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王妃ですが、社長に就任しました。  作者: 椎名実由
第4章 組織再編?新たな従業員達
27/29

4ー4

 レイナさんの申し出に、私は即答することが出来なかった。

 だってしょうがないじゃない。残念ながら私、何度も言うけど出産経験がないんだもの。イメージがいまいち出来てないから、答えが出ないのよ(泣)。

 取り敢えず、頭の中を整理しなきゃ。

 私は、深呼吸をして、レイナさんに確認して行った。


「えっと、取り敢えず、出産の1ヶ月前までは、どちらにしろ働けるのよね?」

「はい」

「でも、出産の前後は、どちらにしろ働けないのよね?」

「……そうなると思います」

「それでも、子供は出来ればこれからも、保育所で見て欲しいのよね?」

「……出来ることならば」

 うん、取り敢えずここまではわかったぞ。

 そうすると、次に聞かなきゃいけないのは何だろう。

 レイナさんが一番重要視しているのは、保育所か。保育所に子供を預ける条件は?アンナ・オルビア社で働いていて、未就学の子供がいて、子供の面倒を見れる身内が近くにいないこと。

 ……と、なると?


「レイナさん、ごめんね、私も考えながら喋ってるから、他の人にも意見を聞いてみるんだけど……保育所に子供を預けるのには、やっぱりアンナ・オルビア社で働く人である必要があると思うのよ。他の会社で働いている人の子供まで面倒を見ていたら、今の保育所のキャパじゃパンクしちゃうし。……私、出産から仕事に復帰出来るまでにどれくらいかかるか、はっきりとは分からないんだけど……とにかく、保育所に子供を預けたいなら、出産後一時的に休んでも、復職してくれって言ったら、それは大丈夫なの?」

 私、おかしなこと聞いてないかなぁ、大丈夫かなぁ。

 多少心配になりながら私が尋ねると、レイナさんは驚いた顔をした。

 やだ。私やっぱりおかしなこと聞いちゃったかしら。

「私、やっぱり変なこと聞いてる?」

 私が焦って言うと、レイナさんは、

「いえ……そんなことを言っていただけるとは思っていなくて」

 と答えた。

「あの……私、ここで今働かせてもらっていること、とても光栄に思っています。出産後も復職させていただけるなら、是非お願いしたいです」

 光栄、なんて言ってもらっちゃうと、お世辞でも何だか気分がよくなる。

 でも、やっぱり保育所のこととなると、私1人の意見で、ここで結論は出せないと思う。

 彼女が一時的に仕事をお休みするとして、期間はどれくらいが適当なのか。

 その間、上の子は保育所で預かっていいのかどうか。

 他にも、私じゃあ気付かないけれど、はっきり確認しておかなければいけないことに、ナージャさん達保育所の先生達は気付くかもしれないもの。


 私はレイナさんに向き直り、改めて言った。

「とにかく、保育所の先生達とも相談してみる。レイナさんの希望通りに出来るかはわからないけど、なるべくみんなにとっていい方法を探すから。まず、レイナさんはあまり悩まないで、無理しないように仕事してね」

 従業員の中には、レイナさん以外にも小さな子供のいるお母さんはいるんだもの。今後も同じようなことが起こるかもしれない。

 私は、早速、今日の仕事が終わったら、ナージャさんに相談してみようと思った。


「あら、レイナさんおめでたですか。何だか、最近顔色悪い時があるなと思っていたら、そういうことなんですね」

 私がレイナさんと話したことを一通り説明すると、ナージャさんは納得したように言った。

「そうですねぇ。オルビアでは、働いていても出産で1度辞める人がほとんどですね。ここの仕事は、重いものを運んだり、重労働がある訳ではないですから、出産前は本人の体調が悪くなければぎりぎりまで働けるでしょうけど、産後はそうも行きませんからね」

「私、本当に無知で申し訳ないんだけど、出産後ってどれくらいから仕事に復帰出来るものだと思う?」

 私が聞くと、ナージャさんは、

「誰でも、子供を産む前はそんなものだと思いますよ。子供が出来たら、医者なり産婆さんが教えてくれますから」

 と笑って言った。


「まず、産まれたばかりの赤ん坊は、目もよく見えないですし、昼と夜の区別が付いていないんです。産まれて2、3ヶ月は、昼も夜も関係なく、3時間起き、下手するともっと頻繁に泣いて、その度に授乳やオムツ替えをします。その間は、とにかく赤ん坊が泣く度に起きなければいけないので、睡眠時間も短くてフラフラ。少なくともその期間は、私の場合は働けなかっただろうと思いますよ。お母さんも出産で身体に負担がかかっていて、回復する期間が必要ですしね」

「レイナさんは、子供が1歳になったから働こうかと思ったって、そもそもお茶会の時に言っていた訳じゃない。やっぱり、1歳くらいになれば復職出来るものなの?」

 本当に私が何も知らないので、半ば先生と生徒のような格好で私はナージャさんに尋ね、ナージャさんは自分の経験を通して答えてくれた。


「大体、産まれて半年を過ぎた頃から離乳食を始めると、1歳になった頃には授乳がなくても食事からほとんどの栄養を取れるようになります。授乳が必要であれば、子供と何時間も離れていることは出来ませんし。ただ、幸い、この保育所に限って言えば、お母さんの職場と隣接しているので、時々授乳しに来ることも可能だとは思いますが。……でも、あまり小さい時は、お母さんが働くにも私達が面倒を見るにも大変ですから、職場復帰と、下の子を預かるのは最低でも産後2、3ヶ月から半年くらいは空けてからの方がいいと思いますが……」

「……勉強になります」

 忘れないようにナージャさんから言われたことをメモする。

 すると、ナージャさんが、

「それと」

 と最後に付け加えた。


「彼女の休職中も上の子を保育所で預かることは、人員的には可能ですが……その間、保育所の利用料金の支払いをどうしてもらうか、という問題もありますね。仕事を休んでいる間、ちゃんと働いている他の従業員と同様にお給料を彼女に払う訳にも行かないでしょうし……上の子も、休職中は自分で見てもらうのか、保育所で見るとしたら、通常通りの保育料金を請求してもいいものなのか……。その辺りは、何分保育所も立ち上げたばかりで手探りの状態ですし、私では判断がつきませんねぇ……」

「そうよね。でも、若い女性が働きやすい環境を、って考えたら、今後も起こり得ることだと思うのよ……。ちゃんと検討して、双方にとっていい方法を取りたいわ」

 私が言うと、ナージャさんも頷いた。

「勿論、私も同じ気持ちですわ。……所長は何より、商人の国オーダから嫁いで来られたのですし、オーダではどうされているのか、確認してみたらいかがですか?」


 盲点でした。

 とっても、盲点でした。

 保育所だってパート制度だって、オーダに倣ったんだもの。

 まずは、オーダの例を聞いてみよう。

 私は早速、毎度で申し訳ない気もするけれど、フランシス兄さんに手紙を書いて聞いてみることにした。


 オーダになら、私が不勉強で今まで知らなかっただけで、何かいい先例があるに違いない。

 期待して待っていた私に、フランシス兄さんから返って来たのは、残念な返事だった。


 オーダでも、女性労働者から、出産、育児に対する企業側の補助を希望する声は上がっているけれども、はっきりした解決策は取られていない状況であること。

 オーダでは、保育所に子供を預けて働いている母親が次の子供を妊娠した場合、会社については退職、保育所は一度退所し、仕事に復帰する場合に入り直すのが一般的であること。

 会社については、会社側と母親側とで折り合いが付けば、退職ではなく休職扱いとなる場合もあるけれど、休職中の賃金は支払われないこと。


 フランシス兄さんからの手紙には、社員の望む方法を取ってやりたい気持ちは分かるけれど、場合によっては会社にとって負担となるのだから、冷静に判断をするように、とも書かれていた。


 夜、寝室でトレイスにも相談してみると、トレイスは、

「遠い異国には、女性の休業保障がある国もあると聞くけど、その分税金が高いらしいと言うし、税金が関わってくるとなると、すぐにどうこう出来る問題じゃないねぇ」

 と答えた。

「対応出来るとすれば、残念だけど今のオルビアじゃあ、それぞれの会社に任せるしかない。一時退職後の復帰を優遇している会社なら、そこそこ前例があるはずだけど、保育所については、アンナの会社の保育所自体がオルビアでは第1号で、唯一の場所になるからね」

「ううん……そうか」


 むむむ、と私が考え込むと、トレイスが優しく私の頭を撫でてくれた。

「最近ね、色んなところで、保育所に興味を持っている企業やら地域やらが出て来ているって話が、議会で出たよ」

「え?」

 思い掛けない言葉に私が聞き返すと、トレイスは優しく微笑んで続けた。

「アンナがオルビアのために力を尽くしてくれていることが、影響を与え始めているのかもしれない。まぁまだ、みんな様子を見ているみたいだけど。スタートはモサモサから新しいオルビアの特産となるものを、って始めた訳だけど、それだけじゃない効果を、アンナはこの国にもたらしてくれるんじゃないかなぁって、思うよ」

 そんな立派なことが、私に出来ているとは到底思えないけど。

 確かに、私がこれから取る決断が、ひとつの指針にはなるのかもしれない。

「……ちゃんと考えて、相談して決めることにする」

 私が改めて言うと、トレイスはまた優しく頭を撫でてくれた。

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