第二十二話 魔法の杖を君に・・・
中片亮祐は、道を歩いていた。
一文字悶太とともに。
二人はコンビニでアイスを買った。
帰路に着き、家が見えるまでそれは残っていたのに、家が見えると、アイスはどこかに消えてしまった。どこに行ったんだろう。悶太は亮祐に聞いた。
それはね、体の中に消えたんだよ。
亮祐は答えてくれた。
第二十二話 魔法の杖を君に・・・
「ねぇー亮祐ぇ。暇。」
悶太がだだをこねている。
「悶太。まだ風邪が治ってないんだから、寝てなさい。」
悶太は頬を膨らましてふて寝した。そしてそのすぐ後に亮祐は悶太の病室から退室し、入れ替わりかのように竜太が顔を出した。
「やっほーう。」
ふて寝していた悶太はがばっと起きあがり転げ落ちそうになる。
「うわわぁっ。」
竜太が急いでキャッチしてベッドに戻す。
「悶太。下の売店でこれ売ってたからって、さっき亮祐がすれ違いで渡しておいてってさ。」
竜太はポケットの中から長い茶色の筒状の物を出した。
「魔法の・・杖。」
悶太は興奮していった。そして振り回してベッドの上ではしゃぎだした。そこに、亮祐が戻ってきてしまった。それに気づいた悶太は、魔法の杖を持っていた手をゆるめてしまった。魔法の杖が飛んでいき、何も知らずに病室に入室した亮祐にゴグッという音を立てて激突した。
「悶太。寝てろって言っただろう。」
怒ってないかのように聞こえるこの台詞は、悶太にとってはとても怖かった。
「ごめん・・・なさ・・。」
最後まで言う前に、亮祐は病室から退室した。
涙を流しながら魔法の杖を竜太に拾ってもらい悶太はつぶやいた。
「亮祐なんかいなくなっちゃえ。」
その言葉が本当になってしまったとは悶太は知らない。
悶太の一言でこの世から、 はいなくなってしまった。
存在すらも。言葉すらも。写真からも。記憶からも・・・・。この世の全ての人が、彼を忘れた。彼を消した本人、悶太も。
「ねえ悶太。何で泣いてるの。」
竜太が聞いた。悶太は、服の袖を目に当てた。服の生地が水を吸っていた。
「・・・何でだろう。わかんない。」
ごしごしと子供らしく涙を拭いた悶太は、にっこり笑って竜太に言った。
「この杖、竜太がくれたんだよね。ありガと。」
竜太は笑い返して答えた。
「違うよ。それは僕じゃ泣くって・・・・僕じゃ泣くって・・・僕・・・なのかなぁ?」
首を傾げて竜太は考えた。
しばらくして八迫がアルバムを持ってきて病室に入室した。
「在ったぞ。悶太。」
アルバムを開いて八迫は悶太に見せた。しかしそこには景色があるだけだった。そこには今まで人がいたのに。
「これが俺で、こっちが須藤だ。あれ?須藤、何で二人しかいないのにもう一人いるかのようにいないはずの所の首に手をかけてるんだろ。」
そこに彼がいたことは、分からない。
「ねえ。これみて。汀に新機能塩振りキャンデーつけてもらったの。このボタン押すと、塩振りキャンデーが出てくるの。凄いでしょう。これね・・・・・あれ、誰につけてもらったのかなあ。」
誰の記憶にも、彼は残っていない。
誰の心にも、彼は記されていない。
誰の運命にも、彼は交差していない。
誰のどこをみても、彼の存在はない。
誰の・・・・・・・・・・
誰の・・・・・・・・
誰の・・・・・・
誰の・・・・
そんな人間は、いない。
存在すら、消えてしまったよ。
アイスと同じように、 は消えた。
一文字悶太のそばから。
二人で歩いていたはずなのに。
魔法の杖を人振りすると、今までいたのにいなくなってしまった。悶太は に聞いた。
けれど、答えてくれていた人はもう、いない。
それはね・・・・、と、この間まで答えてくれた人は、記憶から、心から、存在が消えていた。
悶太は、誰にも聞こうと思っても、聞けない。