第百二十八話 Now, let's get started. Its beginnings leading to the end.
さぁ、始めましょう。終わりに至るその始まりを。
声が聞こえる。
誰かが泣き叫んでいて、それを嘲笑う笑い声と誰かの荒い息の音が聞こえる。でも、眠いんだ。何もしたくない。今はただ寝ていたいんだ。
なんでだろうか、突然睡魔に襲われて、あぁ、頭がボーっとする。眠い。駄目だ、やっぱり起きられないや。何が起きてるんだろう?
そういえば、なんで僕はここで寝ているんだろう?竜太は??アラルトベーラは??
箱と、シャガンと黒鍵は??
何もできないというのは、思っているよりも不甲斐ないものだ。
理緒は現状を見ていて手足を動かそうと思うが、全く動かない。目の前では鐵が倒れているのに、亮祐がうつろな目でひたすら天井を見つめているのに。仲間が助けを求めているのに。
凱史と砺磑もこちらを見ている。三人は何とかこの窮地を脱する方法がないか模索する。けれど凱史の間違った方へ祀を愛するがゆえに間違った方に進んでいくイケナイ灰色の脳みそでは、砺磑の生き延びるためには必要不可欠だった暴力一直線の脳みそでは、理緒の破壊の限りを尽くす暴力と限界のない胃袋のために回される脳みそでは、解決するための方法は一つたりとも見当たらなかった。
この状況は、運任せというほかになかった。けれど、信じていた。きっとこの場にいない彼ならば、自分たちを助けてくれた彼ならば、運以外に何かを引き連れてこの状況を必ずいい方向へ、いや、解決へと導いてくれるはずだ。そう、信じていた。
そうして、またのほほんとしたなんでもないような日々が戻ってくると、信じていた。
「アラルトベーラァ……!!!」
シャガンがすすり泣いていた。その頬を伝う涙を手で拭っている祀似の少年の姿があった。
「シャガン、もう彼女の事は忘れてさ、僕とたのしーこと、しよ?」
年齢に似合った無邪気な笑顔、しかし、悪意しか込められていないその笑顔をシャガンに向ける祀似の少年は即座にシャガンに殴り飛ばされ、壁に叩きつけられる。壁は崩れ落ち、少年はその中に埋もれていく。しばらくしたあと崩れ落ちた壁の中から立ち上がった祀似の少年は目を潤ませ唇をかみしめ、涙をこらえていた。振るえる手を拳にしながらぼそりとつぶやく。
「いーもん、いーもん……」
ぐすっと鼻を鳴らしたその少年は黒鍵の元へと飛び寄ると、己の右の手と黒鍵の血にまみれた左手をつなぐ。そして、手を強く握った瞬間、黒鍵の体が黒く光り、その光が螺旋状に舞いながら少年と黒鍵の姿を包み隠していく。
「行くよ、黒鍵……」
黒い光の中から出てきた少年が持っていたのはまた形状変化を遂げた黒鍵だった。
少年はあどけなく笑うとシャガンにためらいもなく黒鍵を振り落す。
「裏切ったのか……黒鍵」
よけようともしないシャガンは黒鍵を見つめて呟く。
「結果は最初から決まっていただけの事ですよ、最初からこうなることは決まっていただけの話です!」
そうか、とつぶやき、諦めたシャガンは目を閉じて、振り下ろされる黒鍵を待った。
アラルトベーラ、“神の国”なんてそんなものは所詮幻想でしかなかったんだな。俺も、今度はそっちで一緒に居られるのかな……。そしたら、今度は何も望まない。ただ二人でいること以外は、何も望まない。
そんな中、容赦なく少年は、白い歯をむき出しにして禍々しいそれを振り下ろしながらシャガンを嘲笑った。
「その顔、シャガンは僕を楽しませてくれたよ?ありがとね」
少年は土塊が持ってきた炎雷刀王者龍閃を片手で持ち上げると黒鍵と交差させてシャガンの首を挟む。
「アラルトベーラさんが待ってくれてるといいね、シャガン」
竜太が駆け付けた時にはなぜか小っちゃい祀が黒鍵を握り、大きい祀は地面で意識を失っていて、アラルトベーラは白い服を真っ赤に染め上げて倒れていて、仲間は鐡以外が拘束されている。鐵は血だらけで転がされている。
そして、シャガンが今まさに殺されようとしている。
状況が全く分からない。
なぜ、シャガンが祀に殺されかけている?
なぜ、小さい祀が炎雷刀王者龍閃を使っている??
なぜ、祀が二人いる???
分からなければ、まず自分で動くことだ。
じゃあまずは、
明らかに物騒な武器を持っている祀を止めることからだ。
「待てぇ!!!」
叫ぶと同時に、足は走り出していた。
即座に少年は反応し、竜太に黒鍵を投げつけてくる。
「助けたいんでしょう?なら、貴方がそれで僕を殺せばいい。そうすれば、僕はもっと楽しめる。」
にやりと微笑む少年は祀からは想像もできないような気持ちの悪い笑いで炎雷刀王者龍閃を無茶苦茶に振り回してきた。応戦する竜太は足元に投げられた黒鍵に手をかけ、少年を止めようとかまえる。
刹那、少年は炎雷刀王者龍閃を黒鍵に当たる手前で止める。
「竜太にーちゃん、そうやすやすと敵の施しを受けちゃだめだと思うよ?」
ふふっ、と笑った少年は黒鍵と繋いだ際に着いたアラルトベーラの血を舐め取り、甘ーい、と嬉しそうにほほ笑みながら、その手で黒鍵の形状変化を解き放つ。
とっさの判断、と言うよりも本能からの危険を察知した竜太は黒鍵から手をはなす。が、いつの間にか手にしがみつくような形でこちらを見つめる黒鍵の目が、そこにはあった。
「これで、切り裂きジャック全員、確保、ですね……」
少年と同じように黒鍵も気味の悪い笑顔をこちらに向けていた。
必死に振りほどこうとすればするほどにその手は強くしがみついてくる。その手は徐々に手から腕へ、肩へと伸び、竜太の体の自由を奪う。
「はなせこんにゃろ!!!」
黒鍵にばかり気を取られている間に、少年が背後に立っていることにも気が付かない竜太は、少年の峰うちにより、意識を失う。
「さぁ、これで民はそろった。“神の国”は今まさに再建国されようとしている。行こう、“神の国”最後の扉の鍵、黒鍵。」
少年は唇を舐めると興奮気味にそう告げ、呆然としている亮祐を斬りに行く際にシャガンを見つける。
「あぁ、まだ居たの?旧世代の人間が。もう興味ないよ、君がいてほしかったのはアラルトベーラの溜めの餌だっただけだからね」
じゃあね、と言い捨てた少年は地面で寝ている祀を抱えると亮祐を素通りしその奥の椅子に座らせる。
そして再び亮祐の前に戻ってきた少年は手元に引き戻した黒鍵を再び剣状に変化させるとその切っ先を亮祐の首に当てる。
「神の見えざる手は、差し伸べられた……」
自分は何をしているんだろうと、考えたが結局手足は動かなかった。最初は自分が仕掛けたことだったのに、今では何しているんだろうと他人事のように思ってしまう。放っておいたら時が解決してくれるのだろうか。
考えて考えて、考え抜いた。結果として、勝手に体が動いていた。
シャガンは亮祐を斬ろうとしている少年に向かって体当たりをしてその切っ先をそらし、己に向けること。そのうえで黒鍵を奪い取る。そのあとはきっとどうにかするだろう。
シャガンが認めた今の七番目ならば。自分ができないことを何度も成し遂げて、ここまでこれたあの、七番目ならば。
遅れてしまいました。
来週は用事があるので無理でしょうが、頑張って来週の中ごろを目指してみたいと思います。絶対という言葉はこの世にはないので、確約はできないという駄目っぷりですが、その時までよろしくお願いします。
今回作っていく最中に数年後ルートを考えたのですが、そんなことしたらややこしくなって、自分の脳内が崩壊しそうなのでやめました。
何とかしていろいろ残っている問題を解決したいですね。
がんばれー!!!