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アメリカの犬

未だに主要キャラは男のみ。たまげた小説だなあ……

 サカグチとキュリが話しているのを聞いていた君江が、背伸びをしながら言った。

「話は終わったかの? 全く、あんまり老人を待たせるんじゃないよ。立っていたら手のひらが痛くなってきたわい」

「それ、俺を引っぱたいたからじゃないっすかね……」


 サカグチは嫌そうに君江の方を向いた。


「あのさあ、さっさと姫様に会わせろよ。掟とかめんどくせえんだよ。なんなら、強行突破もするが──」


 ニヤリとマサムネを握ったサカグチ。

 しかし、意外な答えが帰ってきた。


「いい。お前は別に会っても構わんよ。ワシが通せんぼしていた理由は、下心のある奴が余りにも多いからじゃ。のお、お前さんたち」


 そして君江は勇者たちを見回した。皆が下を向いて押し黙ってしまった。


「まったく、別に姫様を良いところに行かせようとは思わんが、見抜き勢は論外じゃろう。まだそこの孫のように下心を隠さない方がよっぽど信頼を置けるわい」

「なるほど。ちょっと拍子抜けはしたが、それじゃあ会ってくるわ」


 意気揚々と姫様の所に向かうサカグチであったが、君江が低い声で「待て」と一言呟いた。

 小さい声ながらも、威圧感のある声でサカグチは止まってしまった。


「……なんだよ。まさかやっぱり駄目とかガキみたいな言い分するんじゃねえだろうな」

「いや、一度言ったことは変えんよ私は。ただ──」


 君江はじっとマサムネを見た。そしてそれを指差しながら言った。


「それが欲しいんじゃよ。私は」


 サカグチの表情が険しい物に変わった。その表情のまま威嚇するような声を出した。


「ここを通す変わりに、これを渡せと」


 君江はクビを横に振った。


「いや、違うわい。私はそれが欲しい、お前はそれを渡したくない。──ただ、それだけの事じゃ」


 空気が一気に重くなった。勇者たちだけでなく、キュリも息を吸うのを忘れるぐらいであった。

 しかし、サカグチはその空気を受け流すように軽く答えた。


「全く、婆ちゃんには敵わないぜ。まあ育ててくれた恩もあるしな。よいしょっと」


 サカグチはゆっくりと君江の方まで歩いていった。君江はニッコリと笑った。


「いやいや、お前も恩を感じるような年齢になったかね。良いことじゃ」

「そうだな、確かに恩はある。だが──」


 サカグチはマサムネを取り出すフリをして君江の首襟を両手でガッツリ持ち上げた。

 そして不気味な笑を浮かべた後……


「ただ、異世界ここでの恩はねえんだよクソババアが!」


 サカグチ渾身の頭突きが炸裂した。


〈な、な、なにをしてるんですかサカグチさん! いくらなんでもやりすぎですよ!〉


 キュリは驚きのあまり、自分でも気づかないぐらいの大きな声を出していた。

 しかしサカグチは全く別の事を考えていた。


「おいキュリ! 説教は後で良いから今は現状に集中しろ!」

〈え……?〉


 サカグチの両腕には既に君江はいなかった。そして少し離れた位置でこちらを見ていた。

 しかも笑いながらである。


「ほっほっほ。全く、いつまでたってもあんたは成長しないのお。真の悪人ってものわな──事を起こす前に笑うんじゃよ」


 そう言うと君江はぶつぶつと念仏みたいなものを唱え出した。


「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、おお仏よ、おお仏よ、祈っても何のご利益も無いのなら、せめてその姿だけでも現したまえ。なんまいだーなんまいだー……」


 君江の体が徐々に光で満たされていった。

 何か不吉な予感に、サカグチは焦っていた。


「おいキュリ! あのクソババアは何をやってるんだ! 何が起ころうとしてるんだ!」

〈落ち着いて下さいサカグチさん。最初に私が一人に一つの妖精がつくって言いましたよね。その妖精を呼び出す詠唱みたいなものです〉


 そして数秒の間があった。


「お前に落ち着いてと言われる日が来るとわな。何かあるたびに涙目なお前に」

〈そういうこと……やめて下さい……〉


 半笑いで言うサカグチに対し、キュリは恥ずかしそうに言った。


 そう言っている間に、君江の後ろに巨大な物体がゆっくりと姿を現した。

 神々しい神の像であった。大きさは奈良の大仏より横幅は狭いが縦はそれ以上かもしれない。無表情な表情に背中に五光が差してある。そして、背中に12本にもなる短く長い手のようなものがウネウネとしていた。

 サカグチは呆れながら言った。


「なあキュリよ、どうやって倒せるんだろうな」

〈そうですね、まずはどうやって近づくかを考えましょうか〉


 2人は余りに巨大な敵に、もはや笑うしかなかった。

 そして、君江はいつもと変わらぬ感じで言った。


「これで弱いお前達でも実力差が分かったじゃろ。早くそのマサムネを渡すことじゃな。今のお前と私はアメ公と日本みたいなもんじゃ。犬は飼い主の言うことを聞くんじゃよ」


 それを聞いて、サカグチの気が跳ね上がった。静かな君江に対し、坂口の気は周囲が荒れ狂うような荒々しい物であった。


「う、うわー、なんだこの強烈な風は! ここにいたら巻き込まれるぞー!」


 勇者たちは一斉に避難をした。

 そしてサカグチはゆっくりとマサムネを抜いた。


「逆なんだよクソババアが。むしろ犬で止まってる事が重要なんだよ。お前らみたいに何でも闘争で済ますのは犬以下なんだよ」


 サカグチの姿がフンドシ姿からみるみる変わっていった。

 身長が190ぐらい、短髪でヤクザのような顔つきに、薄くヒゲを生やし、高級スーツに身を包んだ、かつてネット上でサカグチが大暴れしていたアバターである。

 君江はそれを見てもなお笑顔であった。


「ほう、それではお前も犬以下になるってことかの?」

「へっ、俺が言ってるのは集団での闘争が古くせえって言ってんだよ。今は個々の時代なんだよ。そして……己の力のみで這い上がっていくのが男の美学なんだよ!!!!」

「お前にそれが出来るかの? なら私やこの仏さんに掠りキズの一つでもつけてみなさい。」


 サカグチは目だけで殺すかのように睨んだ。

 そしてそれに呼応するかのようにマサムネが風を帯びてうねり始めた。オーラは紫の色──まさに邪心の塊のような激しい鼓動。


「なに甘い事言ってんだクソババアが。俺はお前をなあ!!!!」


 サカグチは渾身の力で右足で地面を蹴った。すると凄まじいスピードで、まるで空を飛んでいるかのような形になって君江に襲いかかった。


「まっぷたつにしてやるからよお!!!!!!」

 君江は逃げる事無く、サカグチの斬撃を真正面から受けた。

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