♯4 はじめましてのユーフォニアム
「少し待ってて。」そう言い残したユーフォニアムの先輩はマウスピースを洗うために音楽室のすぐそばの水道にかけていった。
特別棟3階の廊下を広々と使った吹奏楽部の仮入部。ユーフォニアムは音楽室前辺りの廊下で楽器体験ができる。
僕が先輩に座るよう言われた椅子のすぐ右には銀色のユーフォニアムが一台おいてある。
僕の右側にはもう一つ椅子と銀色のユーフォニアムがある。多分、これが2月に僕を魅了したユーフォニアムだ。
少しドキドキする。さらに、緊張のあまり汗が出てきた気がする。左右を見ると、トロンボーンやチューバを体験している同級生の姿が目に入った。少し緊張がとれそうだ。
「待たせてごめんねー。」
僕の右側から声がしたので振り返る。そこには、ずっと話してみたかった、会いたかった先輩の姿。先輩は椅子に座らず、僕の前で膝立ち状態で話す。
「ユーフォニアム担当2年、大嶋亜唯 (おおしま あい)です。ユーフォニアムは現在、私1人で活動してます!!」
先輩……、大嶋先輩は笑顔で僕に言った。大嶋先輩の2つにわけてまとめた髪型は2月と全然変わってなかった。
先輩に対して失礼かもしれないけど可愛いと心底思った。
「マウスピースやったことはある?」
「トロンボーンで……」
緊張のあまり上手く話せない。どうしたんだ僕。他の楽器ではそれなりに先輩と話せたのに。やっぱり大嶋先輩だからかな?
「なるほどなるほど。
トロンボーンで聞いたかもしれないけど、ユーフォとトロンボーンは同じサイズのマウスピースを使うの!」
「……ユーフォ―?」
「あ、ユーフォって言うのはユーフォニアムの略称!文字にするときはユ―って伸ばしてフと小さいォを書くだけ!
ユ―フォ―ってのばすと宇宙の方になるから気をつけてね!!」
大嶋先輩は体で表現しつつ面白い例え方をするのでつい笑ってしまう。
「おっ!緊張は大分和らいだみたいだね!!
楽器を吹くときにガチガチに緊張してると良い音がでないからねー。
そんじゃマッピっ!」
先輩は僕に銀色にひかるマウスピースを渡した。僕は少し重く感じるマウスピースを口に当てる。
プーッブッー
相変わらず変な音。僕がこれで良いんですか?な視線をマウスピースをやりながら先輩に送る。
先輩は視線の意味に気づいたのか、膝立ちのまま自分のユーフォニアムからマウスピースを外した。そして僕の前で、またしても膝立ちでマウスピースをプーッと鳴らした。