第九十一話 始まる戦争
書き溜めていて送るのを忘れておりました。
これはいかん…。どうもすいませんでした。
うっすらと目を開けた紋太はここがどこかと試行錯誤して、やっと自分がいた場所を思いだし起き上がる。
「まだ寝てたほうがいいよ。倒れたんだから」
起き上がったことを察知したポチが駆け寄ってきて紋太のほっぺたをなめる。
「でも、みんな…」
紋太は自分だけ戦わずにここで休むなんていやだーとごねてみたが、ポチは宣戦復帰を許すことなく数分が立ったころ、理緒を筆頭に竜太と亮祐が入ってきた。
「討伐完了!!!」
理緒が操縦席にどっしりとすわり休もうとするのを見て亮祐が赤くでかいボタンを発見した。
亮祐はそのボタンがどのような結果を生むかを理解していた。しかし友達が作ったものだし、別にそんな大きな被害は出ないだろうと一方的な解釈で叩き押した。
それは見るからに怪しく大きなガラスで囲われたボタンだった。
竜太はそれをどこかで見たことあるなぁ、と思い記憶の中をあさっていると突然大きな震動で船から案内が流れる。
『この船の自爆ボタン。あんた押したんやろ!?な、自分なにしたかわかっとんねやろ?でもな、それでめぇそらしてたらあかん。あかんでぇ。お天道様に顔向けできへん。今からでもおそぉない。あきらめや』
この関西弁ナビゲーターはいったいボタンを押した者を更生させたいのかそれとも嘲笑っているのか、どちらなのか、その場にいたポチは開発者の性格をその場で理解した。
竜太はそこでようやく思い出す。これが漫画映画アニメなどでよく出てくる自爆装置!!!そしてそれを押した者の運命は必ず周囲を巻き込んでのアフロと相場が決まっている。少なくとも竜太の頭の中では決まっている!!!
「みんな、逃げ…」
竜太が叫ぶ前に、すべてが作動した。そして、鋭い閃光で艦内が満ち溢れる。
気が付くと八迫が作った飛空艇は快適な某自動車メーカーの七人乗りワゴンへとその姿を変えていた。
その会社曰く、作るのは、信頼と笑顔、だそうだ。
そんな人を思いやる心で満ち溢れた会社が作った車は、その場にいるだけで自分たちがいるところを忘れさせてくれるようなそんな存在だった。
「…。とりあえずここにいても仕方ないし、国王様を目指しましょう!!!」
拳を振り上げ運転席へと移動した理緒はハンドルを握ると途端に人相が変わった。
「うっはーい!!!行くぜ行くぜ行くぜ行くぜいくぜぇぇぇ!!!」
途端にタイヤはキュルキュル音を鳴らし、ぶっ飛び始めた。車が、飛んだ。アクセルの踏みすぎで。
『ひぃぃぃ…』
竜太と亮祐は互いに抱き合いハンドルを握ると変化するという人種を目の当たりにし恐怖の声を上げた。
ちなみに、理緒の運転技術は無免許だからというべきか、車体はへこみ傷が絶えなかった。
「柴ぁ!!!」
王は以前腹を見せあられもない姿でじゃれ付いてくる柴を怒鳴り散らす。
「呼び戻せ…。今すぐ守護犬使一番隊、二番隊と四番隊をこの城に集めろ!!!そして、地下宮殿へと行き解放しろ。鎧の制限をすべて外せ」
国王は憤慨し、どすどすと音を立てて王室から出ていく。
部屋から一歩出た国王は振り向き柴への命令を付け加える。
「お前も染めろ。その身を深紅の赤で」
柴は口の周りを舐めると荒い息遣いで王を見つめる。
「わかりました。すべてを開放します。そして、潰すは切り裂きジャックと重罪人」
その言葉を聞いた王は扉を閉めるとどこかへ消えていった。
「柴にはわかっていますよ。ええ。柴にはわかっていますとも。すべて、全部。ええ、ええ。柴に判らぬことなどありませんからね」
柴はくるりと反転し犬本来の四脚で駆け出した。
目指すは玉座裏よりいける結晶で出来上がった自然の宮殿。一般的に地下宮殿クリスタルパレスと呼ばれる宮殿へと。
建物の間と間の通称裏路地と呼ばれる場所でまだ戦いは続いていた。
「力を抜いて戦っているというのにまだわからないのか?犬本来の力を見せてやろう」
ハウリングはそういうと爪を地面に突き刺し吠える。
「うう・・・うるさっ!!!」
思わず耳を塞いだ八迫の視界から突然ハウリングの姿が消える。
「犬本来の速度とは、ニンゲンが追い付いてこられるような速度ではない。よって犬こそ万能の生物。教えてやるぞ、ニンゲン。貴様が私に貴様らの国の定義を講義するというのなら、私は貴様に犬の恐怖を教えてやる。敵うはずのない神の領域を。遠吠えと呼ばれるその理由を体に刻め。すでに死が確定した運命のものよ」
ハウリングは再び姿を消すと八迫の後ろに立った。
「聞け。わが喉より発生する協奏曲!!!第一楽章」
ハウリングは口を大きく開くとその喉からいくつもの音を重なり同時に出す。
その音波は物体を振動させ、浮き上がらせ、八迫を狙ってくる。
「ばっか!!!そんなことしてたらなんも聞こえねぇ!!!」
すでにその声すらハウリングには聞こえていない。だが叫ばずにはいられなかった。
竿を最大限に振り回し飛んでくる瓦礫を弾くがそれもまた浮き上がり戻ってくる。
その数が増えていき一つが対処しきれずにぶつかることを覚悟した八迫は目の前で瓦礫が一斉に落ちるのを目の当たりにした。
肝心のハウリングは肩で息をし、その毛だらけの額には玉のような汗が流れていた。すでに体毛は汗を吸い込み先ほどよりも大きく見える。
「…。お前、息してなきゃ音波出せねぇのか…。そうだよな。普通の事だ」
しかし、そこで勝機を見つけた八迫は一気に駆け込む。
「教えてやるよ!!!俺らの国の定義はなぁ!!!」
竿を思いっきり振り上げ、ハウリングめがけて叩き落とす。
「国王が国じゃねぇ。国民、人こそが“国”だぁ!!!」
その一撃にこの国で死んでいった者たちの思いを込める。
「ほざけ!!!国とは国王!!!人は王の資材だ!!!第二楽章!!!」
ハウリングは再び口を開け、叫ぶ。
その音は爆音だった。とっさに耳を覆う八迫の腹部に向かってハウリングは爪ではなく手の甲で鋭い突きを出す。
「…!!!」
爆音で耳をふさいでいた八迫は、何の対処もできずに真面に喰らった突きその場にしゃがみ込み嘔吐する。
耳から手を外し、地面に手をつき吐き続ける八迫の頭をハウリングが鷲掴みする。
「お前らが人の国に勝手に首を突っ込むな。これは俺たちの国の問題であり、お前たちの国の問題ではない!!!よく理解しろ。外交問題は複雑、なんだよ」
そのまま、鷲掴みの八迫の顔をかろうじて残っている建物の壁に叩きつける。
「子供だからって線は引いとけよ。これは子供にゃ関係ねぇ」
嫌な音が響いて八迫はその場で動かなくなる。
「子供が全部解決できるなんてそんな夢物語はそこら辺の小説家にでも任せて、お前は現実を見てろよ。現実見て、賢く生きてりゃよかったんだよ」
ハウリングはとどめと頭を踏みつけて、その路地裏を去ろうとする。
「ま・・・てよ」
去ろうとする足を八迫は必至でつかむ。
今の自分と同じような状況に陥ってるような物語を見てそこまで必死にならなくてもいいだろっといつも冷笑していた自分が恥ずかしくなる。必死になってたのは馬鹿なんじゃなくてそこで自分がやらなきゃいけないことを理解してたからだ。体張って守りたいものを守ろうとしてるやつは馬鹿じゃない。めちゃくちゃカッコいいのかもしれないな。八迫は今の自分を見て思わず顔がにやけてくるのが分かった。
「俺は忠告したぞ!?子供が最強っつーのは夢物語だと。そんなにカッコいい自分を演出したいなら手伝ってやる。最後は死ぬのが一番カッコいいんだよ!!!第三楽章!!!」
かぱっと口を開いたハウリングは第三楽章を叫ぶために息を吸い込む。
「黙ってろ…。犬は…叫ばねぇほうがかわいがられるんだよ」
八迫は残った力で口の中に思いっきり竿を突っ込む。
「んぐっ!!!」
のどに物を突っ込まれ言葉も出なくなるハウリングの顔をつかんだ八迫は先ほどの腹いせに顔を思いっきり叩きつけ、踏みつける。
「黙って鳴いてろ!!!飼い犬が」
口に入った竿が建物により喉より先に押される。そしてその竿はハウリングを貫通し、外へと突き出る。
「あんまりいい勝ち方じゃねぇけどまぁ勝ちは勝ちだ。悪く思うな」
八迫は血だらけの顔をそこに落ちていた薄汚れたハンカチでぬぐうとふらつく足で目の前にそびえたつ禍々しい場所へと向かった。
「全隊隊長に告ぐ!!!ただちに宮殿へと戻るべし。王の御命頂戴仕るてきことが起きようとしている。全力で阻止せよ~」
柴は右手に持つ小型無線機で呼びかける。
そして、すべての戦力はやがて宮殿で衝突する。