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第百十話 It is had a mind no neither stop or nor to stop it.

第百十話 止められないし、止める気もない。

風が強い日だった。

空には雲もない、快晴。もしも洗濯がたまっている主婦がいたら迷わずに洗濯物を干したくなる…そう思わせるような天気だった。

けれども本来の天気は風が強くない日だった。しかし、そこにいる一人の少年が元凶だった。

正確には、右手に持つ鍵が元凶だった。そこから発せられる風が雲を吹き飛ばし、この天気を作りだしていた。

真上に輝く太陽は何も知らずに亮祐とシャガンを照らしていた。

紫外線などは眼中にないシャガンは右手に持つ缶を消滅させつつ、のんきにたたずむ亮祐に尋ねる。

「どうだ?鍵は…」

空の缶からは何も飛び散らず缶が鍵によって二つに割れる。

「極めて順調。そちらの軍備はいかがなものか」

「明日にでも仕掛けられるよ、亮祐。じゃあそろそろ、切り裂きジャックを壊そうか」

缶の次に取り出したあやとりが失敗しているシャガンは一瞬むっとして話を続ける。

「よし、仕掛けよう。始めようか、切り裂きジャック殲滅作戦を」

その言葉を待っていましたと、亮祐は大気を切り裂き笑い出した。その鍵にはまだ乾ききっていない赤い血がべったりとついていた。

太陽はそんな彼らを照らしている。

「……神の国計画…か…」



蝉の五月蠅い鳴き声が聞こえる本部の図書室で、一人の少年はそれに負けじと吠えていた。

「おーわらない―!!!」

春休みには宿題もあり、出さずに過ごしておこうと思ったのだが、放課後わざわざ電話もかけられると出さずにいられるわけがなく、現状として竜太は机とにらめっこしている状態だった。

隣では八迫が教師役として鬼の棍棒を持って微笑んでいるし、そのまた隣では理緒がメリケンサックのお手入れをし、微笑んでいる。年頃の娘の微笑なのだが、向ける対象が明らかに間違っている。

反対側の誰もいないところには、追加分の宿題ともともとの宿題が置いてある。

どちらに逃げても、逃げ場はない地獄に落とされているのと同じ状態だった。

時折聞こえる笑い声が、近くに誰かいることを教えてくれる。

王牙雷流の点検日とかで隣の部屋に祀と紋太が遊びに来ていて何か楽しいことしてるんだろうなー、いいなー何してるのかな―ゲームしてるのかなー、などと鉛筆を片手に遊べていたのも数秒のことで、すぐに血の雨が降りかかる惨状へと変化していった。

丁寧にも宿題には血飛沫が飛ばない配慮つきの惨状だ。

隣の部屋にも竜太の声は響き渡っていたが、初めて目にする戦隊ものの合体ロボを見て目を輝かしていた祀にはその悲鳴も聞こえることはなかった。

「んっとね、これとこれが合体するんだ!!!」

がちゃがちゃと車を変形させて胸部へ運ぶ紋太を見て祀が目を輝かせたのは別の話だ。

どうやら祀は所長の支配下で暮らしていたとき、この手の物に触れることすらなかったようだ。もしかしたらそういう商品展開するメディアがあるということも知らないのかもしれない。



いつしか日は傾き、祀と紋太は帰宅の時を迎える。

「祀ー、紋太君ーご飯だよー」

鐡が本部へと駆け足で入ってくると同時に言われた言葉を聞いて祀と紋太は片づけを始める。

おかげで鐵が来た時には部屋は片付き二人は部屋から出ようとしている所だった。

さりげなく先頭を取ろうとする祀はいつの間にか紋太と同じ扱いを受けていることに気付かずに鐡とともに本部から引きあげていく。

「お邪魔しましたー」

三人は挨拶をすると近くにある家へと帰っていった。

亮祐がくれた物件は本部から歩いて二~三分、一人一部屋の個室もついて家具をはじめとした生活用品が完備されている家だった。

一人一部屋与えられた部屋はなんだか落ち着きがなく、業者に頼んで男部屋と女部屋の二部屋に変えてもらってからはこれまでにはなかった新しい日常として生きていくことができた。

何一つ困ることはなく、家計を管理するということ以外は普通の学生としての生活を送っていた。

普通ではないであろう、一度だけ命を狙われかけたかもしれないことは、誰にも言っていない。

なるべく平和に安全に、一般人として生きていこうと決めたうえでの五人での意見の合致だった。それを守ろうと、祀は誰にも言う気はなかった。

何も言おうとも思わずに隣にいる紋太の手を握り、玄関をくぐる。

鼻孔に微かに届いた匂いはなぜか焦げた匂いだった。

最近分かったことが一つ、どうやら砺磑と凱史は主婦業が苦手らしい。

けれども家事の分担は当番制になっている以上さけては通れない道だった。

意外なことに鐵の創る料理はどれもこっていて、初めて目にするものばかりではずれがないのも、わかったことだった。

手洗いうがいが先だからね、と釘を刺されて紋太と祀が洗面所に向かう途中に目に入ったものは黒い肉の塊、どうやらハンバーグを作りたかったらしいことが、見て取れた。

残すと根に持たれるので食べ残さないことが前提で、しばらく動けなくなるのが最近の悩みだった。

先が思いやられる状況でうがいを終えると、重い足を引きずって食卓へと着く。

全員そろっていただきますと、感謝の言葉を述べ終えると、

「今日は中にチーズ入れてみたんだけど、どう!?」

会心の出来なんだと、顔で語る凱史の笑顔を守りたくて、恐る恐るハンバーグをわるとそこにはチーズなんてカラフルなものは入っていなかった。

入っていたのは黒い消し炭だけだった。

外はカリカリ、中ですらもカリカリの焦げの塊を何とか食べ終えた祀、鐵、佚榎に紋太はそれぞれ自分のベッドで仮死状態へと陥っていた。

なんだかんだで、やっぱり幸せだなあと思いつつ、その日は終了を迎えた。

これからはこんな日々が続くんだなぁと、疑うこともせずに。



「さぁ諸君!!!始めるよ、止められないよ!!!これから戦争並みの大乱闘を巻き起こす!!!お前たちはコマとして、死んで来い!!!」

あおるような叫びにコマとして用意された人々は開戦前の勝利を確信し、拳を空に突き出す。

シャガンはその光景を嘲笑い、そして率いた。

「これが、今作戦の指揮官にして元切り裂きジャックの資金源、中片財閥の一人息子の中片亮祐だ。彼が用意した作戦は完ぺきにして死角なし。思う存分に暴れてこい!!!殺しですらも、合法だぁ!!!」

シャガンが指差す壁は一瞬にして亮祐に破壊され、コマ達は血眼で我先にと走りだす。

誰一人としてシャガンと亮祐を疑っているものなどいなかった。

彼らが滅ぼすのは平田竜太含む四人の切り裂きジャックだと、思っていた。

誰もいなくなった時を見計らいシャガンは亮祐の鍵に触れる。

黒く気高いその鍵はシャガンが触ることによって微かに反応した。

「鍵が、欲しいのか…」

亮祐はシャガンに尋ねるが、シャガンはただ笑うだけだった。

シャガンは一通り笑い終えると亮祐に顔を近づける。

「始められるんだ。おれが晴らしたかった恨みを。ぶつけられるんだ。おれの積もった苦しみを」

かすかに香るミントのにおいが亮祐の鼻孔をかすめる。

「歯磨き粉、まだ使えただろう」

それが新しい歯磨き粉だと判断した亮祐は思わずそこにかみつく。

シャガンはにやにやと笑い亮祐から一歩下がりながら頭を下げる。

「良いんだよ、記念だ。おれが生きることのできる記念の一本だ」

ケタケタと笑うシャガンの姿は、時折まるで映像が乱れるかのように歪んでは治った。

「時間なんだよ、俺が俺であるための。おれが俺でいられるための…」



祀たちが寝静まった夜、王牙雷流は微小ながらに揺れていた。

時計が時を刻む音と共に音を出している。

初めておこる現象に驚いた豪雷竜は思わず剣から出てしまう。

そして、自らの体も震えていることに恐怖する。

いったん落ち着いてから、空気中を漂う静電気が豪雷竜に送る情報を整理して叫ぶのと、衝撃とともに侵入者が流れ込んでくるのは、ほぼ同時だった。

一瞬遅れて、祀たちが目を覚ましたこともわからないほどに、衝撃は続き、何かがなだれ込んでくるのを感じた。



「おきろぉ!!!」

叫ぶ豪火竜に五月蠅いと殴ろうとする理緒の拳は同様に起きた震動により竜太の後頭部に直撃する。

唸るような音の連続の中、まぶしい光とともに流れ込んできたのは見慣れない、何かの制服を着込み、武装している人の姿だった。

「動くなっ!!!こちらは切り裂きジャック総本山特殊警備部隊であるっ!!!」

混乱に乗じた作戦で、あっという間に八迫と理緒は捕えられる。

まだ寝ぼけている頭では、これが何の悪ふざけかもわからない。

切り裂きジャック総本山特殊警備部隊と名乗った一人の男が壁に立てかけていた覇凱一閃に鎖を巻く。

「これが、平田竜太の剣、覇凱一閃で間違いないかと思われます」

男が奥に構える上官の元へと剣を運ぶ。

「情報と一致している。処置を施して、転がしておけ」

上官は命令とともに八迫の前に立つ。

「お前たちにはわからないだろうなぁ…。何でこんなことになっているのか」

乱暴に八迫の髪を掴みあげると、男は拳を振るう。

「終わりだよ、お前たちは。切り裂きジャックは」

叩きつけられた八迫は男を睨む。しかしそれを見つけた戦闘兵が八迫を蹴る。

一方の理緒にはまだ手出しはされていないもののいつ暴行が加えられるかなど分からない。

状況の不明確な恐怖が二人を支配する。

「連れて行け。総本山で、決着をつける」

おそらくその中で唯一の執行権を持つその男は鼻で笑いながら八迫の顔を踏む。

「今頃、普通の民家はどうなっていることだろうな」

明らかに見下した態度をとる男の元に連絡が入る。

平田竜太を、捕まえた、と。

ちょっと間が空いちゃいましたがご愛嬌。

なんて言ってられる様な状況でもないのですけれども……。

少しの間ほのぼのとさせようかと思ったのですが、ほのぼのと出来ませんでした。

その結果がこちらになりました。

今度はいろいろと面倒そうですが、どうぞよろしくねー。

次回百十一話 燃える、燃える、燃え上がる。―It burns, it burns, and it blazes up. ―【仮】


これにてシャガンさんはご退場願うつもりです。


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