第百十三話 I don't know
私は知らない。
外に出た瞬間にこれかと、祀は歯ぎしりする。
本当は歯ぎしりは歯が削れるらしいからやってはいけないとテレビで見たが、そんなことなど忘れてしまうほどの状況だった。
八迫が決めたとおり、祀は進むべき道がある。
祀は大きく息を吸いキッと行く末を睨む。
その場にいる全員が突如として現れた彼らを見て闘志をむき出しにする。
特に八迫、理緒、紋太の三人はそれがだれだか知っているようで祀たちよりもずっと警戒している。
「何で、お前たちがここにいる…」
「あんたたちはもう、」
「え!?何で、何でここにいるの!?」
彼らの前には今、六つの影が立ちはだかっていた。
そのどれもがかつて会いまみえた者どもの姿、だった。
そのうちの一人が口を開く。
「八迫、久しぶり……」
時遡り数十分前。
その動きは全て想像の範囲内だった。
己が主となろうと各人がまず自分を潰しに来るであろうことは、真っ先に考え付くことで、すでに対策は講じてある。
右手を挙げ、竜太の父親と亮祐を狩り出し意のままに操る。
亮祐は鍵で、父親は脚力で全てを弾き返す。
「貴様ら雑種が歯向かうことなど許されてはいない。おとなしく服従しろ、奴隷共めが」
シャガンが目を見開き、その場の空気を凍てつかせる。
誰もがその場で動こうとしない中、発言者のシャガンは顔をそむけ、出口を指さす。
「やる事はわかっているだろう?いけ、報酬は考えておこう」
シャガンの声は凛と響き、その場に呼び出された者たちがそろって出口を目指す。
死者がいなくなったその部屋でんっ、と短い声とともに、竜太はその眼を開く。
亮祐は軽く背筋を伸ばし、竜太の父は喉を鳴らす。
そして…
竜太は寝ぼけた目で彼らを凝視して、固まる。
すでに彼らは血の雨に濡れていた。
手から滴り落ちる血は、草木を染め、たどっていけばどこから来たかが分かるであろう程血に染まっている。
「ここに来るまでに我らは駒を糧とした。結果がこれだ」
福音業は両の手に持つ血染めの剣と槍を掲げる。
「どれも、私達が満足するには及ばなかったんだけどね」
もはや元の色もわからぬほど染まっているマリーネが腰に手を当て微笑む。
「始めようぞ。貴様らと話すことなど何もないのだから。博士の望む答えは一つ、殺しだ!!!」
ガルガンティアが突如として牙をむく。
「んで…こんなところにいるんだよ…」
とっさに出てくる言葉はどれもの使い古されているような何も伝わらない文字の羅列で。
とっさに絞り出した声で出た言葉もやっぱり使い古されたような言葉だった。
亮祐は目をそらし、父親は哀愁漂う目でただこちらを見ている。
けれども、シャガンはそんなしんみりとした茶番に付き合うことなどなく、一人高みの見物を決め込んでいる。
亮祐が持つ鍵はひたすら竜太を襲い、父親は休むことなく強烈な蹴りを叩き込んでくる。
切り裂きジャックとしての力も、更には頼りの覇凱一閃もない状況で竜太ができることといったらただ避けることだった。
しかし、無限の力を蓄える黒鍵とそれを持つ亮祐、更にはシャガンに操られ意のままとなっている父親の体力はほぼ無限と言ってもいいもので、到底いつまでも避けていられるなどと思えるようなそんな生易しいものではなかった。
極めつけは、シャガンの補助。二人の速度を倍速化し、同時に攻撃を仕掛けてくる。
亮祐は必死に抵抗しようとするし、父親も止めようと歯を食いしばる。が、そのどれもが効果を発揮することなく竜太は再び意識を失わされる。
「我が輪転にて切り裂きジャックは完成となる」
倒れた竜太の頭を掴み、持ち上げるとシャガンは一人呟く。
そして、部屋中に書き込まれた陣が解け、機械を出す。
白を中心とし、黒やオレンジなどで彩られたシャガン二人分の大きさの機械。
それが、輪転機だった。
「エバーニェン・サージェ!!!!」
「カルヴォーネ・エカスタンンンンンンン!!!」
「ヴォォォォオオオォオッォオォ!!!」
ガルガンティアが、桐原須藤がそして国獄王が同時に咆哮し、技を放ち、祀たちと八迫たちを二つに分ける。
地には深く大きい溝ができ、反対側に渡ることができないように細工される。
「始めようよ、八迫。僕達の決着を!!!」
頭皮から血が出るのも構わずに須藤は掻きつづける。次第に須藤の顔も血で染まり、八迫はとっさに目をそむける。
「俺はさぁ、まずはお前が一人目だ。博士の祈願の道具と成り果てろぉ!!!」
ガルガンティアは紋太に目標を定めると体内から鉄の腕を取り出し装着する。
「兄弟機の、そして名もなく捨てられていった試作品たちの恨み、辛さ、すべてが私を勝てと促す!!!」
その場にいる切り裂きジャックは誰も知らぬ事だった。
ガルガンティアを作ったディア博士。
彼が見逃したウイルス汚染の進行によりガルガンティアのCPUはプログラムを変更し、製造目的とは全く逆の運命をたどろうとしていることは、竜太と亮祐の二人しか知らぬ事だった。
八迫が、理緒が紋太が見るガルガンティアは、突如として飛来し、侵略しようとしていたただの悪鬼に過ぎなかった。
紋太は重みの増した腰に手を伸ばす。
そこには大好きな人の、大切なものが増えている。
迷わずにそれを手に取り連結させる。
ビーストレイク。
紋太の頭を忠告がふとよぎるが、そんなことを言って甘えていられるような状況ではない。
ためらいがなかったと言えばうそになるが、紋太は引き金を引こうとする手を止められる。
ふと顔を上げると凱史が笑っている。
「無茶したらダメなんでしょ?任せといて任せといて。援護射撃は頼むからね」
凱史は手に持つ強化鋼の傘を担ぎガルガンティアに飛び蹴りを食らわす。
理緒は目の前でにこやかに手を振る国獄王に微笑み返す。
国獄王はただ理緒を見つめ、咆哮とともに飛び上がる。
次の一手は互いの頬に向かって拳を伸ばす、クロスカウンターだった。
不愉快なものが視界に入る。
「はぁ、はぁ…祀、祀祀祀祀ィ!!!僕はもう一度君に会いに来たよぉ…」
相変わらずだ。
死んでもなお所長は祀を苦しめ、いまだなおその毒牙から離すことを知らない。
俺達は仲良く普通にしたいだけなのに。
人間として生きていたいだけなのに。
佚榎はズボンのチェーンに手を伸ばす。
目を細め、視界に入るのは息荒く猫背の変態ただ一人。迷うことなくチェーンを飛ばし、所長の首に重く冷たい鉄を巻きつける。
「もう、俺たちにかまわないでください」
言ってみて気が付いたが、冷たい声が出せるものだと、思った。
それと、祀はすでに所長など振り切っていて、もう気にも留めていないということを、過去にとどまっているのは自分だったということを、悟る。
「我ら騎士に楯突く者には王立法により処罰を決める。第二十八項特例、死刑執行、だ」
槍と盾を構える福音業はその冷徹な鎧の中で、何もない空洞の鎧は確かに笑った。
確かに声が聞こえたのだ。
鐵はそれを聞いて思わず頬が緩む。
何も持たない鐡の手が空気を掴みまるで棒状の何かを持ったような形になる。
「今からお前は俺が斬る、ただ的と成り果てる。喰らえ、空刀壱の型」
鐵はなぜか空気を見えない圧縮することができた。
祀は空気を奪うことができて、佚榎が空気に乗れる。
これが鐵たちが人間ではなくなった上で出来るようになった一つの事で、使える物のただ一つでもある。
小さく圧縮された空気は鉄以上の強度を保ち、福音業の体に傷をつける。
「お嬢さん、私と踊ってくださいますか。私が作曲した貴方の悲鳴という名の楽器の音色で」
マリーネは砺磑の右手を取るとゆっくりと足を踏み出す。
右左、右、右、左。一回転させてから空へ投げて、爪で刺す。
祀は戦場を駆け抜けていく。
腰に巻かれたデイパックの中から紙の札を出すと地面に叩きつけ、使用方法にそって式を読み上げていく。
大丈夫。来てくれると約束してくれた。
信じるから信じろと、そう言われ、祀は信じると決めた。
だから祀は竜太を引きずり出してくるという役目を引き受けた。
祀は、紙によって出てきた門を潜り抜け、男の前に出た。
「あぁ、祀か」
二重の声が重なりその男は振り返る。
一つはよく知った声で、もう一つの声はひどく重たい声だった。
「どうしたの、祀」
振り返った男、平田竜太の目は赤に染まり、怖いほどにっこりと微笑んでくる。
動けずに固まる祀を物ともせずに、竜太は歩いて近づいてくる。
やがて、顔が付きそうなほどの距離になり、
「大丈夫だった?」
その微笑はいつもの竜太となんら変わらないものなのに。
竜太の腰にある竜魂剣はその刀身をゆっくりと見せつつある。
そして、竜太の顔をしたそれはにぃっと顔をゆがませる。
「ふざけんなよっ!!!」
八迫は叫んだ。叫んで何が変わるということなどないが、それでも叫ばずにはいられなかった。
互角の状態で戦っていたときに突如現れた少年と中年のおやじ。
彼らが来たことにより戦況は敵に傾き、彼らは一ヶ所に集められ、そして囲まれている。
すでに仲間の大半の体力は底をついている。
誰もが肩で息をしようやく意識を保っているような状況だ。
そんな中、ようやく顔を見せた少年は最もよく知る親友だった。
叫ばずにいられようか、これが。
苦痛を顔に出す八迫に対し亮祐があざ笑う。
「俺は、お前たちの敵だ。同情もいらない。おれはお前たちなど知らん。さぁ、一方的な楽しみを始めようじゃないか」
更新忘れてたわけじゃないんですよ、書いてたし。書き溜めてただけだし。
溜めちゃいかんとわかってはいるが…宿題とかためちゃわないですか?
時間がないので略しちゃいますが、次回の予定はまた未定!!!
神の国計画は発動すると思いますが、内容も白紙、何にも決まっていない!!!
そんなですが、どうぞよろしくお願いします。
話数シリーズで一番長くなればいいなぁと思いながら。
そんなに書いてたら疲れそうですね