第九十七話 彼らは真実を求めたかった。が…
「さて、見事逃げてくれたことだし、行こうか?威燕。犬人と猫人の人間型生物の製造に取り掛からなきゃいけないからね」
そして所長は余裕を持って歩き出そうとする。が、思い出したように手を叩いて威燕に微笑みかけた。
「祀君のオトモダチに伝えなきゃね。裏切り者がいるってねぇ…」
所長は威燕の肩をつかむと一瞬にして消えた。
「本当なんですか!?祀はそんなことする人じゃありません、見間違いです」
所長室の中で呼び出された鐵は所長に食って掛かった。隣にいる佚榎は所長を睨んだ。
「嘘だ。祀は裏切って切り裂きジャック側に着くわけがない。俺たちは祀を信じます」
佚榎はそれだけ言うと扉に手をかけた。
それを回すと見慣れたいつもの廊下に出るはずだった。いつもは。けれども扉の向こうはいつもの廊下ではなく黒い影に覆われた牢屋につながっていた。
「…。どういうことですか、所長」
事態を判断した鐵が所長の机を再び割る。それに続いて佚榎も腰のチェーンに手を伸ばす。
「あんたが今やっていることは、簡略化して俺たちを倒すこと…だろ?やらせないよ、簡単にはね」
二人の少年が威嚇する中所長は鼻でふふん、と笑うと二人の首をつかみあげる。
「僕は賢い仔が好きだったのに、君たちはあんまりお仕事しすぎちゃったから頭に虫がわいちゃったんだね!?いいよ、その虫が死ぬまで、あの部屋でゆっくり休みを与えるよ」
所長は、素早く二人を牢屋に投げ入れ、人間型生物に命令を出した。
「退屈しないように遊んであげて」
そして、扉は閉められる。
数秒の静寂の後に、金属音が響き渡った。
「で、あんたは休まなくていいわけ?」
紋太を担ぎこんでから一時も動かずに貧乏ゆすりをしながらイライラしている亮祐に対して、理緒は冷たいお茶を投げつけながら話しかけた。
「…。俺さ、八迫に言われて思ったんだけど、やっぱり紋太をここに入れるべきじゃなかった。だから、紋太が治ったら、一般家庭か普通の家で生活させてやるべきだと思った」
理緒はいつの間にか亮祐の胸倉を静かに怒鳴った。
「あんたは八迫にそういわれたのが悔しくて、いろんな感情抱えて…それで喧嘩して、おいてきたんでしょ!!だったら自分が一度持った考えをやすやすと曲げてるんじゃねぇよ!!!」
肩で荒く息をしながら理緒は亮祐を睨んだ。しかし亮祐から帰ってきた目線は魂の抜けたような目だった。
「でも…紋太は傷つかずに済むよな。そんで、俺はこんな思いをしなくて済むようになる。いいじゃんか。誰も苦しまない、誰も傷つかない」
それを聞いた瞬間に、理緒は亮祐を殴り飛ばしていた。
「逃げたいからって、それっぽい理由でっち上げて逃げようとするなよ。あんたがどうこうじゃなくて、紋太の気持ち考えてやりなさいよ…!!!あんたが怖いから逃げるんじゃなくて、紋太のためだとか言って逃げるんじゃなくてちゃんと話し合ってから決めなさいよ!!!」
その時、ちょうどよく手術中のライトが大きな音を立てて消えた。
「…」
「…」
「…」
竜太、八迫、祀の三人はほかに誰もいない本部の和室の客間にいた。
ちなみに和室なのは客間は和室だろ!!!という設計者の遊び心である。
「どういうことか、全部話してくれるかな?」
先ほどからの沈黙に耐え切れなくなった竜太は少し声を荒げて口を開いた。
「…。助けて、ください」
相変わらず、祀は下を向いている。けれども竜太の沈黙破りのおかげか、少しずつ自分の身の上、現状を話してくれた。
「じゃぁ、つまり今お前たちはそいつに監禁されてて奴隷扱いというわけか…」
八迫が要点をまとめあげると祀は涙でぬれた顔をあげ刻々と頷いた。
「じゃぁ、こっちから一つ頼みがあるんだが…?」
竜太は二人のやり取りをのんびりと眺めていた。傍らに置いてある冷たいお茶と硬い醤油の煎餅を相棒として。
「紋太の呪いをかき消してほしいんだ。お前なら、出来るんだろ」
八迫が言った言葉に、竜太は煎餅を吹き出してしまった。
結果、その煎餅は八迫の髪に素敵な飾りをつけることになった。
「てめぇ、一変どころか何百回も死ぬか!!!」
八迫は瞬時に立ちあがり竜太を追いかける。
竜太はそれから必死に逃げだす。
それは、まるで祀と佚榎、鐵のようだった。
「…。条件を呑みます!!!だから、今から助けてください!!!」
祀は頭が机にぶつかり鈍い音を立てたことをも気に留めずただ頭を下げ続けた。
今まで途切れ途切れで弱弱しい感じだったのに、突然の反応に竜太と八迫は顔を見合わせる。
そして二人は同時ににやつくと祀に歩み寄った。
「とりあえず、くすぐられとけ!!!」
八迫が叫ぶと同時に四本の手が、祀に襲い掛かる。
コンマ数秒で理解した祀は顔を上げるがすでに時は遅かった。
客間に笑い声が響き渡った。
「じゃ…じゃあ…」
真っ白な壁に真っ白な廊下。そんな中で告げられたのは、紋太の体の事だった。
手術室から出てきたのは一匹の犬、ポチだった。
「…。ごめんなさい。こんなこと、頼んだから!!!」
理緒がやさしくポチの頭をなでる。
「あなたのせいじゃないから。あなたがそんなに苦しむ必要は全くないの。安心して」
かたんっと言う音とともに亮祐が膝をついた。
とりあえず、今後の事は何も決まっていませんが、またしょうもない結末だけ考えていたりします。
結果的には○○が××達と一緒に○○することになっちゃうという予定です♪
それではまた次回!!!
第九十八話 祀は決意し、乗り込んでゆく【仮】