第九十六話 猫人進撃す
言い訳させていただきます。
テストだったので…。ごめんなさい
これからはしばらくできそうなので、これで割愛とさせていただけると幸いかと…。
「で、この子はだれなのよ…」
理緒は壁に寄り掛かる形で寝かされている少年を見て思わずつぶやいた。
「…。俺が知るかよ」
すっかり膨れた様子で壁と向かい合っている亮祐は船が動き出してから微動だにせずにその場で座っていた。
「じゃあ八迫がおいていったっていうの…。どうしろっていうのかしら…」
胴体着陸のせいで出力が落ちた行船の中で、空調設備だけが低く唸り続けた。
「竜魂の使い方も知らない者がこの国に立ち入ることは許されないんだよ」
鈍い音と共に壁に叩きつ駆られた竜太の首に国王は炎に包まれた鋭い爪を滑らせ力強く締め付けていく。
「死ね。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。お前が死んだら俺が地上に降りてやるよ。一文字の血は一滴たりとも残しておかない。」
ギリギリと首に入れられる力が強くなっていた。
「そこらへんで鎧剥いでくれるかな?ついでにそれも解放してくれるかな」
後頭部にハウリングを貫いた竿が付きつけられる。
「俺のひ弱な攻撃じゃ、その鎧貫通できないんだわ」
竜太は王の後ろに立っている八迫の姿を見つけた。
「そう言えばさ、お前と一緒に戦うの初めてじゃねぇか?」
のんきにため息を一つ吐きながら八迫は王を弾き飛ばした。
ようやく首から手が離れた竜太は思わずそこを撫でる。
「火傷…してるし…」
これは帰って冷やさないといけないなぁと思いながら竜太は王の方へと目を向けた。
「…えひっえひひひひ…」
王はその場で明後日の方を見ながら笑い出した。
「悲しいなぁ…悲しいなぁ…。とっても悲しいなぁ…。君たちと遊ぶのはとても楽しい。一文字の血筋を絶やすのを忘れてしまいそうになるよ…。でもね?おしまいなんだよ…。もう、彼らは襲ってきてる」
八迫は竿を突き付けて王の顔を弾く。
「何のことだよ」
「えっひっひひひひひぃ・・・。えひひひひっ!!!来る。来る来る来る来る来る!!!奴らが来る!!!」
王が言い終わると同時に城内に衝撃が走る。
何度も何度もまるで、この城が攻められているかのように何度も衝撃が襲った。
「えひひひっ!!!俺たち犬人は今までずっと猫人の国を襲ってたんだよ…。今、反撃されてるんだろうなぁ。この国も終わりだぜ!!!犬人と猫人は互いに潰しあって、滅びる!!!えひっえひひひひ!!!」
さらに追い打ちをかけるかのように大広間の扉は開かれる。
「貴様ら、犬人をまとめて駆逐する!!!われらは猫人守護隊。猫国領土侵攻罪により犬人国国王サハラン抹殺を遂行する。並びにその従者二名も同じく抹殺する」
大広間に入ってきた猫人は完全武装し、その武器は国王、竜太、八迫の三人に向けられた。
「かかれ。抹殺だ」
にゃふーっという掛け声とともに猫人たちは飛び掛かってきた。
「んむぅ…」
祀はゆっくり目を開くとそこには書類でよく見知った雰囲気の顔が二つあった。
所長から手渡された最終目的の一人だった。
「あんたら…」
思わず声に出していってしまうと理緒がこちらを振り向いた。
「あら、あんた起きたの!?じゃあ、あんた何処の何だか教えてくれる?何でここにいるのか、もね」
祀は顔の前に乗り出した来た理緒に思わずのけぞるとガツンという音であぁ、頭ぶつけたなということを自覚した。
「で???」
理緒は壁に頭を打ち悶絶している祀に対し再び同じ質問を繰り返した。
「…。竾埀翅祀13歳です」
祀は言いながらとっさに逃げられそうな方法を探し、外をを見て驚愕した。
「空…!!!」
一瞬にして窓へと駆け寄りそこから外に広がる空を見つめる。
「何…?空好きなの?」
話を途中でさえぎられ、さらに突然の行動による驚きでひっくり返ったためか、若干理緒の声は低くなっていた。
しかし祀はそんなことを気にも留めずにただ空を見ている。その眼は普通の少年が何かにあこがれいる時に見せるような眼だった。
しばらく空を堪能した後祀はくるりと体を反転させると理緒へ話しかけた。
「ところでさ、平田竜太って、どこ!?」
亮祐は無言でまだ若干見える犬人の国を指さした。そして理緒がそれに言葉で補足する。
「竜太ならあの島に八迫って人と一緒に残ってる」
祀は若干首をかしげると無言でうなずき出口へと向かった。
「じゃぁ、俺もう行くね。ありがとうございました」
帽子を外してぺこりと頭を下げた後、祀はドアを開けて外へと踏み出そうとしてから思い出したかのように体を反転させた。
「とりあえず、平田竜太と八迫さん?だっけ、必ず送り届けるよ」
言い終わると同時に後方にバックステップで跳ね、常人にとっての自殺行為空中落下を行った。
理緒は何度か祀の手をつかもうとするが、そのたびに空気に押されてその手は前に伸びない。
そして、扉は抑える人間が落ちていくことによって空気により閉められた。
「…!!!死んじゃうじゃない!!!」
とっさに操縦桿に手を伸ばして祀の姿を探す理緒は、祀を見つけて思わず操縦桿を握る手が滑り落ちた。
「空を…飛んでる」
実際にはその下にスケートのようなボードをつけていたのだが、それは小さすぎて見えないようだった。
空を飛んでいるという実感を噛みしめながら祀は通信機の通話ボタンに手をかけた。
そして、通信機は音を立てて鳴り始め、それは佚榎の声が聞こえるまで続いた。
「あのさ、みんな、どうしたの!!!」
竹やりで刺そうとしてくる猫人を剣の峰うちで払いのけながら、竜太は隣で竿を振り回す八迫に聞いた。
「決別、だ。あいつがあんまり紋太紋太いうから、そんなに心配なら一般家庭で住まわせてやれってつい…な」
思わず剣を振る手を止め竜太は八迫に声をかけた。
「そんなこと言っても、拾ったのも亮祐だから、いろいろと責任感じてるんじゃないかな。たぶん亮祐、紋太の両親、探してるよ?いつでも返せるように探してるんだよ、きっと」
竜太が言った詭弁に鼻で笑うことで返答した。
「あいつが紋太を手放せると思うか?親は海外で働いてていいとこのお坊ちゃんで、金だけしか余ってない、金より大事なものを持ってないような奴だぞ?そんなやつが、無いものを紋太で埋めようとしてる奴が紋太を手放せると思うか?」
八迫は再び竿を振り始めた。
「あいつは紋太から離れられない。だから、無理やりにでも何をしてでも紋太から離れさせるべきなんだ。 亮祐が‘一文字紋太‘を知る前に」
竜太には言葉の意味が解らなかった。一文字紋太が何を意味するのかが。
「あいつは、厄災だ。厄災の血。呪われてるんだよ、シャガンに」
理由が言われても、竜太にはしばらく理解することができなかった。
「シャガン…?」
いつの間にか八迫の両肩を押さえつけていた。
「あいつと、紋太に何の関係があるんだよ!!!」
肩にかかる負荷を物ともせずに八迫は短く告げた。
「一文字は罪人としてシャガンに呪われた一族なんだよ。そこの国王が着込んでる鎧を持ち出した泥棒扱いなんだよ。あの鎧が何かも知らなかったシャガンが付けた烙印だよ」
「じゃあ、じゃあ!!!紋太は一生呪われたままなのか!?」
八迫は竿で竜太を突き飛ばす。鬱陶しいといわんばかりに。
「呪われてる奴は、災いしか運んできてくれないんだよ。呪われてる奴にそんな都合のいいことが起こるわけがない」
「じゃあ、これまでの戦いも全部、紋太に引き寄せられて起こったことっていうこと!?」
小さい子供にそんな災いばっか背負い込ませてるっていうのか?全部知ったうえで、切り裂きジャックはほったらかしにしてるっていうのか?
竜太は龍魂剣を地面に深く差し込み立ち上がるとその剣に炎を纏わせた。
「全部壊してやる。呪いだとか厄災だとか、小さい子供にそんな思いもん背負わせてる上も全部、俺が斬ってやる!!!」
龍魂剣が纏っていた炎はやがて竜太の手から全身に行きわたり竜太自身をも包み込んだ。
「まずは、その鎧!!!溶かして鉛玉に変えてやるよ!!!」
一瞬で王の背後に回った竜太は容赦なくその背中に向けて龍魂剣を振り下ろした。
鎧は一瞬にして炎に包まれ、その姿を変えていく。そして中にいた王は斬撃の衝撃により足元がふらつく。
その周りには鎧だった鉄の塊が煙をあげながら水たまりのように飛び散っていた。
「龍魂…」
竜太のその姿を見た王はその言葉を口にして、その場で倒れ込んだ。
「次は…何を壊す!?呪いか…厄災か!!!」
竜太を取り巻く炎は次第にその周囲の瓦礫もともに燃やしていた。
「壊すんだ!!!紋太が背負ってる思いもんを全部!!!持たなくていいものを!!!」
「待て、そこのサハランの従属。お前は全てを壊すというのか…。猫人の国をもか??」
背後から背の高い猫が一匹はい寄ってくる。しかしその猫は竜太の周りの熱気で一定の位置からは近づいてはこられないようだった。
「それが、災いなら!!!」
とっさに竜太を止めようとした八迫は自らの額をぺしんと叩いた。
「しゃべり過ぎたぁ!!」
おそらくこのままなら理性ではなく感覚で動き始めるだろう。一気に教えすぎたと八迫は自らをほんの少し罵った。
「猫人の国を滅ぼす理由はないよ、竜太。君が滅ぼさなきゃいけないのはジャクソニー…本当の名前は、ジャックハンター」
上から声がした。
八迫が声の主を探すとそれは瓦礫の上に座っている船においてきてしまったはずの少年だった。
「こんにちは。ひょっとしてあなたが八迫さん、ですか?理緒さんに連れて行くって約束したのでついて来てもらえますか??」
そういって地面に向かって飛び跳ねた祀は一瞬にして竜太の龍魂を消し去った。
「俺の名前は竾埀翅祀。それと…俺の友達の佚榎と鐵です」
その場所にはいつの間にか、三人の少年によって囲まれていた。
「これから、俺の目で知りたいと思います。あなた方切り裂きジャックが何を目的としたなんなのかを」
「どうも。鐵です。よろしくー」
ぺこりとお辞儀をする鐵に続いて佚榎が両手を幼気に振っている。
「佚榎です、よーろしくー」
そして、祀はその場にいた全員を拘束した。
「これより、あなた方を連行します。主に、そこの犬人と猫人は所長からの命令で、切り裂きジャックたちの事は伏せているので少し、私たちと来ていただきます。佚榎と鐵は、そこの鎧の塊もよろしく」
あいよーと気楽に鎧を回収する佚榎は猫人を束ねている綱を掴むと魔方陣を描き来た時のようにいつの間にか姿を消していた。
「俺は犬人連れてくねー。ってか犬人一匹とさっきそこで倒した白い綿みたいな犬だけか…。じゃ、先行ってるからさ」
佚榎が描いた魔法陣の上に犬人を引きずり込むと消えた。
その場に残されているのは竜太と八迫、そして祀の三人だった。
「さて…始めましょうか」
祀はそういうと竜太の肩にゆっくり手を置いた。
「俺たちを、助けてください…」
その声はこれまでの凛とした声と一変し、とても弱弱しいものだった。
「俺たちを、あいつの手から助けてください。俺たちを殺し、俺たちを支配している所長から助けてください」
祀は嗚咽をこらえて言葉をつづけた。
「あなた方は、俺たち五人を助けてくれますか?」
巻きつけられていた紐が解かれ、竜太と八迫は唖然とする。
しかしそれもすぐに戦闘に引き戻され、三人は身構える。
「竾埀翅祀、平田竜太、栗柄八迫の三名を補足。会話文の記録を判断。……竾埀翅の裏切りと理解。よってこれより独自判断により上記三名を同時消去プログラムを発動する」
それは黒い影を立体化させたような存在だった。真っ黒。まるで幼稚園の子供が力任せに黒を塗ったかのような強く、濃い黒。しかし、風のように動き人間では不可能な関節の動きをすることからそれは人間ではないということが八迫には理解できた。
一方の祀はそれを睨み、歯ぎしりした。
「完成…していたのか?人間型生物…」
更に祀に追い打ちをかけるかのように影の後ろから一人の人間が現れる。
「やぁ、祀君。所長だよ?僕は好きだったのにね?賢い仔が…ね。でもね、もう遅いんだ。賢い君はあの時と同じように二回も死んで、さらに今から三回目の死を遂げてもらおう」
所長は先端のとがった刃物を呼び出すと恐怖で動けない祀の首にぴったりと当てた。
「威燕、そこの二人を殺してくださいね」
所長が何気なく言った威燕という名前は祀を一瞬にして狂わせるのに十分な一言だった。
「あっ…あ…あぁあう…うあぁぁぁぁあああぁ!!!」
所長は祀の様子を見て口をゆがませる。
「あっははは!!!僕が約束守ると思った!?お前の父ちゃんも母ちゃんも、みんなみいぃんな…人間型生物になっちゃいましたぁー!!!」
「闘争は罪を重ねる。一刻も早い罪を受けろ」
一方の威燕は無機質な声で八迫と竜太を追いかけていた。
「あぁ!!!うっうああぁぁぁあ!!!」
祀が発狂する中、竜太は所長の背後に回り思いっきり蹴とばした。
「……。うあ…あ?」
蹴飛ばされ飛んでいく所長を見て祀は今まで下を向いていた顔を上げる。
「助けてやる。だから、一緒に来い!!!」
答えを聞かずに竜太は祀の手を取る。
「八迫!!!とにかく逃げるぞー!!!」
竜太は大広間から走り逃げ出すと八迫とともに犬人の国から地上に向けて落ちた。
「え!?ちょ…ちょっと待って!!!これは自殺行為だから!!!もう空はいいから~!!!」
祀は竜太につかまれていない右手をバタバタすると叫び始めた。
やけに澄み渡った綺麗な青空の中、三人はただいつまでも落ち続けていた。
とうとう終わった鎧王編。落下していった先はいったいどこになるのでしょうか!!!普通に本部に落とすべきでしょうか!?
そんなわけで次回より一応新章に突入させていただきます!!!
次回第九十七話 彼らは裏切りを知り、友を斬る【仮】