第百六話 一緒にいたら、駄目ですか…?
なんか、何してるんだかわからなくなってきた。最近いろいろ忙しいからかなぁー?
呪われた血筋だと、八迫が言った。
その血筋は、祀が断ち切ったのを、確かに竜太は見た。
じゃぁ、その前は?
一文字紋太の両親は、どこにいる?
八迫はディスプレイとにらめっこしつつも、一つの計算式と闘っていた。
「あぁ、死んでるだろうな。もう時期が時期だし、それにあの城の中で、人間が生活できるような環境にはなって無かっただろ」
思わず零れる独り言は、国内情勢は最悪、社会関係は異常なほどの奴隷によって構築されていた空飛ぶ国で命を落としたと思われる一文字家の棟梁の生存の計算だった。
すでに時をまたぎすぎている。亮祐から聞いた話では山に落ちていた子供を拾ったのが、数年前。
その直後に親共々捕まったとみて間違いがない。生きているという確信も、証拠も何もない。
「たぶん、死んでるよなぁ……」
八迫は一人、カタカタとキーボードに指を押し付ける作業に没頭した。
「あれ、そういえばあのバカ…」
やけに静かだ。静かすぎる。
いつもはあのバカがいると騒がしくて、うるさくて目障りなのだが…。
そう考えて頭にちらつくのはあの言葉だった。
「全部壊してやる。呪いだとか厄災だとか、小さい子供にそんな思いもん背負わせてる上も全部、俺が斬ってやる!!!」
あの時言ったことが、その場の雰囲気やのりでないとしたら…。
その時点ですでに八迫は機械室から逃げ出すかのように飛び出ていた。
やっぱりだ…。
いつにもまして騒がしい玄関に来てみると、案の定竜太が覇凱一閃を構えて外に出ていこうとしていた。
けれど外に出られないのは鬼がその腕をつかんで離さないからだった。
「馬鹿、あんたじゃいけないって言ってんの!」
竜太はその言葉を聞こうともせずにバタバタと足だけが進もうとする。
一瞬の出来事で、その場には悪魔が下りてきたと思うほどに、空気が凍りついた。
「いけねぇっつってんだろぉ…?」
それは、華の女子中学生が出す言葉と、声ではなかった。
鬼の説得もあり【主に暴力と暴力と暴力それに暴力、更には暴力が占める】竜太はかろうじてその場にとどまるものの起こそうとしていることをやめるつもりはないようだった。
「何するき?」
会議室の椅子を四つ使い女王気取りの理緒は竜太を追い詰めようと言葉を紡ぐ。
「何するかわかってるの?壊そうとしてるのよ、この場所も、全部。貴方がやろうとしてることは、紋太を助けるんじゃなくて、紋太の場所をなくそうとしてるだけ。こらえてゲームでもしてなさい」
優しく聞こえる言葉の数々だが、実際は言葉とともに理緒は椅子で竜太を強打、八迫はひたすら箒の柄でつつきまわすというはイラスト付きだった。
すでにちょっとカッコいいかも竜太は消えていてただのうたれ弱いへたれ竜太に戻っていた。
「ごめんなさい、イヤマジでほんとにもうしないからほんとにごめんなさい!!!」
壁に立てかけられる形で置かれている覇凱一閃からすべてを見ていた豪火竜はいつになったらかっこよくなってくれるのかと、白々しく竜太を見ていた。
それから数時間後、三人は再び会議室にこっそりと足を運んでいた。
ただ一人、紋太にばれぬように。
「どっ、どういうことなんだよ」
理緒の部屋に置かれていた一枚の封筒と、本部一帯の土地の所有権の書類。
数日間姿を見ていない亮祐の物だった。
「わかんないわよ!!!とにかく、手紙読んでみなさい!!!」
手紙に書かれていたのは一言、ありがとうの文字だけ。そしてそこに付け足されているのは、守りたいから。という文字の羅列。
「何しにどこに行ったか、誰も知らないの!?」
思わず大声を出してしまう。けれどそれを聞かせないために理緒が口の中に封筒を詰め込む。
「つまるところ脱退宣言なわけよね…。あんの馬鹿、話し合えって言って、結局一人で勝手に決めてんじゃないのよ…あのバカめ。ばかったら馬鹿」
「違うよ、亮祐はちゃんと教えてから行ってきますってしたよ?」
「だってさ、じゃぁいいんだよね、八迫?」
「俺は構わんが、誰が話しているのかな、これは」
竜太はふと会話人数を数えてみる。この場にいるのは自分と八迫と理緒だけなはずで、先程の会話ではどう見ても四人いるわけで…。
「まさか誰か一人二役して……」
竜太が最後まで言う前に、八迫がその頭を叩き割らんばかりの勢いで殴りつけた。
「ちゃんとって、何?行ってきますって何?」
いつもの冷静っぽい理緒は冷静さをかなぐり捨て、紋太の肩をゆすっていた。
いつもと変わらぬ強靭な力で。
「ちょっと待って理緒さん!!!気絶、気絶してるから、紋太君気絶してるからぁー!!!」
八迫の懸命の努力もむなしく、理緒の手は止まることを知らない。
「ちょっ…泡、口から泡吹いてる、やめたげて理緒さん!!!」
竜太の必死の努力もむなしく、壁に半分埋められる。
ちなみに、肩を持ってゆすり続けるのはいけないそうだ。なんかのテレビの虐待特集で言ってた気がすると、薄れゆく意識の中、竜太は思ったりした。
「ちゃんと戻ってくるから。そしたら、一緒にここから出ような」
ひょいっと抱きかかえられた紋太は、初めて見る亮祐の表情にただ、黙っていた。
「ちゃんと、戻ってくる。俺たちを狙ってる悪いおじさんがいるらしいから、ちょこっと懲らしめてくる!!!」
シャドウボクシングのように拳を繰り出しながら話す亮祐の足に、紋太は抱き着く。
「一緒に行く」
シャドウボクシングをやめた亮祐はゆっくりと紋太から離れていく。
「危ないから。あいつらが欲しがっているのは俺で、俺が行けば、守れるんだ」
それでも一緒に行きたいと、言おうとしたのに声が出ない。
「大丈夫。お前がもう戦う必要はないから」
それも違うと、叫びたかった。
守られてばっかりでいるのは嫌で、一緒に力になりたいと思っているのに、わかってもらえない。
消えていく亮祐がぼそりといった言葉は紋太には聞こえない。
「ほんとは、戻ってこられないかもしれないけど…ありがとな」
一緒に戦いたいと、ようやく声が出そうだったのに。
亮祐は待たずに、一人戦いに行ってしまった。
ちなみに、次回は百七話完成しております。
先に百七話作ったんです。そしたらなんか、これじゃ話別の奴だよなぁとか思ったらもうなんか…。
というわけで一回保存して新しく作らせていただきました。
次回はそういうわけで、順序逆完成の百七話ですー。