新党シコ勢
そこへたどり着くと、すでにたくさんの人と警備員がいた。仲間にしに来た勇者達や観光客もいて、姫様に近づくどころか姿も見れない状況であった。そして、全ての人が姫様に近づくことを許されていなかった。
サカグチは少し離れた位置でその様子を確認していた。
「まあ簡単に接触は無理だとは思っていたが、まさか見る事も出来ないとはなぁ。俺も大きい方だが、多分近づいても見えねえだろうな」
その後も近くの建物にいくつか入り、上から見回しはしたものの、警備に穴は無く裏道も無く、せめて見る方法だけでもと考えていた。
「お、そうだ。キュリ、お前は見ること出来ねえの?妖精なんだから飛んだり出来るだろ」
〈いえ、以前も言いましたが、今の私はナビぐらいしか出来ません。しかしですね!〉
キュリはドーンと声を張った。
〈妖精ポイントがあれば別です! 妖精ポイントがあれば見るどころか、接触も余裕で出来ます! ちょっとやりたくは無いですが、連れ去ることも可能でしょう!〉
「死んでも使わねー」
〈…………、はい……〉
相変わらず妖精ポイントになると周りが見えなくなるキュリに対し、サカグチは何ともいえない表情を浮かべた。
「てかお前の妖精ポイント押しは狂気の沙汰レベルだぞ。デイリーの阪神押しぐらいヤバい。一面の見出しに「猛虎打線爆発! 今岡5打数4安打!」の見出しで試合結果はボロボロに負けてたのを思い出したわ」
〈うう……、それでは、カメラで拡大して見てはどうですか?〉
「お前やっぱり頭良いな」
しかしナビに関して言えば、サカグチは何一つ不満要素をキュリに持っていない。むしろその部分は何も考えない自分には充分すぎるとさえ感じていた。
窓からカメラで覗き、倍率を最大限にまで上げた。そうすると姫の姿がくっきりと浮かび上がった。
姫はたくさんの人が見に来ているにも関わらず、全く気にする事なく一連に咲いた花々を見ていた。
その姿はというと、身長が少し高めで170ぐらい、髪はピンクで腰まで伸びていて美しく手入れがさてれある、優しい目をしていて上品な顔立ち、体は胸とお尻が大きく抜群のプロモーションである。そして何より印象づけられるのは、何と水着の状態なのである。しかも下乳が少し見えるぐらいの小さめの水着であった。
どう見ても立場にそぐした格好では無い。
「よっしゃあああああああ!!HENTAIきたあああああああ!!!!」
しかしそんな事などお構いなしと言わんばかりに、サカグチは両手を上げながら叫んだ。
その様子を見て、何か面白くないことでもあるのだろうか、キュリがじとーっと呟いた。
〈サカグチさんって、ああいうのが好きなんですか?〉
「いや、別に巨乳が特別好きというわけではない。それより俺がパーティを作ったと仮定して、普通の奴らの中に俺がいたら、俺だけが浮いた目で見られるだろう。しかし俺以外の奴らも変な奴らだったら、俺も馴染んで見られるだろうよ」
それを聞いてキュリは少し安堵をした。しかし残念ながら、この気持ちの揺れをサカグチに理解してもらうには半世紀以上はかかるであろう……。
〈森の中に木というやつですか〉
「そうそう、大阪に逃亡者みたいな」
〈それで、これからどうするんですか?〉
「絶対に仲間にする。何でも良いから連れていく。最悪、殺してでもな。グッへっへ」
〈やめなさい〉
サカグチは腕組みをしながら堂々と警備員の真正面から歩いていった。そして当然のように、3人の警備員に足止めをされてしまった。
「なんだね君は。悪いが、姫様に近づくことは出来ない。特に、お前みたいな怪しいオッサンはな」
「ふん、どけ」
案の定ここまでの展開を計算していたサカグチは、右手で軽く払うように打撃を入れた。するとその3人が軽く飛ばされてしまった。
「うわっ!! な、なんだあのオッサン! ただの変質者じゃないぞ!」
「ふん、こんなド田舎の警備員ごときに、フンドシ一丁で旅をしてきた俺を止められると思うなよ」
〈全然かっこよくない……〉
すると10人近くの警備員が一斉に集まってきた。そして一人で向かってくる相手でも油断は禁物とばかりに、全員が剣を抜いた。サカグチはそれを見て拳を鳴らし、体ごと突っ込んていった。
「おらおら!邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔ァーーー!」
前にいたほとんどの警備員を拳で吹っ飛ばした。その光景をみた他の警備員達も足がすくんでしまった。それを見て警告するようにサカグチは言った。
「お前らは実戦慣れしてないせいか、腰が入ってないんだよ。それじゃあいざ本物の悪者が乱入してきた時に対処出来ねえ。特に! 全盛期の松井稼頭央並みのボディを持つ俺にはキズ一つつけられねえぞ!」
「えいっ、スキあり!」
今度はサカグチの油断である。後ろからゆっくり近づいていた警備員に警棒で頭を強打された。サカグチは頭を抱えながらその場に座り込んだ。
「いった……、うわ、本当に痛い……、なんだかんだで訓練はちゃんと受けてるな……、てか、こういう時は攻撃してはいけないって暗黙のルールあったよな……、あー、痛い」
そして今度は暗黙のルール?通り、警備員はサカグチが喋り終わるまで待った。いや、待ってしまった。
一通り愚痴を言い終わる頃にはサカグチは完全回復し、先ほどの警備員を蹴りで飛ばしてから再び移動を開始した。
「このクソゆとり警備員が。先生の言うことを聞いてるだけだと志望校の3ランク下ぐらいしか受からねえぞカス」
「おいおい、なんだこの騒ぎは!」
今度は異変を聞きつけた、姫を仲間にしようと考えていた勇者達がサカグチの周りを囲んだ。当然、仲良さそうにパーティを組んでいる者もいてサカグチは面白くない。
「おいフンドシ親父、さっきから何を考えて暴れているか知らんが、姫様を仲間にしたいなら手順を踏めよな。まず姫様に会うにはここの村長に認められなければいけない。そういう掟だ。そのタメに3年間も毎日ここに来てる人だっているんだぞ。それでも行くっていうのなら……」
今度は勇者達が一斉に剣を抜いた。
「俺たちがお前を倒すからな!」
それを聞いて、サカグチは鼻で笑った。それも、到底主人公とは思えないドスの聞いた笑い方である。
「なるほど、待てば海路の日和ありってか。いかにも姫様のオッパイ目当て、見抜き勢らしい考え方だ」
「なっ、誰が見抜き勢だ!」
「テメェらの考えも、ここの掟もどうだって良いんだよそんなもん。俺は俺のやり方でやらしてもらう。そのやり方はな……」
サカグチはかばんの中からこん棒を取り出し装備した。そして頭の上でぶんぶん振り回してから下に下ろし、渾身の決め顔で言った。
「何もやらずに溺死するぐらいなら、前に進みながら爆死するってな!」
「おい!全員でこいつを止めるぞ!」
勇者達は容赦なくサカグチに飛びかかった。
今度は場数をそれなりに踏んでいる者達が多いのが装備を見ただけでも分かった。
しかし、彼らは平常心では無かった。
「馬鹿が、お前らの目的はあくまで俺を姫様のところまで行かさない事だろ。全員で守りを固めれば俺も苦戦したかもしれないものの」
サカグチはを大きくこん棒を振り回し、飛びかかってくる勇者達左右に振り払っていった。今までザコ戦ばかりを戦ってきた彼らには止めるすべもなく……。
「うっ、なんだ…………、この強さは……」
サカグチは一瞬のうちに一通りの勇者たちをやっつけていた。
だが、その中に一人様子を見ている者がいた。その男は身長が2メートルをゆうに超えていて体重も相当重そうであった。また、300キロ超えていそうな大きな斧を装備している。
実は恐怖で足がすくんで動けなかっただけなのだが、それが功を奏した。
「ぼぼ……ぼくは良いこと聞いたんだな。守りに徹したほうが、や、やりにくいとな。だから僕は動かないんだな……。で、でも来たら切るんだな」
上に掲げた大きな斧がキラリと輝いた。
それを見てもサカグチは歩くのを止めなかった。斧男は動揺こそしていたものの、やることは振り下ろすの一つだけなので、他の勇者たちよりは安定した気持ちであった。
そしてサカグチがそのまま斧男の前まで行ったとき、巨大な斧が容赦なく下ろされた。
「ふっ!」
サカグチはそれを瞬時に少し後ろに下がって回避した。そして斧を下ろした隙に攻撃をしようとしたその時、今度は斧男はニヤリと笑った
「あまいんだな! こんな展開ぐらい折り込み済みなんだな! 下からもいけるんだな!」
斧男は筋力に全てを使っていたことにより、上から振り落とすよりも遥かに早い斬撃を下から出せるようになっていた。まるで死の鎌のような攻撃がサカグチを襲った。
しかし、それより一瞬先に、サカグチ渾身の頭突きが入った。
「オラッツッ!!!!!」
「べふっ!!」
タイミングはギリギリであった。が、最初から覚悟を決めていた分、サカグチの勝利に繋がった。斧男はそのまま失神してしまった。
「バカやろう、見抜き勢はそこで寝とけ。それで格ゲーで露出度の高い女がオッサンにぼこられてる動画でも上げとけ」
そしてこのまま姫様のところまで一直線……と思ったのだがバランスを崩した。見ると一番最初に倒した勇者に足を掴まれているのであった。
「はあ、はあ、おいオッサン、シコ勢の粘着力、舐めるなよ」
そして続々と倒された勇者達がゆっくり集まり、足や腕、顔など色々なところを引っ張ってサカグチの進撃を止めた。サカグチは少し顔を歪ませた。
「しまった……、見抜き勢の賢者タイムになるまでの執着心舐めてたわ……、見抜き勢は自分の目当ての動画が見つかるまで朝のスズメが鳴くまで粘る事もあるしな……、おそるべしシコ勢。しかしここで俺が負けたら、この世はシコ勢によって動かされる可能性も大いにあるなこれ……。新党シコ勢が動き出す日も近いな」
男たちが集まって引っ張り合ってる様をキュリ遠くから見ていた。
〈本当、地獄絵図ね……〉
良いマスターに巡り会ったと思うキュリでさえ、これ以上関わりたく無いと思わせる光景であった。
そんな時、あるお婆さんの声が響きわたった。
「全く、そのへんの奴らに苦戦するなんて情けない奴じゃのお」
すると、勇者たちの動きが一斉に止まり、直立不動の体制をとった。サカグチは急に離されたので顔から転んでしまった。
「すみません村長! もうすぐでこの男を止めてみせますので!」
村長と呼ばれた女性はどう見ても普通の元気なおばあさんだった。髪はしっかりあるものの全て白で、顔はシワだらけ。ただ、年のわりにしっかりと地面の上に立っていた
「アホか。お前さんたち、あの男に手加減されていることも分からんのか。袋の中に恐ろしい気が入ってるのが見えんか」
勇者たちはサカグチから離れていった。
しかしここである異変が起こる。それからいくら時間がたっても、サカグチは一歩も動かないのである。
それを心配したキュリが近づき、声をかけた。
〈サカグチさんどうしたんですか……って、え?〉
顔を見る……までも無かった。サカグチは泣いていた。下を向きながら声を押し殺し、周りの目線も気にすることなく。泣いていた。
キュリは驚き、おばあさんの方を見た。
〈あの、失礼ですが、あなたは誰ですか?〉
「あたしか。あたしは坂口君江だよ。ここの村の村長であり、」
すっと、サカグチの方を指さした。
「その子のおばあちゃんだよ」