第六十八話 竜王
その部屋で突然、叫び声があがった。その声は、高齢の男性の声だった。そして、その声は、次のように叫んだ。
「ワシは知らんと申しておろうが!!!そんな門など知らん!!!貴様など、地獄に還ればよい。還れ!!!」
そしてその部屋で、次に響いた音は、金属音だった。そして、反逆王マリーネの声だった。
「貴様が知らないはずが無かろう。貴様はこの、切り裂きジャック全てを統一する長。総領なのだから。貴様が知らないはずが無いだろう!?」
マリーネは総領、と呼んだ男のあごを持ち上げて笑みを浮かべた。
「それで?貴様はその門がどこにあるか知っているのだろう!?教えろ切り裂きジャック総領」
総領は自分の顔を掴んでいるマリーネの右手をはずした。
「なぜ、地上の世界の生き物でない貴様が、地獄の世界の生き物である貴様がこの世界にくる必要があるのだ。貴様の持ち場は地獄!!!この世界を貴様が住める世界に変えるわけにはいかんのだ」
その言葉を聴いたマリーネは左腰に挿した暗殺剣を鞘から抜き、総領の首に当てた。
「知らんというのなら、ここを消し去るまでだ。この島の人を!物を!そして、門そのものを・・・。覚悟しろ。終わりは始まるんだ。始まりの期間はすでに終わりを告げる。旧友戦火など、比ではない。最大級の業火だ。発動、地獄道具‐破滅根源‐」
その頃紋太は竜王に対してトラベラーを構えていた。
「ご・・・業火炎息吹」
竜王は、その火炎を紋太に吐き出した。紋太は、それを避け竜王に銃口を向ける。その銃口から射出された弾を竜王は噛み砕き、吐き捨てる。
「トラベラー連射式八十八弾!!!」
叫んだ瞬間、紋太のトラベラーから八十八弾の弾が射出され、竜王を襲う。
「うわぁ・・・いて・・・いててて」
八十八弾のほぼ全てが竜王にあたり、竜王はそれにひるんでいる。
「業火炎息吹連射」
ふらつく体を何とか支えつつ火炎を連射したがそれは紋太のことなど眼中には無く、ただ、吐き続けているだけだった。
火炎を吐き続けている中で、竜王は国のことを考え、そしていつも遊んでいる子供のことを考えた。
その昔、竜王は訪ねられた。
「なんでりゅーおうさまはおうさまなのにぼくたちとあそんでくれるの?」
そしてそのあとには、「王様はしょみんなんかと遊んでくれないのに」といわれた気がする。竜王はそのときに気がついた。
王様というのは城に住んで、偉そうにふんぞり返ってるような人だと。その子供に、竜王は答えられなかった。それから幾度とその子供にあったが、その問いにはいつまでたっても答えることが出来なかった。
答えられはしなかったけれど、竜王は自分の中ではうすぼんやりとした答えらしい物は形成されていた。
「たぶん、僕は王様になるような人じゃないからだと思う」という答えらしき物。
竜王は先代の王が戦争で亡くなったために即位した王だった。
竜王はまだまだ遊びたい盛りの頃から皇帝学を学ばされ、戦闘術を叩き込まれていた。だから遊んでいない。そして皇帝学も戦闘術も学ぶ必要がなくなったから、やっと遊べる。
そうして、今君達と遊んでるんだよ。そんな、答えだった。
そしてその子供は、つい先ほど、こちらに来る前にも尋ねてきた。
「りゅーおうさまりゅーおうさま!!!りゅーおうさまはかならずぼくたちのせかいをすくってくれるんだよね。それでそれで。またぼくたちとまたあそんでくれるんだよね」
いつも遊んでいる子供達に尋ねられた。そして竜王は答えた。
廃墟となりかけているこの国のことを背景に子供を見て、答えた。
「も・・・もちろん。また・・・あそぼうね」
そういって、先祖より伝わる戦闘用の衣装に身を包んで門の開門場所へと移動したのだった。
また遊ぼうと約束したが、それが果たされるのかも定かではない中で、竜王は自らの国を後にした。
約束が果たされるかは分からないけれども、また自分の国に帰ってきたいとそう思った。
少なくとも、自らの国を昔のように自然豊かな国にするために、刺し違えてでも勝とうと思った。
「ぼ、僕は絶対負けられない!滅龍奥義紅蓮雷神斬」
竜王の右手に炎が現れ、刀の形を形成していた。そして左手には右手と同じく、雷の刀が存在していた。
いわゆる手刀というものだった。
「僕は、僕の国を守る!!!」
叫んだ竜王は、地面を蹴りだし紋太に向かって走っていった。迎え撃つ紋太はトラベラーを構え、狙いを定めていた。
「目標、竜王。射出速度測定。射出弾切り替え。トラベラー吸着立体光線!!!」
トラベラーから出された粘着性のある光線は竜王を捉え、空中へと投げ飛ばした。そして、空中で竜王を支えていた光線を消す。そして紋太は射出弾を切り替え、トラベラーを構えた。狙いも定め、撃とうとしたときだった。竜王の姿が見えない。先ほど空中で拘束をはずしたはずだった。羽がなければ飛べないと思っていたのだが、相手は竜であることを思い出した。
「僕は、僕の大切な国を守るんだ!!!子供達を守るんだ!!!」
声がした方をとっさに見ると、竜王は空中で浮いていた。何もない空中で。そして竜王は空中を走って紋太に迫ってきた。まさか、空中を走ってくるなどとは考えていなかった紋太は竜王の手刀を避けることは出来なかった。そして、紋太は目をつぶった。
「僕が・・・。守りたかったのは子供達」
いつまで経っても来ない衝撃に紋太は目を恐る恐る開けてみると、竜王が啼いていた。
「僕は、子供を守りたかったんだ。でも、そのために子供達を倒して子供達を助けることなんて、出来ないんだ」
竜王は手刀を納めた。それを見た紋太が竜王の肩に手をを置く。
「何も自分の世界を守るために人の世界を壊さなくてもいいんじゃないかな。自分達が生きている場所がもし駄目になってしまったとしても、そこにはまだ自分達がいるんでしょ?自分達の町は、自分達でもう一度創り上げたらいいんじゃないかな」
その言葉を聴いた竜王は咆えた。その咆哮は悲しみを含んでいた。
「君はもう、自分の国を守れるよ。わざわざ人の世界を壊さなくても。だって、君は王様なんでしょ」
咆哮を終え、うなずいた竜王の姿は消えていた。竜王は自らの国に帰った。
そして、戦いを終わらせた紋太は地面に腰を下ろすとため息をついた。
「ふぅ~疲れたなぁ・・・」
「さぁ、発動の準備は整った。破滅根源の威力を見るがいい。付加暗殺剣」
マリーネは暗殺剣を空に掲げた。
「これで完成した。これぞ不滅剣。不滅の面との最強のコンビネーションを誇るわが最高の姿の一つ。殺してやる」
そういうと総領に向けて剣を振り下ろした。
「待て!!!」
扉が開き、竜太が飛び込んできた。するとマリーネは剣の先を竜太にかえると、叫びだした。
「また・・・また貴様か平田竜太ぁ!!!今度こそは確実に殺すからな。生きておうちに帰れるなどと思うなよぉ!!!」
竜王を説得し、帰らせた紋太に対して八迫、亮祐、眞幻想は・・・。
次回、第六十九話 魚王【仮】