第二十三話 と悶太
彼は、味噌胡瓜と名を変えた。
たぶん、それが自分の名前だろうと、思いこみ。
第二十三話 と悶太
社長が謝罪している。今回の事件は、大人気玩具、魔法の杖バージョンWWEXという物に魔法の粉を入れてしまったという手違いからおきてしまった事件だった。
「すいません。今回、私どもの手違いで、魔法の杖に、一度だけ願いを叶える薬を入れてしまいました。しかもそれは、リセットが効きません。皆さん、どうか、全ての魔法の杖を、本社に返品して下さい。代金は後日、返金しますので。」
どの杖にも、魔法はかかっていなかった。
名前が書かれていた杖に、社長、真北 利一は目を惹かれた。しかし、そんなこともすぐに忘れてしまった。
その杖に書かれていた名前は、一文字悶太。
「竜太。」
竜太は明日学校で漢字テストがある。その漢字を必死につるっつるすぎて光り輝く脳味噌にたたき込んでいた。その竜太のじゃまをするのが風邪の治りきったと思われる少年、一文字悶太だった。八迫が部屋に入ってきて悶太を抱きかかえた。
「あっちで一緒にゲームしよーねー。」
棒読みのそれに竜太はついにノックアウトされた。
八迫は部屋の前に座って竜太を出さないようにした。
「こんなときにあいつは何やってるんだよ・・・・。」
声に出して、ふと気づいた。
「あいつって誰だ?」
また声に出していってしまった。すると頭の中に、誰か懐かしい少年の顔が浮かぼうとしていた。しかし、そこで記憶はとぎれざるを得なかった。竜太がドアにタックルして、ドアがはずれて八迫は下敷きになったためだった。
は暗い混沌の淵をさまよっていた。暗くて何も見えない。何も聞こえない。動けない。
「僕は誰なんだ。」
太股がかゆくなって書こうと動かしてみると、今度は動いた。しかしそれで新たな事実が発覚した。全裸だと言うことに。これをもし、悶太にみられたら・・・。いや、理緒だ。理緒にみられたら・・・。と思った。
「どうする・・どうするよ 。」
自分の名前を言おうとして気が付いた。
名前がない。
自分の親が付けてくれた名前が。いや、そもそも名前なんて付いていたのか。と、考えてみたけれどしょうがない、どう考えたって、今の自分には名前がないのだから。しかし自分のことを呼ぶのに私や、僕、俺じゃ変だ。名前を付けようと、 は考えた。そして、自分が男か女か分からなくなった。
「男だ。」
事実を言った。そして名前が決まった。
「味噌胡瓜。」
味噌胡瓜は良い名前だと思った。
「・・・味噌胡瓜?」
味噌胡瓜は首を傾げ、意識を失った。再び、混沌の闇に意識を飲まれたから。
味噌胡瓜のことを俺も知らない。
何一つ、知らないんだよ。
悶太は山をみて何かを思いつきそうだった。その何かは、月が雲に隠されるのと同時に、再び隠された。