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第2話 始まりのあの日

やば!!!


朝目覚めた香織は部屋にある手作りの時計を見て目を丸くした。そして慌ただしくまだ健やかに眠っている母親のもとへと飛んでいく。

築50年の4回建てハイツでは2秒もしない出来事だ。


お母さん!起きて!起きて!!!!


香織が母親である千恵の布団をバシバシと叩きながら叫んだ。

眠りからゆっくりと覚めてきた千恵は薄眼を開け、んん…?と唸ったと同時に香織の焦る顔を認知し、それから今日は香織の高校の入学式である事を思い出した。


早く起きて!!寝坊した!!!


……へぇっ!?

意識がはっきりして自分が寝坊している事にいま気がついた。

いま何時!?


いまもう7時だよ!!7時半には家をでないと、入学式に間に合わない!!


と言いながら母親を起こし終えた香織は洗面所へ足早で向かうと歯磨きと洗面を始めた。


千恵は、はぁ〜。とため息を吐きながら起き、布団から出ると窓際に置いてあるその折りたたみ式のベッドをさっと片付けた。そして窓を開け、うわ!!雨じゃない!と言うとまた、はぁ〜〜〜。と長めのため息を吐き、洗面所へと向かった。


香織、今日はやっぱり雨だわ。

さすが雨女ね。


と顔についた石鹸を洗い落としている香織に向かって言った。


それ褒めてないから!!と香織が反論する。千恵はえ?なんて?聞こえなかった!と冗談に聞き取れなかったふりをした。呆れながら、もぉ〜。と香織が言うと、お前は牛か!!と千恵が歯ブラシを加えながら言うので、香織は、そうだもぉ〜。と軽く返した。

香織と千恵は確かに親子だが、香織にとって千恵は母親というより『誰よりも頼れる友達』という感じだった。

香織にとってはそれは嬉しく思う点であり、お母さんの子で良かった、この家の子で良かったと思える所だった。


それから2人は狭い家の中を競歩のごとく歩き回り 、7時半になるとき、2人の準備は整っていた。


靴を履いた千恵が叫ぶ。


よし、香織!行くわよ!

いざ!出陣!!


なぜだかテンションの高い千恵に対し、


なんで戦みたいになってんのよ、雨だから急がないと!自転車なんだから。


といつも通りの事だとスルーし、先に家を出て行く香織。

千恵は香織の兄である正人と浩司に7時半よ!起きなさい!と声をかけ、香織に続いて家を出た。


ガタンゴトン ガタンゴトン

びしょびしょになった真新しい制服のスカートを悲しく思いながら、香織は一生懸命髪の毛をくくり直していた。雨のせいでぼさぼさになってしまったのだ。一応、香織の入学した高校では髪の毛の長い者はくくらなければならなかった。香織の髪はもう少しで腰にまで到達しそうなほど長かったので、香織はその髪をお下げにして来たのだ。


もう、ほんと雨だけは勘弁してほしい!!

しかもなんで入学式なの!?…もう最悪。


電車に揺られながら千恵に文句を言う香織に対し、千恵は何がそんなに楽しいのか53歳とは思えないくらいの綺麗な顔で笑っていた。


電車に乗ってから約30分が経ち、もうすぐで乗り換えの駅に着こうとしているとき、突然の眠気に襲われた香織は抵抗も虚しく夢の中へと吸い込まれていくのであった。

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