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第百十九話 Tears fall from the crystal

水晶から落ちる涙

「理緒はさ、俺がこのまま辞めるって言ったら、一緒について来てくれるか?」と、尋ねられた。

求めていた答えは返せなかったけれど、素直には頷くことはできなかった。

私は皆といるあの場所が好きで、だから、そこにいて指揮をとりながら輝いていた彼が好きだったのに。

そこから、その現実から逃げようとする彼の事を追いかけようなどと思えなかった。

あの場所にいる彼の事が好きだったのに。

「うあぁぁああぁぁあぁっ!!!」

殴る、蹴る殴る殴る殴る蹴る。

涙を流し、ただひたすら一方的な暴力で伝える理緒を砺磑が、凱史が見ている。

二人ともその眼は潤み、一風変わった愛の形を眺めている。

その時、その二人の姉妹の思いは一つになる。

恋よ、実れと。



黒に続く色は灰色だった。

天へと続くその果てしない螺旋状に作られた道は決して下を見ることだけはしたくなどない高さへと達している。

足はすでに悲鳴を上げているが、今までその痛覚すらもなかった身としてはこの上なく嬉しい。

踊る心を押さえつけ、必死で上るその先に待っていたのは、豪火竜だった。

「お待ちしておりました」

微動だにせずにたたずむ豪火竜は切なげに竜太の目を見つめる。

「貴方がここから出るためには、私を従わせなければなりません。しかし、私は今や宗主シャガンの物。失礼ですが、本気で行かせていただきます」

ふわり、と浮き上がる豪火竜の喉の奥で焔が垣間見える。

「ちょ……、俺何も持ってないっ!!!」

しかし、思わず叫ぶ竜太の足元を焦がす焔の勢いが変わることはなかった。

「よく考えてください、貴方はなんなのですか」

冷たく突き放すような豪火竜の言葉に竜太は我に帰る。

慎重に言葉を選びながらも竜太は質問に答える。

「俺は、平田竜太は!!!」

ごくりと喉が鳴り、自然に握りしめる手に力がかかって、額から流れてくる汗が唇を濡らし、竜太は答えを出す。



「アラルトベーラ…。なぜ今も君は美しいんだい…。早く会いたいよ。見てごらん。歯向かって来た奴らは皆地面でねんねしているよ。やっぱり、君と僕の前に敵う者はいないんだね。あぁ、早くもう一度抱きしめたいよ、アラルトベーラ……」

シャガンは地面に深々と炎雷刀王者龍閃えんらいとうおうじゃりゅうせんを刺し、柄からを手を離すといまにも水晶という支えを失って倒れそうなアラルトベーラを支える。

ひんやりと冷たいその手を握り、シャガンはかつてのようにゆっくりと語りかける。

既に二人を濡らしているその水晶は彼女の足を固定するのみになっていた。

更にはシャガンの髪の毛は朱色に染まり、瞳の色も朱色へとその色を変えより力を増していた。

「さぁ、始めよう。二人っきりの世界を創ろう。神の国、僕と君だけしかいない世界へ」

自分の一言一言に酔いしれるようにシャガンは唇をゆっくりと舐める。

一瞬、シャガンの体が脈動し、激しい痛みが体中を駆け巡る。

それは一瞬の事だったのに、シャガンの体内ではそれが何重にも重なり襲い掛かっていた。

思わずアラルトベーラの体を強く抱きしめてしまう。

物言わぬ蝋人形のような彼女の体から、一度だけ声が漏れる。しかしその声は己が激痛と闘っているシャガンの声にかき消されてしまう。

どれほどの時間かわからないが激痛から解放されたシャガンは己の手を見て悲鳴を上げる。

異様に硬化し、伸びた怪物のような爪。

おそらく、この場に鏡がないことが救いだろう。決してこのような姿ではいられない。

神の国計画を成功させることや、まして何より、このままではアラルトベーラを抱きしめるという願いすら叶うことがない。

中で、何かが起こっている。

中で殺していた精神が息づいている。

何らかの力で内部からの圧迫を受けている。

考えられるのはたった一つしかなかった。

「平田……竜太ぁっ!!!」

シャガンは精神を再び内部へと潜り込ませた。



黒鍵の動きが止まる。

それも決まった時間ごとに、一瞬確かに動きが止まるのだ。

1,2,3……ピタリ。

1,2,3……ピタリ。

すでに何度も確かめている。これは何かしらの好機へと変わるのではないだろうか。

幼稚な脳を高速回転させ、凱史は一つの結論を導く。

中に居る人に、言葉が届いている……。

「理緒さん、私が言うタイミングで告白してっ!!!」

ボン、という爆発音で今度は理緒の動きが止まる。

凱史は思わず苦笑いしてつぶやく。これはこれで逆効果だったか…。

「この馬鹿凱史!!!」

砺磑が足で黒鍵のひと振りを止める。

「薔薇の舞!」

地面に手をついた砺磑はそのまま手をまわし、その回転を足へと運ぶ。

目にもとまらぬ速さとなった回転は次第に薔薇の花びらを魅せつけ、亮祐の腹部にぶつけ、回転を止める。

亮祐の腹部へと移った回転の力はとどまらずにそのまま亮祐を吹き飛ばす。  

その隙に、砺磑は理緒を抱えて非難する。

凱史はまたもや苦笑いでその場をやり過ごす。ひょっとして自分で今、窮地を作っちゃったりした…?

これは笑い事では済まないなぁと、凱史の背中を冷や汗が流れ落ちる。

テストもひと段落したので、通常営業【?】いや、通常運行【?】に戻り、毎週週末に次回をお届けできるように頑張ります。


いや、成し遂げて見せるともさっ!!!


なんとかなるさ!!!


と、言うわけで続きは次回の講釈でよろしくお願いします。

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