第九十三話 集まる勢力
これからもよろしくお願いします。
一生懸命に戦っていたのに。
戦っていた最中に体格が桁外れの大きさで俊敏な犬人に担ぎあげられたと思ったら…。
紋太は今の状況を見て思わずため息をついた。
何で自分は犬人の波にさらわれていなければいけないのか…。
今の紋太とポチは、犬人の頭上を手によってどんどん後方へと流されているという状況だった。
このままではどこに連れて行かれるかわかったものではない!!!いや、本当はわかっちゃうんだろうけれども。ポチを重罪人として捕まえたいという偉い人のところに連れて行かれてしまうのだろうけれどもっ。
なんとなく、ただ何となく何の意味もなく紋太は再びため息を漏らした。
先ほど、亮祐が助けてくれようとしているのを見かけたがそれもやがて犬人の波に消えていった。
その鎧は封じられていたはずだった。
その鎧はすでに屠られていなければいけないものだった。
力有る者を求めてさまよう鎧。その鎧を閉じ込めるための場所が分かっていたのに…。
その鎧は自分の意志を持つ、いわば生きた鎧だった。
そしてその鎧は自らを神のごとく周囲に災厄をふりまいてきた。
さしずめそれは破壊神。その破壊神によって一つの家族は崩壊を迎えた。
封じようと運搬途中の一家は、その鎧の破壊の力によって崩壊させられた。
至る現在、その鎧は犬人の王の身体を家城とし、全てを支配していた。
その鎧が立ったひとつ恐れているもの。それは血だった。ただし、とある家系の血。
その血で鎧が清められるとき、その鎧は変貌する。すべてを捨てて。
破壊神と称される鎧を清められる血を持つ一族は一文字家。
ただし、正しい手順と方法を踏まえて行動を起こせば、その鎧は真価を発揮する。
そしてその鎧は呼び寄せた。
一文字家の末裔と、飼い犬を。
「くそっ!!!どけよ、お前たちに用があるわけじゃねぇんだ!!!」
叫んだ亮祐の右手には紋太のトラベラーと対をなすアドベンチャラーが握られていた。
すでにそのエネルギー残量はゼロの数値を指示し、ただの鈍器としての使用方法しか残されていなかった。
そのアドベンチャラーを振り回し亮祐は道を開いていた。
そんな中で突然目の前に立ちふさがっていたのはぼさぼさの毛並みをした犬人だった。
「ねね?あんたが反乱軍でしょ、そうなんでしょ!?俺わかっちゃったもんねー」
嬉しそうに声をあげて笑うその犬人の目が一瞬光輝いたと思った瞬間に、亮祐は地面に足をついていた。
「ニンゲンってさ、空に来ると酸素ってのが薄いから動きが遅くなっちゃうんでしょ!?不便だよなぁー。俺たち犬人みたいに空で暮らせばよかったのに…。でもダメだよな、欲望の塊の堕生物には」
その言葉には明らかな棘が含まれていた。
一瞬にして攻撃をした犬人は見下すように不敵に笑った。
「ふふふっ!ニンゲンって不便だろ!?俺たちが楽にしてあげるよ?猫人の国を支配して、それからニンゲンの国ももらうんだ!!!俺たちの国王って賢いでしょ」
そういってその犬人、雑種は再び瞬間加速で亮祐を蹴り上げる。
「まだまだ楽しみは残ってるんだもんね~」
雑種の一方的な楽しみは終わることはなかった。
「…。で、何で私はまたあんたと一緒なのよ…。何であんたとまた二人っきりなのよ!!!」
襲い掛かってきた犬人の兵士たちは理緒と竜太の二人によってそのすべてが意識を保っていなかった。
「…。どうしましょうか」
竜太はその場で理緒の顔色をうかがいながらおどおどと尋ねる。
その質問に対する答えは憂さ晴らしの鉄拳の後に述べられた。
「奥に行くに決まってんでしょ!!!また一人ずつ消えてんだからこのまま戻れないでしょ!!!」
竜太はしぶしぶと理緒の後を歩いてついていった。
ちなみに運転できる人がいないため、歩きでしか行けない。先ほどまで理緒が運転していたのは万が一の場合に止められるかもしれない人がいたからじゃないだろうか。
「とにかく行かなきゃいけないんです―!!!」
誰にと言うわけではないが腹の底から叫んだその言葉は、かすかに聞こえていた。
「来るね…。もうすぐ来るんだ…。ホント、楽しみだわ。ねぇ?」
スリムな体型で足を交差させてソファに座っているメスの犬人、白綿はその隣に立っているもう一人の犬人柴へと語りかけた。
「えぇえぇ。柴も楽しみですとも」
二人は今にでも開け放たれそうな扉を前に来客を心から待ちわびていた。
いや、なんとなく言っただけですよ!?
それにしてもなんで今更挨拶してしまっちゃったのでしょうか。
…。バカってことですね?