19 . 普天率土のデスピアダド
こんばんは、ハヤサマです。
第19話です。よろしくお願いします。
「俺の記憶が正しければ、多分この辺に洞窟があったと思うんだけどな」
新たな【復活報酬】に関しての一連のやり取りを終えたタツトとクロは、以前タツトがメナシと遭遇した記憶を辿って、洞穴の在処を捜索していた。
タツトの左手首にはもちろん、黄金のブレスレットが装着されている。【岩場】の茹だるような太陽光を一身に反射してキラリと光るそれは、まさしく【アイテムポーチ(極)】そのものである。
「その話も些か信じがたくなってきたのう......何せ、かれこれ二十分はこうして探し続けておるではないか。にも関わらず、反り立つ崖と大きな岩以外の光景をまだ目にしてないんじゃがの」
「そうは言ってもなぁ、ここじゃそれ以外に特に出来ることがないんだから、仕方ないだろ。」
クロの言葉通り、二人はアイテムポーチについての会話の後、長い間タツトの言う洞窟を探していたのだ。それも、一度の跳躍で十数メートルもの距離を跨ぎながら連続してジャンプし続けるという人体構造を堂々と無視した移動方法で。
タツト達が硬い岩盤を蹴って跳躍する度にゴウン、と重たい地鳴りが響き、二人が一瞬前までいた場所には尋常でない力で巻き上げられた黄土色の砂塵が荒れ狂っている。
直後に、そこからまた遠くの方で同じような轟音が鳴り、その音の発信源から砂が舞い上がっているのが見えた。更に一拍後、かなり遠方の、ギリギリ視認することができる場所で砂塵が起きる。
そうして二人は冗談のような跳躍力でぐんぐん進み、【岩場】を股に掛けながら、かの洞窟を捜索する。
「こうしてみると、クロ、お前も俺に言えないぐらい
、チートじみたステータスしてんだな」
「うん?いや、こうしてお主のアホみたいな駆動についてこれているのは、別に我がすごいとか、そういうわけじゃないんじゃよ。前にも言ったかも知れんがな、今はこのような姿で顕現しておるんじゃが、実際には、我はお主を宿主とした精神体のようなものなんじゃ。【実体】の神の力を借りて世界に存在しておるもんじゃから、身体能力や成長、老化なんて概念ももともと持っておらんでの。」
大跳躍を繰り返し、目にも止まらぬ速度で移動しながらクロはタツトの質問に答え、さらにこう付け加えた。
「お主と一心同体となっておる我の能力は、お主のステータスに依存して決まるのじゃ。お主が強うなればなるほど、それに比例して我の力も大きくなるのじゃ。他に我のスペックを決定するのは、我の知識だけじゃな。魔法の扱いやスキルのノウハウといった、我が“実”としてこれまで蓄積してきた智見はそのまま使えるようじゃから、そこのみが我とお主の相違点というわけじゃ」
「......待てよ、それってつまり、俺よりお前の方が強いってことなんじゃないか。何だよそれ、チートすぎるだろ」
クロの難解な言い回しをなるべく手短に要約すると、宿主のタツトのステータスと、彼の中に本体が存在しているクロのステータスは共有されているということで、それはつまり、タツトが【強化蘇生】によってスペックを超強化されると、同時にクロも同じ分だけ強くなってしまうということを意味している。
なんとも、オンラインゲームでいうところの所謂“養殖”のような、甘い汁だけを吸われている感じが否めないタツトとしては、その不平そうな言い分にも納得できるものがある。
「うぅ、タツトよ、そんな“損をした”みたいな顔をするでない。別に、一概に我が強いとも限らんじゃろ。我の持つ多彩な魔法こそ、お主が今すぐに使うことはできんかもしれんが、お主の【復活報酬】の権能は我のそれを大きく上回るポテンシャルを秘めとるじゃろ。しかも、前向きに捉えれば単純に戦力二倍とも言えるしの。」
「まぁ、そう言われると返す言葉がないんだが......お?この辺の崖の作り、なんだか見覚えあるな。あの岩も、見たことある気がする。確か、ここを左手に曲がってだな............あ、あった」
「ほぅ、これはまたなんとも......」
風を切るように宙を跳んでいたタツトがふいにそのスピードを緩めて地面に着地し、眼前に悠然と聳えるように切り立った崖に隠されるように存在していた洞窟を発見する。わざわざその崖の左側にまわらないと見えない場所にソレはあり、まるでその存在を知られたくないという誰かの意図を孕んでいるかのように不自然であった。
最奥へと手招きして誘うような、明らかに危険な香りを漂わせている洞窟に流石のクロも訝しむが、対するタツトはあっけらからんとした様子で、ツカツカと入口に向かって普通に歩き出す。
「えっ、いやタツトよ、そんな何の警戒もせずに入って良いものなのか?めちゃめちゃ怪しい感じがしておるじゃろ」
「ーーあぁ、警戒はしてるさ。ただ躊躇する必要があるかと聞かれたらそうでもないしな。とは言ってもこん中にヤバいヤツがいるのは確かだから、そいつのことは道中で教えてやる。俺も一回殺されたしな」
「ええ......」
クロの忠告に一度は立ち止まったタツトだったが、そう言って振り返ると、また歩き出してしまった。クロがそれに眉を顰めて微妙そうな表情をしながらペタペタと、可愛らしいサンダルを鳴らして着いていく。
二人がその洞窟の中に入って、姿が見えなくなった後、【岩場】にはまた、生の気配を感じさせない、乾いたいつもの静寂のみが広がっていた。
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「......外が外なら、中も中じゃな。相変わらず見応えのない、何一つ面白くもない景観じゃ」
「それについては激しく同感だな。同じ光景ばっか見てると、なんか頭がおかしくなりそうだよな」
黄土色の、横幅の狭い洞窟の道を行く影が二つ。
一つは、つまらなさそうに歩きながら愚痴を垂れる「超」のつく美少女と、もう一つはダルそうに歩きながらそれに賛同する美青年だ。
クロがたまに暇つぶしのつもりなのか、黒色の可愛らしいサンダルの爪先で、洞窟の地面の砂をザクザク、と削りながら歩いている。そうやって動く度に、黒の天使のような袖抜きワンピースがフリフリと揺れている。
そんな仕草すらも一枚の絵画にしたくなるほど可憐な少女を傍目にしながら、タツトはひたすらに歩を進める。万が一、通路や罠を見落とさないようにするためか、その歩調は通常の速度だ。
上を見ても黄土色、下を見ても左右を見ても、前も後ろも黄土色。あるいは、“砂のトンネル”なんて洒落た表現をしたくなるような光景の連続に、前回同様ではあるが辟易を禁じ得ない。メナシの話に関しては既に説明済みだ。
二人は道中、そんな飽和した態度を取りながらも、周囲への警戒に関しては一切の余念がなかった。タツトはいつ敵が現れても即座に初撃を見舞えるように、【空虚と否定の短剣】の柄に手を添えたままだ。クロも、仕草こそ子供のように振る舞いつつも、その眼だけはゆらゆらと紅く輝いきながら周囲を睥睨しており、露ほどにも隙を感じさせない。
仄かに薄暗い、狭い洞窟の細道を、コツコツ、ペタペタという二つの足音をBGMにして、二人は渾々と歩き続けた。
洞窟に入ってからしばらくそんな状態で進んで、何十分か経ったころ、それまで黄土色ただ一色が独占していた洞窟内の風景に、突如として“別の色”が出現した。
「ーーっ!?」
「っ敵襲かのっ!!」
かつての【岩場】でのメナシとの遭遇と似たような状況に、咄嗟にタツトが身構えるが、目の前の物体が想像だにしていたそれとは全く別のものだと分かり、一応の安堵と、未知への猜疑の二つの感情がタツトの中に飛び込んでくる。少年の唐突な挙動に呼応するように身構えたクロも、詳細は違えど同じような心境であった。
ーーーそれは、緑色の物体であった。しかも、見るからに柔らかそうなぷるぷるした質感の物体。
四方1メートルもない体積に、明らかに貧弱そうな質感。全身一様に緑色で、体の節などが存在していない半透明の物体。
およそ、地球でRPGを多少なりとも囓ったことのある人ならば、こう形容するに違いない。
【スライム】、と。
「......なんか、俺今感激してるわ。テンプレモンスターとかやっぱ異世界にもいるんだな」
「......うむ、これは......スライムじゃの。それもごく普通の、どこにでもおるタイプのやつじゃ。ザコモンスター代表格の、ただのスライムさんじゃな」
いきなり現れた緑のぷるぷるした物体に、最初は「何なのか」と怪訝そうな表情をしていた二人だったが、今の一連のやりとりによって「あれはザコモンスターに違いない」という所感を互いに共有していたことが分かると、安心しきって目の前のソレに近づいていく。否、近づいてしまった。
「ーーぐわッ!!??」
その刹那、そこに佇んでいただけだったスライムがタツトの顔面に向けてピョン、と飛び跳ね、タツトの首から上に纏わり付いた。
長時間警戒し続けていたところに突然現れた「明らかな弱者」の存在に緊張が弛緩しきっていたタツトは、咄嗟にそれを避けることができず、スライムの突撃を顔面で受けることとなった。
また、警戒を解いていたとはいえ、【強化蘇生】によって異常なまでのステータスを誇るタツトがその初動を許してしまったのには、そのスライムが超人的否、超スライム的な早業で瞬きの間に飛び上がってきたのも要因の一つであった。
これといった骨格がなく、定まった形状を持たないスライムが、最も効率的に、最も確実に哺乳類を殺すことができる攻撃方法は、やはり窒息だろう。そのことを知ってか知らずか、スライムはタツトの鼻腔や口腔を粘液によって塞ぎ、果ては眼球にまでも浸食してくる。
「がッ、ぐふぅうぅッ!」
「タツトよ、しっかりするのじゃ!今すぐこやつを引き剥がしてやるからの!!」
藻搔くように暴れるタツトにクロが慌てて駆け寄り、纏わり付くスライムを引き剥がそうとする。
【強化蘇生】による飛躍的な能力の向上、それは無論のこと肺活量にも適用されるものであるため、今のタツトなら軽く二、三十分ほどなら連続して息を止めることができるだろうに、タツトのこの焦燥に満ちた反応は、それ以外に何か他の要因があるとしか思えなかった。
「くっ......!このっ!」
ぬるぬる、つるつると実体のないスライムを手で掴むことは如何せん困難を極め、クロの額から汗が滴り落ちる。その間にもタツトは力の限り暴れ回っており、それが更に引き剥がしの作業を難しくさせていた。
今のままではこの状況を打破できないと判断したクロが、首から上が緑の物体に覆われて藻搔くタツトから数歩の距離をとり、瞑目して何やら集中し始める。
「ーー神焔」
摂氏が高すぎてもはや神々しい白色にまでなった莫大な熱量を持つ焔の玉が、胸の前で祈るように両手を組むクロの前に現れ、タツトの方へゆっくりと近づいていく。
クロが顔を歪めながら汗をダラダラと流しているので、その魔法が極限の集中を必要としているものだと一目で分かった。
ーーー炎系神話級魔法【神焔】。【炎】に干渉することができる神、マゴスが編み出した炎系魔法究極の秘儀であり、今のところ【神領】を含めても全世界でクロしか使い手の残されていない魔法である。
対象以外に一切干渉することがなく、ただその対象のみを身の内から圧倒的な神の火力をもって灼き尽くす魔法であり、クロはこれを使うことでタツトに危害を加えずにスライムを焼き焦がせると考えたのだ。
神々しい白の焔がスライムに触れた瞬間、爆発的に燃焼し、緑色のスライムは一瞬にして蒸発してしまう。が、それに纏わり付かれていたタツトの方には一切飛び火せず、見事にスライムだけを燃やしきったのだ。
「タツトッ、タツトォッ!大丈夫なのか!?タツ......ト......?」
魔法の収束を終えたクロが倒れ伏すタツトの元へと駆け寄り、その体を細く真っ白な腕で抱き起こして顔を確認すると、
ーーーまるで強力な酸にでも溶かされたようにタツトの顔面は無残に爛れており、もとの容貌の面影は欠片も残っていなかった。
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