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誠意は言葉ではなく金額

 サカグチは町の南門へと向かった。南の門を出るとレベルの低い魔物が出てくる。道もほぼ一本道で初心者向けとなっている。

 そこにたどり着くまでの道中、サカグチは何もない方向を見ながら喋っている人を多々見かけた。

 

「なあキュリ、さっきからすれ違う人が横を見ながら歩いてる人が結構いるんだが、何かやってるのか?」

〈はい。みなさんも精霊と話をしているのでしょう。この世界では一人に一つの精霊がつくようになっているのです。ついでに性別はマスターと逆がほとんどですね〉

「精霊って肉眼で見えるの?」

〈はい、設定画面を出して精霊視覚の所を可に変更してください〉

「こうか?」


 すると、旅人全員の横に120センチぐらいの精霊が浮かんで見えた。人型もあれば動物の形をしているのや乗り物みたいなものまであった。


〈ちなみに精霊を見えなく設定していた理由はちゃんとありまして、とりあえず目の前の精霊を触って見てください〉


 そう言われると、サカグチは目の前の小さな女の子の精霊のお尻をさすった。


〈…………〉

「すまん男としての本能が出てしまった。俺じゃなく、男として産んだ親を責めてくれ」

〈何でも親のせいにしない。まあ、とりあえず理由は分かったでしょう〉

「精霊は人間には触れる事が出来ないってことか。なるほど、見えたら変に疲れるってのはあるな」


 そしてサカグチは自分の周りを見回した。しかし何もいない。


「てか、キュリはどこにいるんだ?」

〈あ……、私はですね、ちょっとフンドシ男の隣は歩きにくいって言いますか、同類に見られたくないと言いますか……。だから完全に他の人からは見えないようにしています〉

「元はと言えばテメェのせいじゃねえか!」

〈いや、サポートの方はしっかりやらせてもらいますので。それより、前にいる人型精霊と人のあれ、見てくださいよ〉

「ん? どれどれ?」


 そこには、爽やかな男の勇者と可愛らしい女の妖精が少し頬を赤らめながら笑顔で語り合っていた。


「キモッ」

〈キモッ〉


 二人の意思が初めて通じ合った瞬間である。


〈マスターと精霊の恋とか虫酸むしずが走りますし、出来れば透明化していたんですが……〉

「今までの俺の行動のどこにその可能性を感じたのかと疑問に思うが、まあいいか」


 サカグチは精霊視覚を切った。

 そうこうしているうちに、北門へと到着した。門は大きくて重そうで、なんと高さは5メートル程もあった。


「よーし、俺のデビュー戦か。派手に決めてやるよ。日ッシリの福留ぐらい思いっきり決めてやるよ」

〈出来ればWBCの福留にしてください〉


 サカグチは大きな北門を大胆に蹴り開けて、モンスターのいる道へと入っていった。周りは木や果物が生い茂り、鳥のさえずる声が聞こえ、木々の間から刺す日差しがとても気持ちよく、まるでウォーキングコースのように思えた。


「こんなところに魔物って出てくるのか?爺さん婆さんの散歩コースだろこれ?」

〈気をつけてください、来ますよ!〉


 成人男性並みの大きさの影が3つ、サカグチの前に姿を現した。

 ゴブリンA ゴブリンB ゴブリンC が あらわれた


 キュリはすぐさま戦闘ナビモードに頭を切り替えた。

〈いいですか、相手は石斧を装備していて、この辺りでは相当強い部類に入ります。そしてサカグチさんは一人です。残念ですが、今は隙を見て逃げるのが得策かと思います。もっと弱い敵も出るので、それと戦って地道に経験値を貯めて行くのが良いかと〉

「却下、肩慣らしに全員ぶっ殺す」

〈サカグチさん!〉


 キュリの助言を無視して、勢い良くゴブリンAをこん棒で殴りつけた。


「ギャーーーー」


 致命傷にはならなかったものの、Aは体制を崩してひるんだ。サカグチはそれを確認してからBを睨みつけた。その勢いに少し気圧されたBであったが、我に帰って石斧で切りかかった。


「キシャアア!!」

「バカやろう、焦ってるのが見え見えなんだよ!」


 サカグチはバックステップでかわして、相手の無防備な頭にこん棒を振り下ろした。

「ギャフッ」

 Bは失神した。サカグチは大きい手を使いBの頭を手で鷲掴わしづかみ、Cの方へと放り投げた。

 それに困惑して隙が出来たCの腹を思い切りこん棒を突き刺した。


「グフッ」

「さすがに貫通はしねえか。まあ、寝とけ」


 サカグチはCが体を折りながら倒れてるのを見て、ゆっくりとこん棒を下ろした。

 その姿にキュリは見とれてナビを忘れていた。多少ゲスイ戦い方ではあったものの、魅了するには充分すぎるほど華麗な戦いであった。

 キュリは思ったことをそのまま口にした。

〈つ……強い、本当に、強いです〉

「何をボケっとしてんだよ。もう戦闘ナビは終わりか?」

〈……え? あっ、サカグチさん! まだ後ろに一匹元気なのが!〉

 サカグチのすぐ後ろに、黒い影は忍び寄っていた。


「分かってるよ、んなもん」


 サカグチは体を左にずらせた。そうすると、息を殺して後ろから近づいていたAが振り下ろした石斧が空を切り岩に突き刺さった。


「残念だったな。あばよ!」


 こん棒をバットを構えるように持ち、フルスイングで叩きつけた。


「ギャフン……」


 テテテテーテテッテッテテー♪


〈驚きました……、これなら一人でも充分かもしれませんね〉

「ふんっ、怪我したく無かったらすっこんでろ、ザゴが」

〈しかも勝利後のアピールまで出来てるし!〉


 こうしてサカグチは初戦闘をあっさりと終わらせた。

 次の戦いに向けて準備運動をしていた時、チャイナ服を着た女が近づいてきた。


「キャー、ずっと見てましたよ。誰だか分からないですが、お強いのですね!」

「ネカマスコープ!」

「え?」

「よし、白だな。いいぞ話を続けて」

 女は少し困惑をしたが、すぐに正常の顔に戻った。


 そしてサカグチはその女を舐めるように見回した。赤くてしなやかな長髪に小さな髪留めをしていて、服は緑色を主としたチャイナ服の上に薄いストールを着込んである。下半身は内股が少し見えるぐらいにスカートが開いている。胸もお尻もまあまあ大きい。


 その女は体をくねらせ、少しモジモジしながら言った。


「あのね、私、さっきのあなたの戦闘を後ろで見ていて、かっこいいなと思いました。だから、少しで良いので横に置いて下さいませんか?」


 女は少しチャイナをどけて太ももを見えるように持っていった。サカグチはそれを容赦なくガン見した。


「ほーう。ほおほお。これはこれは」

〈堪能してないで、さっさと返答をしなさい〉

 なぜかキュリは不機嫌なご様子。女は更に一歩前へと出た。

「ダメ……、ですか?」


 女はウルウルした目で見つめた。そしてサカグチは至極めんどくさそうに答えた。


「ふん、勝手にしろや。言っとくが、めんどくせえ協力とかは無しだからな」

「あ、ありがとうございます! ちなみに名前はリレット・ワグナリエです。よろしくお願いします!」


 リレットと名乗る女は頭を下げ、そして見えないように邪悪な笑みを浮かべた。

 彼女は相手を油断させてから、物を盗むのが仕事なのである。

 そして今回は、簡単に終わるものだと思った。


「まずは、体のどこに金目の物を置いてるかね。とは言っても、まだ序盤だし装備は良くないから、財布が無難かしらね」


 あくびをしながら移動するサカグチをじっと見つめながら金目の物を探した。しかし、なかなか見つかける事が出来ない。


「おかしいわね……、フンドシ一丁だから財布の位置ぐらいはすぐに分かると思ったけど。いや、もしかすると……」


 リレットは嫌な気がしたのを抑えつつ、慎重にサカグチの後ろへと周り、姿をジッと見つめた。すると、目的の財布を見つける事が出来た。が、同時に顔が赤くなった。


「い、いやーん……、お尻に挟んでる……。あれ盗むの嫌だなぁ……。何か女として大事な物を無くす気がするなぁ……、まあ盗みをしていて言うのも何ですが」


 サカグチが歩くたびにお尻と一緒に揺れる財布を見て、どうするか悩むリレットであった。

 しかしこの少しの悩みが、リレットに試練となってのしかかった


「おいリレット」

「は、はい!」

「お前さあ、さっきから俺のケツを見てないか?」


 リレットは動揺した。どこでバレていたのかは分からないが、ここで見ていないというのは余りにも無理があった。何とか場が収まるような言葉を考えた。


「は、はい。見てました。良いお尻してるなー、と思いまして……」

「だろ? 俺って良いケツしてるだろ」

「そ、そうですねはい。はい……。ほっ」


 リレットは少し落ち着きを取り戻した。


「でもよ、俺のばかり見られるのは何か損した気分なんだよなぁ。つーわけで、お前の尻も見せてくれないか?」

「え?えええ!!!! 何でですか!?」

「いや、俺の尻が見えたのではなく、見たんだから。次に見せるのは当然だろ」

「あ……あわわ……。お……、お尻ですか……」


 リレットは考えに考えた。今でも怪しまれているというのに、ここで断ると更に疑われてしまう。それだけは避けなければならないと思った。

 結局、尻を出す事を決意した。


「いや、別に嫌ならやらなくても良いよ。これで変な容疑かけられて豚箱にぶち込まれるのも嫌だし。この体で前科持ちとか、見た目とそのまんますぎるしな」

「いや、大丈夫です。出しますお尻を!」

〈さっきから黙って聞いてたけど、何なのこの展開……〉

「いや、俺もまさかオッケー出してくるとは思わなかった」

「その代わり!」


 リレットは顔を真っ赤にさせながら言った。この時には既に演技では無く、素の表情であった。


「生のお尻は勘弁して欲しいです! 少しチャイナ服を捲し上げますので、それでお願いします!」

「いやこんな森で生尻出してたら本物の変態だろ! 誰もそこまで求めてねえよ。それで充分だよ」

「な、なら!」


 リレットは恥ずかしさを我慢しながらも、顔が赤くなっていた。そしてゆっくりとチャイナ服を捲し上げた。


「ほーう。ほうほう。なるほどなるほど。白か、意外と地味なパンツ穿いてやがるな」


 そして何を思ったのか、ゆっくりとお尻を振って歩き始めた。


「うんうん。ひだり、みぎ、ひだり、みぎ。ふむう、むふう。なるほどなるほど。分かった分かったよーく分かった。尻の構造が良く分かった」

〈あなたの変態具合もね〉

 キュリは心底呆れながらつっこんだ。

「も、もう良いですかね?」


 涙目で懇願するようにリレットは言った。お尻を振りながら。


「いやもういいよ。逆にこの馬鹿いつまでやってんだと思うぐらいだった」

「そ、そうですか……」


 リレットは本職を思い出し、計画を練り直した。本当はもっとじっくり様子を見てから盗みをしようと企んでいたのだが、これ以上痴態を晒すわけにもいかないので、早いうちに決行する事に決めた。

 ふらりと体を揺らし、胸を当てるようにサカグチにもたれかかった。


「おっと。おいどーした? 疲れたか?」

「ええ、実はちょっと前にモンスターと戦ってきたばかりなので……、すいません少しの間、このままで居させてください」


 そしてゆっくりと手を伸ばし、お尻の財布を引き抜いた。


「あ、ありがとうございます。ちょっと私は薬草を買って来ますので、先に進んでいて下さい」

「あっそう」


 そしてリレットは駆け足でその場から立ち去った。

 サカグチはその姿をゴミを見るかのような目で見つめていた。


「行ったか。あのクソ泥棒猫め。これだから女は信頼できん」

〈散々堪能してきた人の言うセリフですか……。それで、どのぐらいから分かってましたか?〉

「そんなもん最初からに決まってるだろ。こんな格好のオッサンに声かけてくる時点でおかしいわ」

〈ちょっと理由が悲しいですけど、確かにそうですね〉

「まあ、あえてケツに財布を挟んだのに取ってくるのは想定外だったが。何かしら盗む理由でもあったのかな、別に興味ねえが」

〈でも、お財布取られちゃいましたね〉

「まあ当然、あの中のお金は抜いてるけどな。代わりにある物を入れといたが」

〈ある物?〉



 自分が遊ばれていた事も知らずに、リレットは走りながら喜んでいた。その喜びは苦難に耐えての物だったので人知れない大きさであった。


「やったわ初めての成功よ! 私もやれば出来るんだから! 恥ずかしい事もやらされちゃったけど……、胸も当てたし……。ま、まあ、結果が良ければ全て良しだわ! あの男見た目は気持ち悪いけど強さは確かだったし、いっぱい持ってるはずだわ」


 ある程度の距離を走ってから、財布をゆっくりと開けた。


「あ、あれれ?お金入ってないよーー……。でも、何やら写真が入ってるわね。これは何か価値のある物に違いないわ」


 リレットは食い入るようにその写真を見つめた。

 そこには、サカグチが自分のカメラで撮った、色々な角度(主に股間から)のサカグチ自身であった。


「ききき、キャアアアアアアアアアアアアアアーーーーーー!!!!!!!!!!」


 その悲鳴は森中を駆け巡った。



「どうやら気に入ってくれたようだな」

〈そういう声には聞こえなかったけど……〉

 ドヤ顔でしてやったりのサカグチに対し、自業自得ではあるものの、ほんの少しリレットが可哀想だと思うリレットであった。

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