5分だけでも良い
サカグチはアルバと一緒に安全な場所まで下山した。そしてアルバの方から疑問を聞いた。
「色々聞きたい事はあるが、まず君の名前から教えてもらえんかね。まあ、私は顔が広くて、あれだけの強さを持ってる君を知らないのは自分でも信じがたいが」
「俺はデビルサカグチだ。昨日この世界に来たばかりだから知ってる方がおかしい」
それを聞いて、アルバは杖をサカグチの方に向けた。
「デビルだと! やはり人間じゃないのか!」
「このやりとり今日だけで何回やらすんだよ!」
〈12回ですかね〉
「しっかり数えてて偉いね、バカやろう」
「はは、これは冗談だ。英国ギャグだ」
「海外のジョークはブラックすぎて日本に合わねえんだよ、覚えとけジジイ」
そして次はサカグチが少し真剣な表情で疑問を聞いた。アルバもその空気を感じとった。
「てか、あの剣はどこから手に入れてきたんだ?」
「あれは武器の中古屋に500ゴールド置いてあったよ。ボロボロの状態でね。隅っこに置いてあったんだけど、店全体を包むような禍々しさを放っていて、すぐにただものじゃないと思ったよ。怨念のような気を感じたね」
「そうか……」
改めてムラサメを見てみた。先ほどまでは恐ろしい妖気にも似た物を放っていったものの、今はただ美しく優しい光を放っているだけ。
「まあ、持ち主がこんなに早く見つかるとは思わなかったけどね」
「俺がこれの持ち主という確証は無いけどな。実は、これを昔持っていたという記憶はない。断片的な感覚みたいなもを感じただけだ。それも、ムラマサという名前と、誰か見知らぬ女が見えただけ」
「そうか……、まあ君の剣で間違いないと言って良いだろう。多分あの姿になったのも、その剣が大いに関係がありそうだ」
「またなれると思うか? あの姿に」
「あくまで私の推測だが、あれは君の思いに呼応してると思うね。その中でも、怒りが重要な要素になっていると思う」
「怒りか。一番苦手なジャンルだな。仏より怒らすのが難しいと言われているこの俺が」
〈どの口が言うか〉
キュリは口を尖らせながら言った。
小さな笑いが起こり、場が少し和やかになった。
サカグチは手先だけで軽くムラマサを振ってみた。風圧も何も出ない。それを見てアルバが忠告した。
「君が気をつけなければならないのが、その武器はあくまで500ゴールドの価値しか無いと判断されたものだ。安定した力は発揮できないだろう。気持ち悪い話だが、その剣は使い手をを見ている」
それを言い残すと、アルバは空高く飛び上がった。
「もう聞きたい事も聞けましたし、私はまたすぐに弱き者の助けにならねばならない。というわけで、さらばだ底知れぬ若者よ」
風がアルバを包み込んだ。そして、すぐに見えなくなるぐらいの距離を飛んでいった。
「なあ、キュリ」
〈なんですか? サカグチさん〉
「あの紳士みたいな格好って、変じゃね?」
〈今更ですか〉
いく度となくキュリから大丈夫ですか? という心配があったものの、サカグチは傷だらけのまま休む事なく村まで帰った。そこにはたくさんの村人が待ちわびていた。
「おおサカグチさん! 待ってましたよ、どうでしたか?」
「チュークライは倒してきた。コ・サウルスも違う場所に移ったみたいだな」
「本当ですか! ありがとうございます!」
静かだった村が大きく沸き返った。そんな中、サカグチは自分の依頼主に耳打ちをした。
「なあ、分かってるよな?」
「え? 何がですか?」
サカグチは顔をニンマリさせて、手をこすりながら言った。
「あのなあ、ワイも慈善活動でやってるわけやありまへんのや。こんなこと口に出して言うのもなんやけど、それなりのモン、期待してもよろしいやろうな?」
〈おい主人公〉
「もちろんですよサカグチ様。それでは、これをお持ちください」
サカグチは、遊芸会のチケットを手に入れた。
そのチケットを握りながら、サカグチはぷるぷると震えだした。そして怒りを噛み殺しながら言った。
「いや分かってるよ! これが何かのフラグになるのは分かってるよ。だが、だがしかし! この怒りは決して矛盾しているものでは無いはずだ!」
「えーっと、お気に目されなかったかったですか?」
「いいや! ありがとう!」
半ばヤケクソであった。
そして村は徐々にお祭りムードになっていった。椅子や机や装飾品を外に並べ、アルコールもたっぷり用意されていた。
そんな中、一人サカグチだけは険しい表情を浮かべていた。そんなことも露知らず、村人は祭りの準備を進めていたのだが……、
「おい! 祭りを開く前に俺の話を聞け!5分だけでも良い」
サカグチが村全体に響くぐらいの大声で言うと、全員がこちらを見た。
そして更に息を吸って、まるで怒鳴り声のような言葉を発した。
「火山の一番奥にチュークライの巣がある。そこに50センチぐらいのヒナ10匹ほどいるんだが、それをみんなでここに運んで来い! そいつらを育てて、今日からこの村の名物にする!」
村にどよめきが走った。その言葉を理解していない者さえいるぐらいに。
「そ、そんな、チュークライのヒナを飼うとか何を考えているんだ! 本当に村を消滅させる気かお前は!」
「おいキュリ! 恐竜族の説明を頼む」
〈はい。恐竜族はとても頭が良く、幼い頃から飼うと懐いてきます。少なくとも、害を及ばす心配は無いでしょう〉
「しかもお前らは耐性のある家を建てれるんだろ。それで巣を作れば安心して育てられるだろ」
そこで顔に傷がある村人が出てきた。
「俺はな、一生消えない傷を入れられたんだぞ。弟も足に怪我をした。これでもまだ飼えと言うのか!」
「あのなあ、俺は殺したんだぞ。そんな甘ったれた事言ってるんじゃねーぞカス」
その村人はサカグチの殺気にも似た勢いに何も言えなくなってしまった。
「とりあえず少し大きくなるまで飼ってみろ。それでダメならまた俺が来る。チュークライを倒した俺だ。一瞬で何とかしてやるよ」
そう言うと、自分のメールアドレスを書いた紙を下に置いた。
「た・だ・し、飼わないって言うなら俺が今すぐこの村をぶっ壊す。お前らも火山の噴火見ただろ。あれは俺がやった。こんな村の壊滅ぐらいなら一瞬で出来る。さあ、早く行け!」
村人は急いでヒナを回収しに行った。それを見ながら、サカグチはゆっくりと一人で帰った。そして出口で振り返って、一言だけ言い残した。
「ああ、ついでに依頼するときは防具も作っといてくれ」
〈しつこいです〉
「あばよ」
そしてそれ以降、その村からメールが入ることはありませんでした。