第六十九話 獣王
新年一発目は獣王の毛むくじゃらのお話でどうですか!
唸った。
目の前に邪魔な獲物が立ちはだかっているので。
唸った。
竜王は、すでに消えていた。というより消されていた。あのチビに。
今までより更に低く唸った。
竜王の敵をとる。そのためには今、自分の目の前にいる栗色の髪の少年に牙を向ける。
「略、剣歯猫!!!」
何者も貫くかのように鋭くとがっている剣歯を見せ付け、八迫にゆっくりと歩み寄る。
「今度は、ライオンちゃんからちょっとお強いライオンちゃんか・・・。遠慮はしないからな!!!」
八迫は身近にあった橋の丸太を抉り取ると瞬時に加工して打撃力のありそうな棍棒に変化させた。
「俺はよぉ気があんまり長くねぇんだよ。どっちかってぇと短けぇほうなわけよぉ。それに加えて親友もいなくなっちまった。これはよぉ・・・。殺すしかねぇよな。やっぱり、殺すしかねぇよなぁ・・・」
言い終わると同時に獣王は自らの足で思い切り地面を蹴り飛ばし、八迫に飛び掛った。
飛びかかられた八迫は、自作の棍棒を構え、バックステップでかわし、降り立った獣王の頭部を叩く。
ひるんだ獣王は地面を蹴り上げ後ろに下がって前足で頭を抱えて唸った。
「うぅぅ・・・ようしゃねぇな・・・。ちっとは“手加減”してくれよなぁ・・・」
唸っている獣王の前に影を落とした八迫は囁いた。
「“手加減”って、何だろう?」
ほんの数秒考えるかのようなしぐさをした八迫が何か面白いことをひらめいたかのように顔を獣王のほうへ向ける。その顔は、何か面白い悪戯を思いついた子供の顔だった。
「分かった・・・。いたぶること・・・だよなぁ」
エグイ顔で笑った八迫は棍棒を思いっきり叩き殴った。
これが俗に言うたこ殴りだった。
「おらおらおらおらぁ!!!!還れ還れ還れ還れぇここは俺たち人間様の住み着いたわくせいだぁ!お前みたいな奴は地獄がお似合いだぁぁぁ!!」
八迫がエグイ顔のまま叫ぶ。殴る。叫び、殴る。
戦いが終わり、ほんの一、二分地面に腰を下ろしていた頃、その声は聞こえてきた。
紋太はその声の主が瞬間的に思い当たった。
「八…八迫だ…」
真っ青になった紋太が寄りかかっていた大木が突然へし折れた。度重なる戦闘による疲弊仕切っている紋太は大木ごと後ろに倒れる。
そして後ろに倒れた紋太の目に入った者は鬼だった。
とっさにその鬼から離れた紋太は震える手でトラベラーを構える。
「いきなりあってそれはないんじゃない!?ねぇ……」
次の瞬間、トラベラーからの銃声が聞こえた。そして銃声が途中でかき消された。
「づぐ!!あふ、おごる、まっす・・」
獣王はひたすら殴られていた。
「あっははははははははは!!!!」
八迫は一時も手を休めることなく棍棒を振っている。その顔はいまだエグイ。
「略、オサガメ!!!」
とっさに叫び、亀の中でも最大のものに変化した。
しかし、獣王は戦闘中に冷静さを欠いていた。
それに気づいた八迫は更にエグイ顔で獣王を見下す。その顔を見た獣王は、自らの姿に恐怖しているの違いないと確信し、八迫を見て笑う。
「恐怖で喚けぇい!!!世界最大の亀の力を最後に死んでしまうがいいさぁ」
その言葉を聞いた八迫は更にエグイ顔で笑い、獣王に教えてあげる。獣王が知らなかった真実を。そして、自分が今ここでもっとも有利であるということを。
「オサガメは世界で一番大きいけれど、やわらかいのを知らないのか・・・。かわいそうに」
講師を追えた八迫は棍棒を振り下ろし、獣王との戦闘を終わらせようとした。しかし獣王はオサガメの姿のまま死ぬわけには行かず、最後の手段をとった。
「略、合成獣!!!」
叫んだ獣王の姿はありとあらゆる獣の姿を取り込んだ異形の怪物と化していた。
「俺は、死ぬわけにはいかねぇ・・・。親友の敵をとるぅ!!!!」
右手で橋を落とした獣王は八迫と共に下に落ちていく。
「つまり、落ちるまでにお前を帰せば問題ないということだろう!?やる気出てきたぁ・・・・」
次回、獣王との戦闘に終止符!!!そして次に終止符を打つために始まる戦いは五王唯一の紅一点、生かした美魚魚王の登場!!!【予定】
第七十話 刺身【仮】