第九十八話 祀は決意し、乗り込んでゆく。
今週は金曜日更新は無理だなぁと思ったので。
「本当、なんですか…?」
思わず亮祐は尋ねていた。
先ほど医者が言った言葉は、何度も頭の中で響き渡った。そして、何度もその考えを振り払おうとした。
けれども、考えは、振り払うことはできなかった。
そんな亮祐の肩にやさしく手が置かれる。
一瞬、それは理緒の手かと思ったが当の理緒は目の前で医者と話している。
ゆっくりと振り返ると、そこには蒼髪の医者がいた。
「あなたがしっかりしなさいな。じゃないと今度は峰うちじゃすまないわよ?」
看護婦長の権力を使い腰にドスを下げている元先生はこれまでに見せたことのないような笑顔で亮祐に微笑みかけた。
「せん、せ…」
亮祐はかつてしたように彼女の胸を借りて嗚咽を漏らした。
「あなたはもっと周りに頼っていいのよ。あなた一人で抱える必要のあることなんて何一つない。あなたには素敵な友達がいっぱいいるでしょ!?行ってきなさい。あなたはあなたにできることを、成し遂げるの」
ポン、と肩を押すようにして看護婦長は亮祐の気持ちを押した。
そしてその気持ちを理緒が掴む。
「さぁ、行きましょ?」
足元ではポチが元気にワンッと泣いた。
亮祐は周りを見渡してから深呼吸すると、立ち上がった。
服の袖で涙を拭い、空を睨みつけ、病院を走って出る。
その背中を看護婦長と紋太の担当医は見送る。
「言わなくて、いいのかい?」
担当医の男は走って出て行った亮祐と、それに続く理緒とポチを見ながらため息のごとく漏らした。
「いいじゃない。こんな時は思いっきり暴れてこなきゃいけないの。何を言っても止まらない。止まってちゃ、駄目なの」
腰のドスを柔らかになでると看護婦長は来た道を戻っていった。
「いつまでも依存してるような子供は、駄目になる。だから親も威厳のある厳しい人でなかなか帰ってこない人だと思わせておけば、自立するわよ」
いつものような凛とした女性に戻った妻を見て、夫は微笑む。
「やっぱり、きついねぇ…。そこが、いいんだけどね。さてさて僕は紋太君の様子でも見て来ようかな」
「俺の、この金箔で紋太君を斬ればいいんですね」
カーテンが風で踊る病院の一室で祀は金箔を両手で持っていた。心なしか、その手は震えている。
「いい。斬って、その全ての呪いを断ち切ってやれ」
斬った相手の周囲の空気を自在に奪う風刀金箔が窓から入ってくる風を受けひゅうひゅうと唸っている。
祀は目をぐっとつぶるとその刀身を振り下ろした。
その刃は紋太に当たることなく空を切った。
「…。たぶんこれでいいだろ。行くぞ、祀。今度は、お前を助けてやる」
夕日が照らす病室の中で八迫がその場に似合わない笑顔で微笑んだ。
竜太は【最初からこの場にいたのだが】事の次第をカーテンを噛みながら見ていた。
「じゃぁ、案内します。俺たちの牢獄、離地園へ…」
夕方も終わりを告げるような時刻、亮祐は本部の机の上に置いてある走り書きを手に取るとつぶやいた。
「あいつら、帰ってきたんだな」
ふと理緒とポチを探すと、二人りはすでにそばにいた。
理緒はその身を汀とメリケンサックで固めて。
ポチは犬人仕様の武装で膝を震わせていた。
「なぁ、ポチ。もし、お前の国が片付いたらさ、それでもお前がまだここにいてくれるんだったら紋太と一緒にいてやってくれ」
亮祐はそのあとの言葉を無理やり飲み込んだ。
まだ、此処では言うべきではない。言わなくてもいいことだから。言わないまま、俺は全てを決めると決めたから。
「じゃぁ、行こう。今度は、全員で帰ってくるんだ」
牢屋とは名前だけの空間だなぁと鐵は思った。
すでに何時間此処でこうしているのかはわからない。
先ほど終わった人間型生物たちによる退屈しのぎはただの暴力で、すでに抗う余力が残されているわけでもない鐵と佚榎はただその一撃一撃を重く受け止めるだけだった。
「なぁ……生きてるか?」
こういう時は起きてるかって聞くもんだろう?なんてそんなことを言っている余力すらもない。
文字通り満身創痍。すでに指一本動かせぬ状態だった。
「生き、てるよ……」
水を欲している喉を震わせ鐵は答えた。
「……祀、裏切って…ない」
佚榎は祀が裏切っているとでも考えているのだろうか。それこそあの男が狙っているであろうことだろうに。
ただ、それが本心ではないことぐらい鐵にもわかった。
狂ってしまう。
ここでただいるだけだと壊されてしまう。だから、
だから鐵は目をつぶり呼びかけてみた。
昔から何でもできて皆の中でリーダーみたいで格好良かった…否、今でも何でもできて自分たちの中でリーダーみたいで格好がいい、ヒーローみたいな祀に。
ただ、助けて、と。
「離地園…」
ふわっと風がなびく其処は家主の趣味であろうきれいにガーデニングされている庭園。しかしそれ打ち砕くのは所狭しと置かれている魔界の生き物の置物。
それは、美しい庭園を見にくい場所へと変貌させていた。
「いい趣味だな…。これが、離地園か。持ち主の美的感覚があらわれてる…」
八迫は持ち込んだ銃剣単射八十八式を構えるとすぐ真横に偶然おいてあった首に鈴をまいた狛犬のようなガーゴイルの石像に銃を打ち込んだ。
通常の八十八式ではありえない凄まじい爆炎とともにその石像は壊た。
そして、その中から出てきたのは、先ほど壊したはずのガーゴイルだった。
「我はガーゴイル。離地園の入り口の守護者也」
青銅の輝きを失ったガーゴイルの体は黒一色で、その眼だけが不気味に赤く光り輝いた。
「ほっほっほっほ…。私の眠りを覚ます御方は誰かしら…。美しい男性?うんん…きっと私の眠りを終わらせに来てくださった私だけの、王子様」
さらに続いて白色の狛犬のような姿に金色の翼をもった生き物だった。
「私の名前はルクァス。エデンの園の守り神。そして…美しい愛の狩人!!!」
ルクァスの目は蒼白に光り輝く。
「あいつらが、この土地への侵入者を防ぐ土地神!!!」
祀が腰に帯刀している王牙雷流に手を伸ばす。
それを見た八迫と竜太は互いに武器を構え、互いに微笑む。
「必ず、お前とお前の仲間は助けてやるから安心して闘っとけ」
八迫は男前に笑って突撃した。
「我はガーゴイル。離地園の入り口の守護者也!!!」
「私の名前はルクァス。エデンの園の守り神!!!」
二対の石像と三人の人間の戦いは火ぶたを切って落とされた。
今回、祀編の核心にやっと近づいた気が!!!
そして次回は第九十九話 未題
…。何も決まってなかったりしたりするのです…。
とにかくガーゴイルとなんとかは倒して…。