“泥棒”、“盗む”というワードが気に食わなかったのか、不満げな表情を隠そうともせず、美琴は半ばヤケ気味にステータスカードを手渡す。
「どれどれ............――――――」
クラリッサはカードしばらく眺め「見間違いかしらん?」と何度も目を擦った後、卒倒もかくやというあだ勢いで、その顔を驚愕のそれで彩りながら絶叫を上げた。
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一章完結になります。
ちょっと休憩します。
二章投稿はまだまだ先になると思いますので、のんびりとお待ちください




