第百二話 過去の自分と永別するか…?
テスト期間中だというのに勉強もしないのはどういうことでしょうか。っというわけで二日連続更新となりましたので、どうぞよろしく!!!
「さぁ、最終局面にふさわしい宴を見せてくれ!!!」
所長は右手で業を押し進ませる。
「了解」
業は黄金の剣を構えなおすとゆっくりとその剣で円を描き始めた。
「…エアお絵かき?」
ただ剣で宙に円を書き続ける行為は最近のはやりのエア〇〇なのかと思ってしまった。
「否。わが神技十円砲。十の円から放たれる無数の斬撃は回避不可能。よって一発退場」
業は円を書き続けるがその技を知ってしまった今、竜太は円を描かせ続けるわけにはいかなかった。
「やめんか危ないわ!!!」
覇凱一閃で円を描く剣を抑える。
その剣には龍魂をまとわせ、業の黄金の剣を溶かす。
「中止不可。強制発動八円砲!!!」
何もなかった空間に突然現れた八つの円はそれぞれが意思を持ち、竜太と豪の周りを囲みだし、業の合図で斬撃を放ち始めた。
「放て、神の一撃」
「ねぇ、ポチ。私はなんて答えればいいのかな…」
地面にうじうじと指をつけながら理緒はポチに尋ねる。しゃべる犬に、尋ねた。
なぜだが自分中心に話が回る予定だったはずがいつの間にか軸がぶれていることを察しているポチは腹いせに理緒に八つ当たりした。
「どうせ捨てられるんだよぉー!!!」
ポチは激しく後悔した。いくら自分がメインキャラクターになれる予定だったとしても、今は違うのだから、サブキャラ、もしくはモブキャラのようにおとなしくゆーとーせーを演じていればよかったのだったと後悔した。
今のポチは首から下が埋まってる、いわゆる生首とかさらし首とかいう状態になっているのだった。
「ねぇぽち。私はなんて答えればいいのかなぁ」
しおらしく地面に書く姿はさながら乙女のようだった。
……もとから乙女だったということは、聞き入れない。
「やっぱり一緒に脱退するべきなのかしら…」
ポチは自分の身を守るため、口を一向に開くことなく置物と化していた。
豪火竜は主の身の危険を察知し、一足早く剣へと戻っていた。
ここで走っているのは祀、砺磑、凱史の三人だった。
「ねぇ、祀…」
所長がいるであろう場所まであと少しという廊下で、突如として凱史は口を開く。
「所長は何をたくらんでるのか、知ってる?」
祀は一瞬身を固くして質問にドキドキした。けれどもそれは想像していたことではなくて安堵のため息を吐き、凱史の方へと顔を向け、すべてを話そうとした。
けれど話す時間を与えてくれるほど、所長は優しくもなかった。
「祀君、砺磑ちゃんに凱史ちゃん私たちをおおおお覚えてるるる?」
突然曲がり角から現れたのは黒い影だった。
「あた、あたあたしよ。駄菓子屋さんの佐貴子よぉおおおぉ」
影はくねくねしながら滑り寄ってくる。声は聞こえるが、口らしき部位は見当たらず、声がどこから出されているのかも定かではなかった。
「おぉ、悪がきどもめ、今度はどんな悪戯するんだ?うちのガラス割ったら縛り首だぞ!!!」
続いて二つ目三つ目の影が現れる。
その全てが祀を、砺磑を、凱史を知っていて、また彼らも影になる前の人を知っていた。
「おばぁちゃん、壥窕おじいちゃんも…」
凱史は自分たちが生きていたころに触れあった知人の変わり果てた姿を見て口元を抑える。
「動揺するな、凱史。彼らはすでに記憶だけの存在だ。死んでいるんだ!!!」
砺磑がスーツを投げ捨てる場所を探す。が、どこも影だらけで捨てられそうな場所はなく、仕方なく自分の腰に巻きつけると足首を軽く回した。
「祀、ここはあたしと凱史が何とかするから。助けてくれてる人たちの手伝いに行ってきな。助けられるだけじゃぁ、これまでの私たちの意味がないかと思うんでね」
砺磑は言うや否や身近な影に上段の蹴りを放つ。
「祀、行ってきてくださいませ。私たちはあなたを守りますわ。主に、あなたたちの幸せを」
すでに頭の中で幸せ未来図【男の子編】が出来上がり、出版を待つばかりとなっている凱史は凱史ゴスロリ必須アイテム二十二の一つ傘をどこからともなく取り出すとそのフリルのついた傘を開きくるくると回る。
「貴方たちの愛情は私が守りますのよ…うふ…うへへへ」
涎をたらし、妄想の世界へと行ってしまっている凱史は使い物にならないかもしれないと思いつつ、祀は金箔を取り出した。
「道は自分で開くから。掃除は頼んだよ」
腰を低く下した祀は金箔を構えたまま叫ぶ。
「盟神探湯!!!」
祀の叫びに呼応して大量の熱湯が降り注ぎ、影たちをひるませる。
「じゃぁ、頼んだ!!!」
祀は駆け出して行った。
「じゃぁ、凱史全部消すよ」
「えへっえはははは…」
凱史はすでに末期状態だった。
「しっかりしろ!!!!」
言葉よりも先に、思わず砺磑は手が出てしまっていた。凱史の頭に軽めの蹴りが届く。どうやら砺磑は言葉よりも先に、足が出てしまう性質らしい。
「砺磑?凱史?あぁ、やっぱり貴方達だったのね。私の愛する娘たち」
影の奥から幼少時聞きなれていた声が耳に届き、砺磑は思わず影の方に目を奪われてしまった。
「母…上?」
奥から影をかき分け出てきたのは、他となんら区別のつかないただの影だった。
「さぁ、いらっしゃい。お話ししましょう」
決心はすでに揺らいでいて、自然と足は影に向かって行ってしまう。
理性はそれを止めようとするが、体はそれを無視し影の方へと歩みを進ませる。
とっさに手をつかみ生かせまいとする凱史だが、姉の怪力には勝てるはずもなく、ただ影に吸い寄せられていくだけだった。
「ふ、あっはぁ…む…」
祀は全速力で走り終えていた。すでにここは所長室のそばで、体力回復も兼ねて祀の足取りは自然と遅くなってしまう。
扉のすぐ近くに立つと中では人が争っている気配がする。
休んでいられぬと思い、祀は王牙雷流を地面と垂直に構える。
「雷龍!!!」
剣からはじけ飛ぶ雷は扉を破壊し、中の様子をよく見せてくれた。
すでに動かぬ業に倒れる形で空気の刃に傷つけられている意識を失っている竜太の姿だった。
そして、その部屋の主は無粋な来訪者を快く招いた。
「やぁやぁやぁ祀君。何かね?もう怖くなってきてお礼の代わりに愛されに来ちゃったりしてるのかな、君は」
いやらしい下衆な笑顔で祀を見る所長は身分相応に下品な笑い声を立てた。
「俺、は…」
祀の体はすでに恐怖を感じ、動かなくなる。
そこに所長は歩み寄ってきて優しく抱きしめる。
「でも僕は許さないよ。反乱は。だから、君には痛い目を見てもらってから、それから僕の愛を贈るよ」
所長は指を鳴らし、一体の人間型生物を呼ぶ。それは黒い影の中でも異質の存在を放っていた。
「やっぱ死人をこれにとどめるにはうまくいかなくてね。更に進化しちゃいました。人間型高等生物。その名も、竾埀翅威燕でっすー。ほら、威燕ご挨拶だよ」
あらわれた威燕は弟の手本として生前身に着けていた礼儀を見せる。
「久しぶり、祀」
所長に抱きしめられ、その奥で頭を下げる兄という二つを脳内が理解した時、祀の精神は再び崩壊の一途をたどろうとしていた。
そんな祀の手を第三者が握りしめる。
「諦めんな。諦める前にやれることはいくらでもある」
竜太の手だった。その手は傷だらけで、血が乾ききっていないまだ湿っている手だった。
「必ず五人一緒で守ってあげると約束しただろ?大丈夫。俺はあきらめないから」
竜太は立ち上がり痛々しく微笑み、覇凱一閃を構える。
「お前はどっちがいい?その変態男か、それとも身内かどっちを受け持つ?」
祀はかろうじて動く手で所長を突き飛ばし、鼻をすすり、叫んだ。
「俺は、変態にする…!!!」
涙をふくこともせずに右手で王牙雷流を、左手で金箔を構え所長を睨む。
突然押された所長は尻餅をついていたが、二へ二へ笑いながら立ち上がり、吠えた。
「こんな最終局面もわるかぁねーなぁ!!!でもなぁ、祀ぃ。俺はお前が勿論大好きだからなぁはなさねぇぞ。お前は俺の言いなりで苦しんでればいいんだよ!!!」
所長は、ようやくその牙をむいた。
もう少しで終わりそうなんですね。
そういえば英語でタイトルとかカッコいいなぁとか思ってたんですけどもですね。翻訳サイト使ってやったのですが、英語を和訳すると全く違う分になったりして、今となってはわからないのです。どうしたらよいのか…。
というわけで次回第百三話 所長の曲がった愛はただ一人に向けられる。