僕の居た世界
「隆人×美緒―――買い物から。」
「珍しいですね、美緒さんが俺を買い物に誘うなんて。」
今日は美緒さんから連絡を貰い、一緒に買い物に来ていた。
何故か、二人きりで。え、作戦会議?何のことやら。
「そうかなー。ま、正直健でも良かったんだけど、
組み合わせが面白そうだと思ってさ。・・・デートっぽいし♪」
「面白そうって・・・。誰に対して面白いんですか。」
最後の部分は小さくて聞こえなかったからとりあえず聞こえた部分にツッコむ。
しかも、なんか上機嫌だし。ま、いっか。
「で、何を買いに来たんですか?荷物持ちくらいなら手伝えますが。」
「んーと、部室のお茶っ葉が切れてたからそれと、まあ諸々。
後は適当に見て回ろうかなーって。何か見たいとこある?」
普通、部室にお茶っ葉は置かないよなと思いつつそこには触れない。
・・・自分も飲んでるし。
「特にないですね。ここ、色々な店が揃ってるし迷いそうですよね。」
「だねー。あ、迷子にならないように手を繋いであげようか?」
うわー、ニヤニヤ顔で何を言い出すんだこの人!
握りたくないわけじゃないけど、恥ずかしいよな。よく見ると綺麗だな、手。
「握りたくないわけじゃないけど、恥ずかしいよな。よく見ると綺麗だな、手。」
「ふぇ!?な、何を言ってるのリュート!」
なんかいきなり怒ってきた。手を引っ込めて守るようにしなくても・・・。
「何か言ってました、俺?」
「・・・もういいや。リュートってよく心情ポロリしちゃうもんね・・・。
って、あれ?てことは・・・キャー!」
この人も面白いな。人のことを言えないくらい出てるし。
「とりあえず、行きましょうよ。」
「ご、ごめん。で、手は・・・。」
「繋ぎません。それとも、美緒さんが繋ぎたいんですかー?」
悪ノリで聞いてみた。どんな返しが来るか・・・。
「ふぇ!?え、えーっと・・・うん!行こうか!」
あ、逃げた。て事で、ここは・・・。
「じゃあ繋ぎましょうか。」
「え、ぇえええええええ!!!!!!」
あー、面白い!
てな訳で、ここから買い物中ずっと手を繋ぎっぱなしだった。
感じたことと言えば、美緒さんの手が思ったよりも小さくて
力加減が難しくて、握る力に強弱をつけていると美緒さんの顔が赤面していた。
そして、買い物が終了し美緒さんを家まで送ることになり。
「今日は楽しかったですよ。ありがとうございました」
「そう、なら良かった。・・・私は疲れたけどね、主に精神が。」
また、最後が小さくなり聞こえなかった。
今、林田宅の近くの公園で少し駄弁っている。
「ちょっと、いいですか?」
「ん?いいよー、なんでもどうぞ!」
「じゃあ・・・バストはいくつですか!」
「教えれるかぁ!!」
なんでもいいって言ったのに・・・詐欺だ。
「まぁ、冗談は置いといて、」「捨ててよ。」
「ゴホン。ちょっと真面目な話ですけどいいですか?」
瞬間、美緒さんの目つきが変わった。
真剣な話のときは、いっさい茶化さないし真面目な話には真面目に聞く
それが、この人だ。
そして俺も真面目な態度のときは敬語は使わない。対等な立場として話すから
それは、逆にダメだと考えている。
「君のことが知りたい。質問をしていくからそれに答えてくれるか?」
「いいよ。どうぞ?」
美緒さんが承諾してくれたので、始めた。
「凄く簡単なものだから、速めにするよ。
まず、家族構成は?」
「父、母、私、健一の四人だった。お父さんはもういないけどね。」
「理由は聞いてもいいか?」
「いいけど、詳しくは知らない。離婚だと思うよ。」
すでにこの時点で知らない事があった。
と、このように他にも幾つか質問をした。趣味、自分で思っている性格など
趣味は、さっきのように買い物が好きらしく、休日はほとんど来ているらしい。
性格は、不器用。と一言だけだった。いつもの美緒さんらしく無くて新鮮に思えた。
「じゃ、最後の質問。というか、これが本題だが
『俺』のことをどう思っている?」
「え!?・・・え、えーっと、その・・・かっこいいと思います・・・。」
「? いや、そうじゃなくて、異能力を発見した『椎名隆人』として
どう思って―――――いや、どう思ってますか?」
今、敢えていつもの口調に戻した。これは、俺個人としての問題だから
ここでは、先輩後輩に戻りたかったのだ。
「うん。かっこいいと思うよ。素直に尊敬する。
私は、この『力』に助けられたから、余計に感謝の気持ちを持ってるから。」
美緒さんが目を閉じ、ちゃんとした意見をくれている。
過去に何があったか、俺には視る事が出来るが、しない。いや、したくない。
彼女にちゃんと許可を取り、彼女の口から話してもらう。そうしなければならない。
俺自身、彼女に助けられたのだ。
それは三年前、俺が坂町高校へ入学する前の中学二年の時の事だ。
まだ能力が世間に浸透していなかった頃、関係者が殺人事件を起こし逃亡した。
俺の親父は犯罪者を世間に出した、という重いプレッシャーの中にいた。
勿論、真の発見者は俺だ。俺の方が余計に辛く精神がボロボロになっていた。
学校に行けば犯罪者の関係者と言われ、近所でも同じように言われていたのだが、
ある時、一人の女生徒が俺の前に来て一言、
「ありがとう。」とだけ呟いて去って行った。
話の流れで分かると思うが、美緒さんだ。今までその意味は分からなかったが
その言葉だけで精神が回復していき、前を見て生きる決意をした。
その後、逃亡していた奴を見つけ出し、世間に『能力』の存在を発表した。
「――どうしたのリュート?」
気が付くと目の前に美緒さんの顔があった。
「う、うわぁ!?」―――チュ。
驚いた反動で一瞬体が前に行き、目の前にあった美緒さんの唇に――――
「ふぇぇ!?って、リュート倒れた!え、え、どうしよ!?」
遠のく意識の中、美緒さんの声が響いてくる。そして俺は決意した。―――
―――起きたら、忘れてる事にしよう。美緒さんの為にもそれでいいだろう。
「隆人×美緒」終。