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 当たれば文句無く一撃死、その状況で、サカグチは攻撃を選択した。倒れそうになるぐらい体を前に傾けながら、前へ大きくダッシュした。

 そこにチュークライ・サウルスは容赦なく大きな爪を振り下ろされた。それをギリギリまで見切った上で避け、隙を見て足の蹄の間を狙ってこん棒を振り下ろした。


「ギャオオオァアア!!!」


 この辺りは経験が生きる。今までパソコン上とはいえ、何度も戦ってきたドラゴン族なので、ある程度のパターンは分かる。もちろん、ある程度だが。

 しかし実戦では緊張感が違う。いざ相手の武器を目の前にすると足がもつれ、息切れも起こる。それをかわした上での攻撃、当然反撃に注意をしながら。そして地形の微妙な凹凸にも気を取られながら。わずか数撃とはいえ、サカグチはこれを初見で全てやってのけた。


 そして腹に一撃を叩き込んで、安全な所まで距離を取ってから、装備を一旦外した。


「おいキュリ、さっきから何で黙ってるんだよ?」

〈だって、さっき女は黙ってろって言いましたよね〉

「あー、怒ってるのか……。言葉のあやって言うのかな。あれ男なら一回は言ってみたいセリフなんだよ。「これに好きな額を書くといい」、とタメをはるぐらいの言ってみたさ」

〈むー……〉

 キュリは珍しく駄々っ子のような声を出した。それを聞いて珍しく困った顔をしたサカグチは、なだめるように言った。

「完全にむくれたか……。ああ、ごめん俺が悪かったよ。もう言わないから。な? ちょっとでも勝つ確率上げてえんだよ。」

〈……妖精ポイント、使ってくれるなら良いです〉

「ゴミに捨てとけ、じゃなくて、分かったよ。これが終わったら使うから。とりあえず仲良くやろうぜ」

〈分かりました。戦闘ナビを開始します。相手のモーションなどを重点的に見ていきますね〉

 余りの切り替えの速さに、今度はサカグチが言葉を失った。

「…………、なんか俺が掌で遊ばれてる感が否めんが、まあ機嫌が治ったし良いか」

 そしてキュリ明るい声でいった。

〈サカグチさん、生きて帰りましょうね〉

「あたぼうよ!」


 再びこん棒を構えチュークライ・サウルスに立ち向かった。爪に細心の注意をはらいながら。

 しかし、左の爪を横で切り裂く攻撃を受け流し、右の爪の縦へ切り裂く攻撃を横に飛ぶ事でかわした時、体制が崩れた。そこに左爪の斜めの攻撃がサカグチを襲った。

 

━━━ガツンッッッ


 ギリギリこん棒で防いだものの、そのこん棒は大きく後方へ飛ばされてしまった。

〈大丈夫ですかサカグチさん!〉

「ああ、俺に当たった訳じゃないから大丈夫だ。それより、」


 サカグチはこん棒を拾ってその状態を確認した。傷が少し入っているものの、まだまだ使えそうであった。


「あぶねえな。これ装備屋で下手に剣を買ってたら間違いなくポッキリ折れてたな」

〈敵の爪での攻撃は主に縦、横、斜めに振り下ろす3つですね。縦、横は何とかなりそうですが、斜めはどうですか?〉

「ダメだ、横にかわすのは無理だし、しゃがむ、受け流すも無理だ。後ろに下がってたら次の爪の攻撃で反撃が出来ない、これじゃあジリジリと追い詰められるだけだ」

〈それでは、攻撃前のモーションを見てはどうですか? 縦には縦の、横には横の、そして斜めには斜めの違いがあるはずです〉

「それは難易度の高い注文だな。一撃死な上に、いつ牙みたいな違う攻撃が出てくるかも分からない状況だぞ」


 すると、ジッとしていたチュークライ・サウルスが口を開け、こちらを向いた。それを見てサカグチは瞬時に必死に横へ走り、ヘッドスライディングのような格好で飛んだ。

その大きな口から一面に広がる大きな火炎が出てきた。炎のステージが更に火で燃え上がった。

 間一髪でかわしたサカグチは体制を立て直し、再び前へと突っ込んだ。


「4の5の言ってる暇はねえな! 見切るか死ぬかのどっちかだ!」


 サカグチは大半の神経を目に集中させながら守りの接近戦を選択した。腕の初動、爪の向き、そして足運びや表情の変化まで。


そして全ての癖を見抜いたときには、すでに20分以上も経過していた。サカグチは一旦距離を置いた。

〈よく頑張りましたねサカグチさん。これで攻撃に移れそうですよ〉

「おいキュリ、それより俺のヒットポイントを確認してくれ!」

〈了解。……って、うそ! 攻撃はくらって無いはずなのに半分も減ってる……〉


 キュリはサカグチの体を見た。よく見ると青くなってる場所や血が滲んでいる場所もあった。そして汗が滝のように流れていた。


「俺の場合、装甲が紙すぎて風圧だけでダメージを喰らってるんだろう。さっきから体の節々が痛い。あと、スタミナが何気にキツい。熱に対する耐性なんか当然持って無いしな。くそっ、何か流れを変えるような物でもねえかな……」


〈そうですね……、何か特技でもあれば別ですけど……〉


 サカグチはチュークライ・サウルスの動きを注視しながら設定画面を確認した。そうすると、特技の覧が光っていた。それを見てニンマリと笑った。


「はは、キュリちゃん、やりましたなあ! そうだ、そうだよ! レベルも上がってるんだし特技の一つや二つ、覚えてても不思議じゃねえよな! さっそく使ってみるぜ!」

〈あっ、ちょっと待ってください! それは!〉

 キュリの忠告を無視して、サカグチは特技のボタンを押した。

「特技、ネカマスコープ!!」



 メス



「……………………。」


〈サカグチさん前!〉


 前を見ると、火を吐く寸前のチュークライ・サウルスが見えた。

 サカグチは一瞬で自分の状況を整理した。


 スタミナの消費量は激しい

 仮に左右に全速力でダッシュしても間に合わない

 岩場などの障害物も無い

 下は無理

 上は……綺麗なお月様が光っているだけ。


「ああ、本当にやってしまったな。」


 再び、設定画面を開いた。そして妖精ポイントの覧を見た。今度はチュークライ・サウルスの動きを見ずに。


「へえー、結構使い道あるんだな。効果は良く分からねえが、とりあえず妖精の魅力ってのに振っとくか」

〈サカグチさん……? な、何をしてるんですか?〉


 キュリハある程度の事情は分かっていたものの、聞かずにはいれなかった。


「お前が妖精ポイント妖精ポイントうるさかったろ。死んでも言われ続けるのはシャレにならねーしな」

〈そ、そんな……、でも私の一番の望みは生きて、生きて帰って……〉

 キュリの言葉を遮るように、サカグチは静かに語った。

「一応魅力は上げといたから、これで違うマスターに拾ってもらいやすくなったろ。次はイケメンで優しい奴を捕まえろよな」


 そして持っているこん棒を下に投げた。火を吐いているチュークライ・サウルスを前にしながらも、今まで見せたことのないような優しい笑顔で言った。


「ありがとうキュリ。短い間だったけど楽しかったよ」

〈サカグチさん!!〉


 サカグチの前に、大きな業火が襲いかかった。


〈い……いやあああああああああああああ!!!!!!!〉

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