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第百三十話 And the country was founded.

黒鍵は少年に問われた際、あえて答えなかった。所詮は箱が作った模造品のような存在である少年では自分を使うには値しない。高い運動能力に戦闘力は評価できる。しかし、それだけでは足りない。黒鍵を使うに必要なものは生きてきた年数に比例する嫉み、憎悪等の人間の負の感情。それが生まれたばかりのあの少年には欠如している。まったく足りていない。それにあの少年は黒鍵がなすことを理解していない。あのシャガンが反旗を翻してこなければ、亮祐は殺されてしまっていた。意思の疎通が図れないのであるならば、少年である必要がない。

それに比べて彼、中片亮祐はどうだ。幼少期からの孤独などの負の感情の積み重ねは、更に黒鍵を強く強く高みへと導ける。一時はあの少年でもいいかと思った。けれども亮祐が使っていたときから考えてみると、やはり足りない。ならば黒鍵が選ぶ行動は少年を切り捨て、亮祐という第一目的を得て、まずはこの状況を打破すればいい。それから最終目的地である“神の国”へと向かえばいい。

黒鍵はじっくりとその時を待っていた。その為に、誰にも気が付かれぬように亮祐の元へと近づいていく。



「ふぅ…ふぇ…ぐすっ……」

足を抱え込む形で泣きだした少年の姿は竜太を喜ばせ、更に首に近づけられた炎雷刀王者龍閃えんらいとうおうじゃりゅうせんを何度も傾けてはその姿を楽しんでいた。

その竜太の背中には理緒、砺磑、凱史がしがみつきとめようとしているものの、その力はとても三人で止められるようなものではなかった。

「ふはっ……ふふふふ……とても可愛い姿になったものだ。貴殿は武力を失いただの哀れな無力な子供と成り果てた。しかしいつまた武器を取ろうとするかわからん。よって今ここで断罪する。手伝え、豪火竜、豪雷竜」

御意、と返事した豪火竜はまず地面を焼き、煙であたりを見えなくさせた。その隙に竜太は容赦なく振り上げた剣はその真下、少年が座って泣いている場所を切り裂こうと調整している。

理緒は懸命にその手が降りあがるのを止めようと踏ん張るが、今の竜太には全くの無駄だった。今ここでこの子供を斬らせてはいけないという良心と直感が理緒を突き動かし、標的を変えさせた。果敢に流れ迫る豪雷竜をすり抜けながら砺磑と凱史に頼み込んだ。

「砺磑、凱史!!!竜太をちょっとおさえててね」

無駄だとはわかっているだろうに、砺磑も凱史もにっこり笑って頷いてくれる。その合間に理緒は少年を抱きかかえ、少し離れたところへと運ぶ。竜太は目だけを動かし、いつもより細くなった目を理緒に向ける。

「なんだ、貴殿はわが断罪を止めるか。貴殿は我が仲間であったはずだが、裏切ろうというか。ならば仕方ない。貴殿も同じく断罪しよう」

ぎらと構えなおした剣を仲間とも思うことなく向けると竜太は忠告したぞ、と忠告する。返事がないのを可と取った竜太は瞬間的加速で理緒の背後に立ち、顔の横から髪を通し剣を差し込む。

「次は、当てるぞ」

振り落とされた砺磑と凱史はひるむことなく立ち上がり、竜太と理緒の間に割って入る。

「その前に、私と凱史がお前を落とすぞ」

ふふん、と凱史が砺磑のほうを向いて笑う。

「私と共闘ってことになるけど、負けないからね??」

腰に剣のように刺したパラソルを抜き、開くとくるくると回し凱史は雨を防ぐときのように肩にパラソルを置く。砺磑も一歩足を引き右半身を軽く捻り竜太の持つ剣に向かって思いっきり飛び蹴りをする。それをよけることもせずに受けた竜太は砺磑と凱史も睨み付け、歯ぎしりをしながら剣を振り回す。

「貴殿らも同罪になりたいと申すか、よかろうっ!断罪する!!!」

左右に構えた豪火竜と豪雷竜とともに竜太はその刃を振り下ろす。



ふと起き上がった祀は状況を見て、まだ夢の中なのかと我を疑った。

竜太が一人で炎雷刀王者龍閃えんらいとうおうじゃりゅうせんを振り回し、それを砺磑と凱史が応戦し、理緒が小さいころの自分によく似た少年を抱えながら後ろに下がっていく。そして、あそこで戦っているのは豪雷竜と豪火竜も一緒だ。

なんであそこに自分とうりふたつ……というか、もう一人自分がいるというのもひとまずは置いておいて、まずは状況を教えてもらおうと思い、豪雷竜に声をかける。

「おーい、豪雷竜?あのさー」

何気なく呼びかけた一声で、豪雷竜は石のように固まり、それに続いて豪火竜も、竜太も動かなくなる。今度は何してるのかなと思った祀はそちらの方へとひょこひょこ歩み寄っていった。

瞬間的に神々しい光が室内を満たし、ぎゅっと目をつぶった祀は地面に膝をつく竜太と、その傍らで二本に分離し、音もなく覇凱一閃と王牙雷流が転がっていた。

きょとんとしながら周りを見る竜太に祀は声をかける。

「何してたんですか?」

のほほんと無邪気な笑顔を向ける祀に竜太は若干後ずさり理緒が抱えるもう一人の祀を見てようやく歩み寄ってくる祀に向かって安堵のため息を漏らす。

砺磑と凱史が容赦なく祀に飛び掛かり、抱きしめる。突然の出来事に祀はよろけて後ろに倒れ込み、頭を強打する。悶絶する祀を気にも留めずになおも抱き着いてくる砺磑と凱史になすすべもなくただ解放されるのを痛みが去るのと同じく待った。

「と、ところで、何があったんですか。あそこではシャガンが倒れてるし、その他大勢の仲間はそこで仲良く壁で寝てますし」

泣き続ける少年を抱きかかえながら理緒が祀の質問に位置から答えてくれている最中、まだ終わっていないことを事態がおのずと知らせてくれた。

突然の怒号が響き、室内の空気を重く支配する。

「お前たち、ここから動くなよ!!!」

声がする方へと頭を向けると、そこに立っていたのは黒鍵に取り付かれている亮祐だった。

「のんきにお話している所すみませんがね、僕達はこれから“神の国”を再建国させに行きますので、どうか皆さん、この部屋から出られないようにしておくのでどうぞ仲良くお話をお続けください」

言い終わると同時に駆け出していく黒鍵と亮祐を追うために理緒が少年を紋太に預けて駆け出すが、出口に差し掛かるあたりで突然何かにぶつかったように鈍い音を出し、その場に理緒をうずくまらせる。

「いったぁ……」とつぶやいた理緒の言葉をよそに竜太が覇凱一閃を横一文字に振り、見えない壁を切り捨てる。

「開いた。ちょっと行ってくるから、シャガンの事もよろしく頼むわ」

にっと笑いながらふらつく足を何とか前に進ませ竜太は通路を進み、見えなくなった。

一瞬静かになる室内で、祀が王牙雷流を手に持ち、竜太の後に続いていく。そして竜太と同じような笑顔を浮かべた後、部屋から出ていこうとして足を止める。

「その子さ、たぶん……いや、後でいいや。行ってくるから、その子の事よろしく頼みます!!!」

言い終わると満足した祀は逃げ出すかのようにその場を後にした。

「で、私たちはこの寝てる子供を見てればいいの?」

理緒がぼやく言葉に砺磑がぼそっとつぶやく。

「託児所の真似事は私には好かん、行かせてもらう」

了承を得る前に駆け出して行った砺磑に対し、理緒が行ってらっしゃいと言ってから勢いよく顔をあげる。

「なんですってっ!?」

しかしあげた顔の先に砺磑の姿はなく、凱史が忍び足で後を追おうとしている姿が目に映る。

うふふ、と笑いかける理緒に凱史はあはは、と返し再び出ていこうとするが、凱史がそのあと一歩踏み出す前に、どすのきいた声が凱史の足を後退へと追い込む。

「ご、ごめんなさい……」

凱史は運悪く、理緒につかまり託児所ごっこを強いられていた。理緒は少年と紋太を見ている間に凱史はその他を見ている。つまらんなぁ、とぼやく凱史の頭に小石が飛んでくる。

「起こそうと思うなら、殴ってでも、蹴り倒しもいいわよ~」

その言葉を真に受けた凱史が佚榎の頭を殴り飛ばす。鈍い音と、佚榎の口から洩れた声に気付くことなく、凱史はひたすらに佚榎を殴り続ける。鐵は怪我しているし、紋太は年下すぎる。八迫さんは先輩で、殴り、憂さ晴らしができるのは佚榎しかいなかった。その分も、佚榎の頭にすべてが叩き込まれる。

まぁ、死なないぐらいにね??、といった理緒の言葉は凱史の拳の音でかき消された。



「ついて来てるよ、亮祐……」

脳内に直接響いてくる声に適当な返事でその場を濁した亮祐は天井をも貫いて果てしなく続くかのような大きな扉の前で立ち止まる。半透明の壁によって加工された一枚目の扉の奥に赤褐色の古ぼけた扉は亮祐の目線の高さに歪な形の鍵穴があり、それが開放を待ち望むかのように、嫌な風を送り続けていた。

「そう、ここでいいんです。ここに私を差し込む、それだけでいい。さぁ、やってしまいましょう。中片亮祐」

うつろな目で扉を見続ける亮祐は黒鍵の言葉にただうなずいて、黒鍵を目の高さまで持ち上げる。

そう、そのまま差し込め、私を差し込みそのまま捻れ……、と脳内に響き渡る声によって亮祐は自我を持つことなく言葉通りに動き出す。

ゆっくりと黒鍵を差し込み、ガチャリと音の鳴るまでどんどん奥に差し込んでいく。音が響くまで、亮祐の手首までが鍵穴に吸い込まれ、ようやくそこで音が鳴る。

そして、脳内に響いていた声はやみ、今度は空気を振動させた音が鼓膜を通り指示が伝わってくる。

「回せっ!!!」

その声が聞こえた瞬間に、亮祐の右目が紫色に発光し、手首を右側にひねる。

すると、ガチャ、という軽い音が響き、続いて重々しい音とともに扉が少しずつ動き出す。

手首から黒鍵が一度離れ、黒鍵が半透明の扉の中を駆け巡ってい奥の赤褐色の扉を開錠していく。少しずつ、奥へと至る道が目に見える中、亮祐は地面を見続け右の掌を扉に向けたままだった。

黒鍵の声が扉から響き渡ってくる。

「建国だっ!!!“神の国”が今ここに建国されたぁーっ!!!」

響き渡る黒鍵の笑い声が駆け付けた竜太の前でやみ、遅れて到着した祀と凱史にもその反響した声が聞こえる。


「遅かったねぇ……今、すべては終わったよ……!!!」

刹那、扉が完全に開かれ、その奥に光る何かが浮上しかかっていた。


そして、その国は建国された。

というタイトルだったのですが、今思ったら毎回前書きに書いてたらなんとなくわかっちゃうような気がしたので、今回はあえてあとがきに書いてみました。

数日前に完成していたのですが、時間がなかったので平日のこんな時間になってしまいましたが、次はいつもに時間には出来上がっていることと思いたいですっ!!!


それではまた次回っ

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