第八十九話 出会う子犬
「っごめんなさい!!!」
ぶつかった人に謝りながら、走っていた。
ここは犬人だけが暮らす国でそんな犬人しかいない街の中で、僕は追われていた。
突然国王から突き付けられた罪状は“国王暗殺容疑”。まったくもってそんな物騒なことは考えもしないし、実行に移すほどの力も何もない、悪く言えば目立たない僕が、今は国を守る警護団体の守護犬使全部隊に追われていた。
そして走って逃げること早一時間。体力も尽きかけている所でふらりとぶつかった人に謝罪した僕はそのまま走って道をゆく。
もう、この国に僕のいられる場所はない。
身に覚えのない罪、いわゆる冤罪で街を追われる。
けれど僕に生きていける場所なんてなかった。今まで国王の宮殿につかえている身で、寮に入っていて、自分の家も、家族も何もない。この国にいるためのものは何もなくなってしまった。
海を挟んで隣国、猫人が暮らす国に行くことも考えた。
けれど猫人は犬人を拒絶しているし。向こうの国に行った瞬間に僕は死んでしまうということも予想がつく。
要するに残っている生きるための望みは下…下界にしかない。
下界には犬人や、猫人のような生物がいると読んだことがある。うまく隠していけば、助かれるかもしれない。
なんてことを考えながら道を走っていたら、たどり着いた先は国の端、落下の崖だった。
元来た道を戻ろうとしても、そこにはすでに守護犬使の一番隊が迫っていた。
「 、国王暗殺の疑いで逮捕、のちに死刑とする。こちらへ来い!!!」
一番隊隊長ウルフはその手に持った手配書を指さし一歩一歩歩み寄ってくる。
「おかしいよ!!!」
やけくそだ。なるようになれ。もしもお前たち従順な犬がちらりとでも疑うことがあれば国王に尋ねてみろ、殺されるぞ…。
とにかく、その時の僕はやれるだけのことをやって死んでやろうと腹をくくった。その場で、即決。
「この国では、階級制度が今でも生き続いてる!!!奴隷は病気になったら違犬種として殺される!!!」
たまたま見てしまったある犬の最後を思い出していた。涙を流し、鼻水をすすり、折の中で悲痛を叫び続けていた。そんな犬を、彼ら守護犬使は容赦なく殺した。
そんな世界は僕はおかしいと思うんだ。だから、どんな小さなことでもいい。この世界が変われるような小さなきっかけを残して死んでやろうと思っていた。
「それがどうした、 。国王こそ絶対。国王は力を求めておられる。そんな小さな命を尊重し、国を荒廃させろなどという策を講じてはいない。そして、その小さな命には、お前も含まれているぞ。 」
犬歯をむき出して笑うウルフを見て、僕は思わず噛みついていた。
「おかしいと思わないの!?命が消されていく、捨てられていく!!!」
すでにウルフは僕のことなど見てはいなかった。遠い海の向こうにある国、猫人の国を見ていた。
「やれ」
冷たくはなったその一言は、一番隊の戦力で僕を潰せという命令だった。
叩かれ、殴られ、蹴られ、ぼろ雑巾のようになった僕を見たウルフはいったん停止を命令すると、僕を蹴飛ばした。
崖の上から、下へ。
叫ぶ余力なんてなかったけれど、叫んでやった。
「この国は、腐ってる!!!」
そして、僕は下へと落ちていく。
何も知らないまま、意識も手放して。
「ねぇねぇ、飼っちゃダメ?亮祐、どうしてもダメなの?」
紋太は突然空から落ちてきた犬を偶然キャッチするとその傷ついた体を治療してから亮祐の元へと来ていた。
「この子、こんなに傷ついて、落ちてきたんだよ!?助けてほしいよって僕のところに来たのに、それでもダメなの?」
うるうると目を涙で潤ませ、上目使いで見上げると、子供限定究極奥義で亮祐は一発KOで許可を出しかけてしまった。
しかし、気が付いたらなぜか紋太が子犬を抱えて嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
「…きょ…許可しちゃったのか…。」と亮祐は内心で自分のしたこと意味を深く考えていた。
「亮祐、この子の名前ね!ポチタローっていうんだよ!!ポチって呼ぶんだ」
悩んでいる亮祐をしり目に紋太は嬉しそうに子犬の名前まで付けていた。
そんな亮祐は紋太の発言をも深く考えていた。本名を略して呼ぶ場合本名ではなく略称を名前にしたらいいのでないか…。とか、そういうどうでもよさそうな問題だった。
その時突然何の許可もなく亮祐の部屋の扉が開かれる。
「あら、紋太子犬かってもらったの?」
理緒が容赦なく特大クレープ両手に颯爽と登場していた。
「違うよ、これ降ってきたの」
飼えることになり嬉しそうに言う紋太の言葉に理緒はむせる。
「降って来たの!?犬が??空から!!!」
何が何やらわからないといった感じで理緒は部屋を後にした。
「国王様、無事に を始末してきました。これよりしばらくの休息をいただき、戦力回復をとろうと思います」
膝をつき国王に司令官量の報告をしたウルフは国王の顔色をうかがっていた。一歩間違えば死刑も免れない。
「わかった。いっていいよ」
さらりと返した国王の命令でウルフは王室を後にする。
ウルフが消えた王室で柴は一人国王に腹を見せてじゃれていた。
「逃げなさい!!!逃げて!!!」
茶色の髪の女の人はなぜか自分のほうを見て叫んでいる。その女の人はなぜか二本足で歩く犬によって押さえつけられ、どこかへ連れて行かれてしまう。
「早く!!!お前だけでも逃げてくれ!!!」
オレンジがかった茶色のような短髪の男もまた自分のほうを見て何か叫んでいた。
男は犬につかまるようなことはなく、自分を守ってくれている。
なおも犬は自分を襲おうと飛び掛かってくるが、そのたびに男が守ってくれていた。
「早く、逃げてくれ。お前だけはこの地で殺すわけにはいかないんだ!!!もっと見てくれ、この大地を。世界を!!!」
犬たちはいったん引くと総力をあげて飛び掛かってくる。その犬たちの波の中に男は埋もれていった。
けれども男は自分に対して何かを叫んでいる。
聞こえない。何を言っているのか、何を告げたいのかが聞こえない。
「逃げて、生きてくれ!!!」と、自分の息子に伝えたかった男は犬の牙により意識を失う。
誰も自分を守るものがいなくなったと判断した。けれども何もできない。今までかわいいと思っていた犬たちがこうして自分たちのような人間のように知能を持ち、襲い掛かってくる。
「さぁ、小僧。こちらに来い。国王がお前を呼んでいる」
いきなりしゃべり始めた犬にびくりと肩を震わすが、そんなことを気にも留めずに犬たちは近づいてくる。
突然、後ろから咆哮が聞こえる。
「見つけました!!!やはりこいつらの船にありました!!!」
後方から聞こえた咆哮の主は自分たちがそれまで乗っていた船から聞こえてきた。
そして姿を現した犬が銜えていたものは一つの鎧だった。
「これが、私たちの国王が求めていた一領の鎧か…。国王の元へとお持ちしろ」
その場にいる隊長のような犬が鎧をくわえている犬に呼び掛ける。
低く吠えたその犬はどこかへ走り去っていく。
「まって、それは僕のお父さんたちがやっと見つけた宝物なの。返してよ!!!」
自分は思わず叫んだ。
「ならばお前はそれを取り換えすべきだ。さぁ来い!!!」
強引に服をかまれ、くわえられた自分はそのまま連れて行かれた。
「お前の名前は何という?」
手足を縛られ、首には槍を突き付けられたままの姿で自分は国王のいる場所まで連れてこられた。
そしていたる現在、名前を求められていた。
あくまで沈黙を保っていると隣にいる犬の槍がチクリと首に刺される。
「一文字…紋太」
自分…僕はそのままの姿で牢屋に閉じ込められた。
その場所で待っていたのは殴る蹴るなど序の口の暴行だった。
僕はあいつらのたまった鬱憤を晴らす道具でしかなかった。
そのまま、数日が過ぎたころ、用無しのゴミだと崖から落とされる。
そして落ちた場所はとあるお屋敷のすぐそば、その雑木林。
「んむぅ…」
ポチを抱いたままいつの間にか眠っていた紋太はよだれの後を袖でサッと拭うとあたりを見渡した。
「ポチ?」
やっとのことで勝手良しの許可を得たポチの姿がどこにもない。
部屋をよく探してみるとカーテンの裏側にいて、外を眺めていた。
「ポチ、心配したよ…。寒いからちゃんと布団に入ってなきゃ…」
よっこいしょと思わずつぶやきポチを抱きかかえた紋太は突然の出来事に、想像もしていなかったことに驚いた。
「ごめん、紋太。僕はホントは空に浮かぶ島、犬人が暮らす世界で生きてきた犬なんだ…。でも、僕の住む国は…」
いきなり話し始めたポチだったがさらに身の上話まではじめてしまった。
それをみんなに話してみると冗談扱いされて終わってしまった。
実際にポチに話してもらうとみんな口を開いてボーっとしている。
だから言ったのに、と紋太はふくれた。子供だって嘘つくばかりじゃないんだぞ、と。
話が終わった後、理緒はうそみたーいとひたすらつぶやき、亮祐はだから空から降ってくるような怪しい生き物なんて…と連呼し始め、八迫は笑って空飛んで、そいつ届けに行くか!!!と、なぜか乗り気になっていた。
竜太は補習でこの場にはいなかった。
ポチは何かを悩みながら地面を見つめ続けていた。
最近は毎日更新しているですね。これまでの分ということで…。
次回 空へと旅立つ切り裂きジャック一行。そこで待ち受けていたのは…。
別称紋太編の本舞台へといざ出発。
次回 みつかる一行【仮】