第百話 新勢力はその牙を振るう。
まだ、煙も完全に消えぬ中で、無機質な機械音が響き渡った。それはルクァスの物でも、まして八迫自身の物でもない第三者の声だった。
第三者の声に反応した八迫は思わずつぶっていた目を開き、その声の正体を見るや否や目を疑った。
「ルクァス、機能停止を確認。これより地上を離れ神の社へと移動する」
目に立っている白銀の甲冑は右手に持つ金色の西洋風の剣を構え、ルクァスを一振りで跡形もなく切り裂いていた。
「そして、神の社への定員数を計算中…………計算完了。離地園庭園に確認する生命体をすべて排除する。のちにすべての生物を無に帰し社へと行くものとする」
白銀の甲冑はくるりと体を反転させると八迫に向き合った。
「生体反応を感知…………排除リストに反応確認、排除する」
白銀の甲冑はその右手に構えた金色の剣を迷うことなく八迫に突き付けた。
すでに戦意すらも失っている八迫はその場で指一本も動かそうとせずにその場で白銀の甲冑を眺めた。
なぜかこの鎧の姿はどこかで一度見たような禍々しさを放っていた。
大きく振り上げられる黄金の剣を目をそらすことなく見つめ、そして振り下ろされかける時に、その鎧をどこで見たものかを思い出す。
「そうか、これは犬人の_____!!!」
「否。我が真名は業。一文字の血筋が持ち出した意志ある鎧!!!」
そして、白銀の甲冑はためらうことなくその剣を振り下ろす。
八迫が赤い血をまきながら、地面に倒れる。
がばっと体を起こすとベッドのすぐそばには白衣の大人がいた。
どうやらその大人の人は紋太が突然起き上がったことに少々驚いて半歩下がっていたけれども。
「お…おはよう、調子はどうかな!?」
あはは…と笑いながら白衣の大人は軽く手を振ってくる。
紋太はここがどこであるかをぼんやりと認識してから手を振りかえした。
「________!?」
声を出した、つもりだった。しかし、出てくるであろう声は聞こえてこなかった。
「________!?」
もう一度、今度は先ほどよりも若干大きめに声を出そうと努力するが、一向に声は出てくることはなかった。
それを見ていた白衣の大人は言いずらそうに上目づかいで紋太に語りかける。
「紋太君、あのね?君はしゃべれないんだよ…。あ、って言ってもずっとじゃなくて、ちょっとの間だけ。退院するころには声出るようになってるから安心してね」
なんだかのほほんとした柔和な顔つきのその大人は、胸元から証明書を出すと自らが医者であることを告げた。
こんなのほほんとした医者は信用できないような気もするが、紋太はぎこちなく愛想笑いでごまかしたのだった。
声が出るとわかったことは嬉しいが、本当にこの医者で大丈夫なのだろうかという不安はぬぐいきれなかった。
「いい…いたよっ!!!」
ようやく離地園にたどりついた亮祐はポチの鼻を頼りに八迫と竜太の二人を探していた。
「…。遅かった…みたい、ね」
理緒がそこで倒れている八迫を見て、思わずつぶやいてしまう。
肩から迷うことない直線で斬られている八迫が離地園の地を赤く染め上げていた。
ポチが駆け寄り血の気がなくなっているその頬を舐める。
「…何でおれたちはこんな風に血を流してまでこんな事やってなきゃいけないのかなって、いつも思うんだ」
亮祐はよいしょっ、と言いながら八迫を担いで歩き出す。
「何もこんな年端もいかないまだまだ経験不足の俺たちじゃなくても、本部にはもっと適任の奴らがごまんといるんだ。何もさ、俺たちじゃなくてもいいんじゃないかなって…。いっつも苦しい思いして、怪我ばっかしなくても正義の味方は、どこかにきっといるんだろうなぁーって」
車に寄り掛かる形で八迫をそっと置くと、車内から医療用具を取り出し、八迫に的確な応急処置を施す。
そして、自分では言わずにいようと思ったのにいつの間にか話してしまっている自分がいた。
誰にも何も言わずにいなくなろうと思ってたのに。できるなら紋太を連れて二人だけで平凡になろうと思っていたのに。
「なぁ…、理緒はさ、俺がこのまま辞めるって言ったら、一緒について来てくれるか?」
亮祐はこれまで見せたことのないような顔で、理緒に微笑んだ。
「やっぱ、親の前だし、言えなかったけどさ、俺は向いてないと思うんだ。だから、最後にするべきことをして、やめようと思うんだ」
理緒はゆっくりと亮祐に近づいて声をかける。
「絶対ダメ。あ、イヤ、他人の事だからこんな事言っちゃいけないのかもしれないけど、やっぱりダメ。後悔するよ?絶対にあとで何で辞めちゃったんだろうって後悔するよ?」
あぁ、切ないっていう感情はこんな時の状態を表しているのかなぁ…なんて、思っていた亮祐は一度目をつぶると深呼吸してから再び立ち上がる。
「じゃぁ、まだ俺は辞めるべきじゃないんだろうな?」
その眼は先ほどまでの弱弱しいスズメのような眼ではなく気高く獰猛な鷹のような鋭い、戦っているときの亮祐の顔に戻っていた。
「今回の事が全部終わってから、もう一度よく考えてみる。その時考えて、そういう結論に至ったとしたら、その時は…っ。その時はっさっきの言ったことの、返事が、欲しい。どんな答えでも、俺は何も言わないから」
亮祐は八迫の傍らに落ちていた銃剣単射八十八式銃剣を拾い上げると一人で歩きだしていった。
途中、突然立ち止まると背中を向けたまま理緒と、ポチに叫ぶ。
「ちょっと行ってくるから、八迫の事頼んだっ!!!」
言いたいことをすべて言い終えると、誰ひとりの返事も聞かずに走り出した。
(なんだか最近、空気並みの存在だなぁ…。)と心の奥底でポチが思っていることがあり得なくもなくもない。
「ねぇ、ポチ…。いまのって…あれ?えっと…その……ね…」
髪の毛をくるくると指に巻き照れる仕草は女の子の物であった。
じれったくなって、そして自分の扱いが酷いことに対する憂さ晴らしかポチは少し大きめの声で周りに聞こえるように理緒が言えない言葉を口にしてやった。
「プロポーズだよ…」
誰も聞いているような奴はいなかったけれども、とたんに、がわふーっ!!!という猛獣のような叫びとともに理緒は赤面してうずくまってしまった。
ちなみにそのすぐそばでは八迫が結構な重賞で倒れてたりするのだが。
「人間型生物は、絶対に作ってはいけない生物兵器だったんです」
摩天楼を駆け抜ける途中、祀はつぶやいた。
「ただの知能を持たない生物ならよかった。対応策はいくらでもある…。でも、人間や、犬人など知能ある生き物がベースとなって作られる生物は中途半端な知能が残っている分、対応に困るんです」
突然に始まった高等生物学に竜太はぽかーんとしている中で豪火竜はその理論についての知識を吸収し、学んでいった。
「つまり、知能があるとこちらのしようとすることが分かってしまうというわけですな…」
まったくもってついていけていない竜太はいつの間にかその歩幅は縮まり、いつの間にか一人になっていた。
「あ…あれっ!!!豪火竜!?祀君!?」
中学二年生。中学一年生と相方の竜と逸れて迷子。中一の方がちゃんとしてました。
「ちょ…なんでぇ____!!!」
そんな中、竜太の背後ではなぜかカチャカチャという音が響いていた。
「神の社計画排除リストに確認。ただちに排除する」
背後から突然剣を振り現れたのは八迫を襲ったものとは別格の騎士だった。
「かっ…かっこいい!!!!」
「我の名は福音一文字の血筋が持ち出した意志ある鎧!!!」
二本の剣を自在に操る鎧を前に竜太はカッコいいと思っていることもできずにその場から走って逃げだす。
「福音の名をその肉体に刻み込み、堕ちて行け!!!」
次回予告っぽい呟き。
今回は某動画サイトで音楽聞きながらの作業をしております。
というわけで【!?】
次回はお話が結構進展してくれるのを望みます!!!
あ、でもやっぱり面白い…かなと思ってもらえるようなものが書ければ進行速度は二の次です。
余談ではありますが、業って書いてカルマと呼ばせるこちらは何と倫理の教科書からきております。というか今回の話で出てくる語句はもっぱら倫理の教科書から来ております。
いやー、学生らしいなぁ…。
まぁそんなわけで第百一話 タイトル未定