第八十五話 彼らは全て裏切られ、絶望の淵を叩きつけられた。
なんだか過去の話とかいいなぁと思ったので。
気が付くと、町は廃墟に代わっていた。
ついさっきまで遊んでいた町が、消えていた。
友達と夏休みすべてをかけて築いてきた自分たちだけの秘密基地も、友達とよく遊んだ場公園もよくいくお店も大好きなファーストフード店も何もかもが残らずに石の塊に代わっていた。
町一番の名物であった塔も瓦礫の山となっていて、その瓦礫に立つのは一人の男。
この街を消し去った元凶の男。
その男は太陽を背中に右手を突き出した。
男がその瓦礫から見下ろすのは自分が壊した町の住民たち。
やがて男はゆっくりと、しかし確実に聞こえる声で語りだした。
「お前たちみたいな下等な生物がこれ以上俺に逆らうな!!!俺は全てを超える存在。神をも殺す力を得た人間を超越した存在!!!足掻くなひれ伏せ!!!泣いて許しをこえ…。この無残な姿になりたくなければぁ!!!」
男は廃墟のすべてを手で表し、そしてその廃墟の下にいた男から見る下等な生物たちの末路を見せた。
「諦めろ…。この場所は今日から俺の場所。お前たちには消えてもらう!!!」
そして男は両手から何かを放った。
気が付いたらその場所には何も残っていなかった。廃墟も何も残っておらず、目の前に男が立っていた。
「助けてやろうか!?お前たちを…」
ふと周りを見渡すと、自分と自分の家族、そして同じような境遇の家族が残されていた。
男の声に自分の母は縋り付いた。
「助けてください!!!何でもしますから、助けてください…!!」
それを見た自分を含む全員の親が男に手を摺合せたりと様々な命乞いをする。
自分たちの親が。
男の手によって今まで見たことのなかった親の姿を見せつけられる。
そして男は自分の足にしがみつき許しを請う生物の姿を見て笑い出した。
「そうか…助けてほしいのか…。助けてやるよ。未来永劫あんたらをな…。ただ、条件がある」
その言葉で全員が同じ回答をした。
「何でもいいです。助けてください。生かせてください」
男は一人の母親の顔を持ち上げるとその条件を呟いた。
周りは殺されてしまうと思い息をのみ、条件を聞かされた一人の母親はその条件を聞き、自らの子供の顔を見てさらに涙を流す。
「俺はこいつに条件を言った。今からこいつが条件を話してくれる。よぉっく聞け」
男はその母親の顔を指さし高らかに笑った。
母親は涙して、声を上げて涙して、条件を叫んだ。
その条件は自然と子供たちにも聞こえた。
その場に生かされていた大人のすべてが自分たちの子供を見る。
再び男に顔を映すと全員が抗議した。しかしその講義を一言で黙らせる。
「黙れ」
息をのむ大人たちに男はさらに続ける。
「お前たちが条件をのめば、助かれるんだぜ!?こんな優しい条件はないだろう?周りを見てみろ。お前たちが暮らしてきた町はここにはもうないんだ。あるのはありきたりな絶望と恐怖それと苦しみ悲しみ…。負の連鎖だよ!!!」
涙を流し続ける大人たちに男は叫びあげる。
「痛みしか、ここにはねぇ!!!!」
なおもまだしがみつく大人を蹴散らし、男は子供に、自分たちに近づいてくる。
自分は動けなかった。中には逃げ出そうと道だった場所を走って逃げようとする者や、泣き続ける者にその場でしゃがみこみ失禁する者や、奇声をあげて自らを痛めつける者、何が起こっているかわからずにその場で立ち尽くす者がいた。けれど自分は動けなかった。
大人たちは男の背中を目で追い、子供たちを見てさらに泣き出す。
自分はそれとなく、状況を理解していた。これからどうなるかもぼんやりと。
男は一瞬にして消えると、再び一瞬で戻ってきていた。
男の手には先ほど逃げた子供が首を絞められていた。
「逃げるんじゃないよ…。逃げたらこうなるから」
手足をバタバタと動かし暴れる子供を地面に落とすと男は再び笑った。
そして子供に背を向けると大人たちに話し始めた。
「どうする?そろそろ決まったよね。君たちは条件を呑むのかな?」
男の声で一人の青年が立ちあがる。
「俺の…俺の弟をお前みたいなやつに渡せるか!!!」
一見勇敢そうな青年は男の前まで駆け寄ると隠し持った刃物で男をさした。
しかし男は刺されることなく、青年が持つ刃物の方向を一瞬にして変えていた。
刺したと思った青年は自らの刃で貫かれて地面に倒れた。
何もない、茶色の地面が赤く染まっていく。
自分たち子どもは今そこで何が起きたかを見てしまった。
泣き叫ぶ。狂ったようにひたすら叫び、泣き。
「条件、呑んでくれるよね、君たちはこんな思い、したくないでしょ?」
男は青年を見もせずに蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた青年は子供たちの前まで飛ばされた。
青年は自分の弟を見つけると最後につぶやいた。
「ごめんなぁ…。守って、あげられなくって…。なにも、できなく…って…」
ふぅっ吐息を吐き出した青年は動かなくなった。
それをみとどけた一人の大人が立ち上がった。
「条件を呑めば、この場で息をしている全員が助かるんだな!?」
男は大人のほうへ歩み寄ると首を縦に振った。
「みんな、みんな助かるよ。誰一人として痛い思いはしないんだよ」
その言葉を聞いた大人は大きくため息をすると再び口を開いた。
「俺…は、条件…呑む」
男は今まで見せた以上の笑顔を見せると男の子供を探し当て、抱きかかえた。
子供は自分が親に捨てられたと思い泣き叫び、親を呼ぶ。
「君たち一家はとてもいい子だね。僕と君たち一家はオトモダチだよ~」
男がそういうと次々にほかの親たちも条件を呑んでいく。
自分の親も、その中で条件を呑むのを見た。
誰も自分たち子どもの事を考えてくれずに自分が助かる道を選んでくれなかった。
捨てられた。
今まで大好きだった親に。
捨て……られ、た。
自分はその場で叫んだ。叫んだら何かが変わるような気がして、叫んで叫んで叫んで叫んだ。
けれども何一つして変わるものなどなかった。
男は親たちに一言告げた。
「お別れはしといたほうがいいよ」
親たちは駆け寄ってきたが、自分たち子どもは誰一人として親を受け付けなかった。
自ら逃げ、触れられることを拒んだ。
さっきの男の人は命を懸けて助けてくれたのに、何で助けてくれないの…。
そして…。
「うぁ…・うぁあぁぁぁあ!!!」
発狂しながら布団から飛び上がる。
ナイトキャップはすでにはずれ、汗で髪はべったりと張り付いていた。
肩で息をしながらパジャマの袖で目を抑える。
嗚咽を漏らしながらその場で泣き続ける。汗で濡れたベッドの上で体育座りで泣き続ける。
しばらく泣き続けた後、ようやく立ち上がると汗がまとわりつく衣服を全て脱ぎ捨て、自室の風呂に逃げ込む。
シャワーを最大まで流し、汗とともに今なお流れ続ける涙も全て流す。
シャワーから上がると似たような服が入ってる箪笥をあけ、服を着る。
自分の部屋から出ると集会所に備え付けられている自動販売機から飲み物を出すと、それを部屋に持ち込みいまだ湿っているベッドに腰掛けキャップを外し一気に飲み干す。
やがて扉がやさしくたたかれ、自分を呼ぶ声がした。
軽く返事をすると部屋を出て、彼とともに自分は今日の任務に出た。
願わくば、今日はあんな夢は見ないことを望むばかりだ。
自分に親はいない。
もういない。
代わりに友達がいる。
なんだか少し構成が出来てきたような気がするので頭に浮かんだことを書いてみました。
そんな感じです。
これからもボチボチ書いていこうと思いますよー。
ちなみに人物名を書きませんでしたが、まぁわかると思います。というか、わかりましたよね!?
次回 第八十六話 第八十五話 砺磑はネクタイを緩め、戦闘を楽しんだ。