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鳴かぬなら、イーマ舐めろよホトトギス

 鳴かぬなら、イーマ舐めろよホトトギス村

 この町はまだまだ発展途上で民家や畑が並んでいる。古い仕来りも多く、若者が好んで住む場所ではない。

 そんな村で今、子供たちの間で大ブームになっているものがある。カードダス・イン・魔物。百円を入れると一枚の魔物カードが出てくる。これでデッキを組み合せ、戦うことも出来る。

 そんなカードダスの前に今日もたくさんの子供たちが群がっていた。その中央に、一際大きな影があった。上半身裸でフンドシの姿。

 サカグチである。たくさんの子供が見守る中、既に10枚目を手に入れていた。


「あのオッサンまだやってやがるぜ! 超いかしてんぞ!」

「頑張れー、キモいオッサン頑張れー」

「ねえママ、あの人は何でフンドシでガチャガチャやってるの?」

「それはね、馬鹿だからよ」


 静かな村で、その場は子供たちに囲まれ異常な盛り上がりを見せていた。それもそのはず、これほど大量のカードを一度に回す人は滅多にいないのである。

 サカグチはそんな子供の声援を無視し続け、ひたすらカードダスを回していた。ガチャガチャ言わせながら。11枚目のカードを荒く引き抜いた。


「うわ、またスライムカードかよ。オッサンさっきからしょぼいカードばっかり引いてるな」

「オッサン運がないねー。でも頑張ってー」

「ねえママ、なんであの人は良いカードが引けないの?」

「それはね、日頃の行いが悪いからよ」


「…………、昨日、村を救ったばかりなんだけどな……」


 サカグチは誰にも聞こえないぐらいの小さな声で言い、再び回し始めた。少年達はキラキラしたカードを交換したり見せあったりしているものの、それが来る気配すら感じられなかった。とりあえず無心で12枚目へ。


「うわ! ウンコスライムカードだ! 正真正銘クソカード引いてやがる!」

「うわー、あんなカードあったんだ。知らなかった」

「ねえママ、なんであの人はあんなカード引いちゃったの?」

「それはね、存在がウンコだからよ」


「…………」


 カードダスの一部が点滅をした。よく見るとあと一枚ということらしい。イライラは縦積もっているもののそこは子供達の前、特に気にしていないアピールの表情を見せ、先ほどと同じように回した。


「うわ! 今回はただのウンコだぜ! ウンコしか書いてないカードなんてあったのか!」

「てかあれって魔物カードっていうの?」

「ねえママ、なんであの人はウンコを引いちゃったの?」

「それはね、ウンコの神様が早く人間やめてウンコになりなさいって言ってるからよ」


 サカグチは何も言わず、その場を離れた。そして人通りの無い場所まで行き、剣を握った。


「うおーーーーーーーーーー!!これを怒りに変えて変身しろーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

〈いや、無理でしょ〉

 必死なサカグチとは対照的に、キュリは呆れながら言った。


「いや、怒りがヒントって聞いたからな。もしかしてと思ってやってみたんだが、まあすぐに見つかる物でもねえか」

〈そうですね。地道に探して行きましょう〉

「まあそれはそうと、あの腐れ人妻には後で本物のウンコ送ってやろう。朝一番のビックインパクトを」

〈やめなさい〉

 つっこみも慣れた物である


「そもそもな、今日俺がこの村に来たのは、仲間を増やすためだ。あんなガキやオタクが喜んでやるようなクソカードゲームをやりに来たわけじゃない」

〈この場所でですか? この先もっと開けた町がありますが〉

「この村で旅に誘われ続けて、そして何年も振り続けている女がいると聞いた。そいつを仲間にしようと思う」

〈出来るんですか?〉

「本人に旅をする気はあるらしい。仲間にすること自体は0コンマいくつぐらいの可能性があるとは思う。そしてそれは、悲しいが俺が他の人を仲間に出来る可能性も同じぐらいだ。ほぼ0と0の可能性がぶつかりあった時、どうなるか分かるか?」

〈どうなるんですか?〉

「完全に0になる」

〈ダメじゃん……〉

 はぁ……とキュリのため息が聞こえた。


「まあそれは冗談としてだ、変わってる者同士何かお互いに通じる物があるかもしれん。試してみる価値はあるだろう」

〈その女性は強いんですかね?〉

「分からんし興味もない」

〈うーん、この近視眼〉

 基本的に戦闘と己の欲望以外にはダメなサカグチであった。


 サカグチは村での聞き込みを開始した。その女性とはここの姫様であり、朝と昼は村で一番大きな建物で公務をしていると。そして夕方になると決まって散歩するコースがあると。とりあえずサカグチは晩になるまでここで時間を潰すことにした。


「おい、あそこに出店でみせみたいなのが並んでるな。とりあえず行ってみるか」


 それほど大きくない規模ではあったが、そこには観光客がまばらにいた。サカグチはドリンク屋の前に立った。


「えーーっと、それじゃあクリームソーダくれる?」

「はい、どうぞ……、って、地上げ屋ですか?」

「いや違うから!」


 近くの2人用のベンチに腰を下ろした。サカグチは空気を読んで片側に座り、キュリは透明化しながら横に座った。


「あの女、動揺してストロー忘れやがったな……。400リットルもあるというのに」

〈ずいぶんと子供っぽい物を選ぶのですね〉

「こういう所に来ると、たまに飲みたくなるんだよな。現実ではさすがに買えなかったけど、異世界だから良いかなと思ってさ」


 コップを軽く上に上げ、少し飲んでからまた下げた。


「うわー、甘ったるい。この喉の奥に絡みつく感じが懐かしいなぁ。この骨を直接溶かしてる感じがたまらん」

〈本当、美味しそうに飲みますね〉


 くすくすと笑っているキュリにサカグチはある疑問を聞いた。


「あのさあ、精霊は食べたり飲んだりしないのか?」

 サカグチは特に何も考えずに発した言葉であったが、キュリは少し考え、真面目に答えた。

〈私たちは基本、少量の水の摂取だけで生きる事が可能です。ですが、食べることもありますし飲むこともあります。当然、好き嫌いもあります〉

「食べ物を無駄にしてるのか」

〈それは人間も同じだと思いますが〉

「確かにそうか。ごめん悪かった」

〈いえ、怒っては無いですよ〉

「それでお詫びと言っては何だが」


 サカグチは自分の座っている横にコップを置いた。


「これ飲むか? まだキンキンに冷えてるし上手いぞー」

〈私がですか? でもそれはサカグチさんの飲み物ですし、何より子供っぽいと言いますか……〉

 遠慮気味のキュリだったが、サカグチは続け様にこう言った。

「じゃあ捨ててくるわ。必要以上に水分は取らない性分なんだ俺は」

〈それじゃあ少しだけ頂きますね〉


 少し嬉しそうなキュリの声が聞こえた後、コップがゆっくりと浮かび上がった。そして更にゆっくりと、コップが斜めになった。


「透明化したまま飲めるんだな」


 コップは斜めになってからクリームソーダがゆっくりと流れ込んだ。こくっ、こくっ、と喉を伝う音が鳴った。再びゆっくりと垂直へ。


〈…………ふうー〉


 そして再びコップが斜めになった。そして垂直に。そして斜めに。この一連の動作がどんどん早くなり、最終的には普通にゴクゴクと飲んでいた。

「こいつ相当気に入ったな……」


 そして、気づけば残りが2割ぐらいになっていた。

 キュリは生き返ったーっと言わんばかりに息を吐いた。


〈ふは。大変美味でありました〉

「お前俺でもこの量は飲めないぞ……。まあいいか。そろそろ出るぞ」

 サカグチは残ったクリームソーダを飲み干し、ゴミ箱へと捨てた。

〈サカグチさんサカグチさん〉

「ん? トイレか?」

 キュリはいたずらっぽく言った。

〈サカグチさんは必要以上に飲み物を飲まないんじゃないのですか?〉

「さて、何の事だか。何のこっちゃ番茶に麦茶」

〈ふふ、何ですかそれは〉


 二人はクスクスと笑い始めた。


〈サカグチさん、あのですね〉

「ん? トイレか」

〈ありがとうございます〉

「うるせえわバカやろう」


 夕日が登る中、姫様の散歩コースへと向かった。

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