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 坂口知道、年齢・23才、職業・自称プロゲーマー、趣味・ネットのオンラインゲーム、好きなもの・俺が美しいと感じた物、俺が守りたいと感じた物、不良少女の肩がぶつかった時などに見せる「あっ、すいません。」などといった素に戻った時の表情、嫌いなもの・戦争、憎しみ、レジのお姉さんの愛想の無い挨拶。

 そんな知道が、今日もいつものようにパソコンの電源を入れた。

 

「…………?」


 ふと、何かの視線を感じて後ろを振り返った。

 誰もいない。

 そもそもエロ動画を見ながら耳にイヤホンをした状況でも親が廊下を歩く音に気づく知道が、無防備な背中を見せる事はありえない事だった。

 なんとも言えない違和感の中、いつもやっているオンラインゲームを起動させようとした。


「…………」


 しかし、押しても押しても全く反応が無い。文字が青くなるような変化も起こらない。

 今日はパソコンの調子が悪いものだと思い諦めようとした時、突然聞いたことのない女の声が聞こえた。


〈あなたをこれから、異世界の世界へ招待したいと思います〉


 知道はもう一度後ろを向いた。当然誰もいない。とりあえず、語りかけてくる言葉に集中をした。


〈突然で驚かせてしまって申し訳ありません坂口様。私は今あなたがやろうとしているゲームの向こう側の世界の者です。あなたを招待する理由は、あなたがこよなくこのオンラインゲームを愛して下さっているからです〉


 そしてその声が耳から聞こえるのではなく、直接頭に伝達されている事に気がついた。


〈あなたがいつもやっていますオンラインゲーム『ナイトウォー、世界の旅路へ』のアイコンがあるでしょう。そこを指で直接押してみてください〉


 知道は人指し指をすっと出し、ゆっくりとアイコンを押した。

 しかし、何も起こらなかった。パソコン画面の液晶が乱れたぐらいである。


〈……あー、ごめんなさい。念でした念。ゆっくり異世界への思いを念じてください。私のあなたを導きたいという思いと、あなたの異世界へ行きたいという思いが重なり合うとき、異世界への扉が開きます〉


 知道は汚くなった画面をハンカチで拭いてから、ゆっくりと目を閉じた。そして静かに、異世界への思いを心で描いた。

 身体が少しずつ軽くなり、光によって満たされていくような感覚に溺れていった。


 数分後、知道は目を開けた。すると、見覚えのある景色が目に入った。それはナイトウォーのはじめからを選んだ時に出る画面であった。


〈どうやら無事に来れたようですね。ようこそ異世界の世界へ〉


 相変わらず姿を現さず、頭の中に話しかけてくる説明口調の女の声を聞き、知道はドヤ顔で相手を見下さんばかりに言い放った。


「ふんっ、知ってた」

〈えっ……、何かこいつ気持ち悪い……。ていうか、知ってたとはどういう意味でしょう?〉

「ネットの情報網をなめんじゃねえぞ。何人が異世界に行ったぐらいの情報は上がってるだぞこのクソアマが!」

〈なんでこの人はこんなに偉そうなんだろう……。まあ、とりあえず話を進めましょう。私の名前はラルハート・キュリアと言います。キュリと読んでください〉

「最初っから慣れなれしいな」

〈そしてこれから異世界への設定を登録していくわけですが〉

「見事なスルースキルを持ってるなこいつ」


〈まずはこのゲーム上での名前と年齢、職業や身長等を入れていただきます。当然、3次元での本当のスペックを書く必要はありません。名前からどうぞ〉


 知道は、カーソルを合わせながら名前を入力していった。


「ほいっ、出来たぞ」

〈はい、それでは『デビルさかぐち』でよろしいですか?〉

「よろしい」

〈……プッ。では入力しました〉

「鼻で笑われるのはマジでトラウマだからやめろ」


 キュリと名乗る女性はコホンと一つ咳をした。


〈それでは年齢はいくつですか?〉

「ハンカ〇世代だ。名も無き〇ンカチ世代だ。」

〈23ですね。それでは、身長を入れてください〉

「168ぐらいで良いかな」

〈おや、少し低めに設定するのですね。男の人はだいたいが高めに設定している人が多いのですが〉

「分かってねえな。今の時代はちょっと低めぐらいの方がモテるんだよ。これをジャニーズの法則と言う」

〈あの人達は背が低いからモテてるわけでは無い気がしますが……〉


 そして順調に、その他の細かい設定を入れていった。


〈はい、それでは最後から二番目の設定です。職業は何にしますか?〉

「そんなもん剣士に決まってるだろ。俺には剣士以外見えねえし、聞こえねえわ」

〈他には銃使いや弓使い、黒魔法使いや白魔法使い、槍もありますし〉

「あーー、あーーーー、聞こえない、あーー、あーーーー」

〈子供ですかあなたは……。というか、剣士にこだわる理由とかあるのですか?〉

「まあ特に凝り固まったような理由は無いが、あるとすれば無難に強いからだな。3次元で個別武器最強といったら間違いなく銃だが、その影響もあってか2次元になると銃より剣の方が強いっていう設定が多い。よってどのゲームでも剣っていったらバランスが良くて強い確率が高いんだよ」

〈2次元は魔法使いも強い気がしますね〉

「魔法使いとか、MPに媚売りながら暮らしていく生活なんてまっぴらだね俺は」

〈なんかカッコいいこと言ってますが、ようはMP管理がめんどくさいという事ですね〉

「まあ、まだ黒魔法使いはまだ良い、まだ許せる。だが白魔法使い、テメェは駄目だ。シコシコと後ろでブツブツ唱えながら、勝ったときには前衛でボロボロになった奴と同じ報酬を貰うってのはおかしいだろ。そんなもん女がやれ女が」

〈女は後方支援をやれと?〉


 キュリは少し不機嫌そうに言った。


「ああ、そうだ。女が戦うってのがゲームだけでなく漫画やアニメでも増えたけど、俺は嫌だね。戦いの美学っていったら男と男が鍛え抜いた裸と裸をぶつけ合ってこそだと思うわけよ」

〈なんで裸なんですかね……。でも、女剣士ってかっこ良くないですか?なんか高貴な感じがして〉

「女剣士なんか、同人誌でオーク辺りに捕まって「オ〇〇〇には勝てなかった……。」オチしか思いつかんな」

〈こいつ最低すぎる……。もう設定全部塗り替えて名前チンカスさかぐち、身長213で職業白魔法使いにしてやろうかしら……〉

「あ……ごめんなさい。うそです女剣士大好きですはい。オ〇〇〇にも勝てます」

〈まだ言うかこの男!〉


〈まあ、とりあえず最後にアバターを作りましょう。これはこれから入るオンライン上での顔や服装になります。一度作ったものは変更が出来ないので気をつけてください。時間は30分以内でお願いします〉

「30分過ぎるとどうなるの?」

〈パソコンがフリーズする可能性が〉

「メタ発言やめろ」


 そしてサカグチはアバターの覧をじっと見つめた。


「へえー、結構量あるんだな。パーツパーツも驚くほど上手く出来てる」


 そう言うと、キュリは初めて少し嬉しそうな声を出した。


〈ふふ、ありがとうございます。これは合計1兆通りのアバターは有名ですからね。いや、私もなぜか嬉しいですね〉

「ああ、別にテメーを褒めてるわけじゃないからな」

〈…………………〉


 そしてサカグチは手馴れた感じで顔の選択をしていった。髪は短く切り上げ、眉毛が濃くて目は細くてするどい視線で、軽くアゴヒゲを生やし黒のスーツに身を包んだダンディで少し悪っぽい顔を作り上げた。


〈ちょっとヤ〇ザっぽいですが、かっこいいですね。しかもまだ3分もたっていないです〉

「まあ毎回同じような顔を選んでるからな。このコンセプトは、昔は悪かったけど今は少し余裕が出てきて色気のある感じのオッサンだからな」

〈舘〇ろしみたいな感じですか〉

「つか時間がかなり余ったし、ちょっと他のパーツも見ていって良いか?」

〈ええ、どうぞ〉


 それを聞いて、新たなアバター作りへと取りかかった。

 身長152、髪はピンクで少し長めで右上後頭部にお団子を小さく乗せて、目は大きくて少しウルウル、ほっぺたは常に薄く赤色、クビに大きいなリボンをつけて、少し肩幅の大きな服を着て、大きめのふりふりした大きなスカートを着用。


「なんかノリで作ってたら、めっちゃ可愛いのが出来たな。女言葉で言うと「超きゃわいーい♪」って感じの」

〈確かにかわいいですね。センスありますねサカグチさん〉

「こういうモブで可愛い女キャラでイケメン主人公のパーティに紛れ込んで、ある程度恋愛フラグを立てて隙をついて後ろから「リア充爆死しろ!」って爆弾投げて抹殺するキャラで行こうかな」

〈やめなさい〉

 キュリは呆れるように言った。


「いやしかし、これ結構面白いな」


 そしてまた新たなアバターを作り始めた。身長162、大きめの味気ない丸い帽子、黒く長い髪で背中まで一本のみつあみが伸びている、大きめの反射しない伊達メガネを着用、目はキリっとしているが少し大きめ、首から下は大きめの学者が着るような黒色の服に胸に小さな赤いリボン。


「ちなみにキャラ設定としては頭が良くて、何かを教えるときは指をくるくる回してしまうのがクセな。普段は頭が良くて冷静沈着だが、自分の知らない事になるとかなり動揺してしまう。そしてニヤリと笑いながら主人公の悪態をついてくるちょっとドSな面もある」

〈聞いてない聞いてない〉

「ちなみに俺が好きなタイプでもある」

〈まあ、かわいいキャラではありますね。どこかでそういう人に出会えると良いですね〉

「いや、出会う事は無いだろう」

〈なんでですか?〉

「その子と俺の相性が超絶に悪いらしい。会話が成り立たないと、作者が言ってた」

〈お前こそメタ発言やめろ〉


 身長189、頭はてっぺんがハゲのアフロヘア、、憂いを帯びた涼しい目、ピンク色の眼帯、鍛え抜かれた裸の上半身にうすーい胸毛、下半身フンドシに膝に絆創膏バンソウコウ


「ぷっ。」

〈ぷっ。〉


 二人は少しの間、無言で笑いあった。


「ぷぷっ……こ、これ、これ良くねえか?何か始まった瞬間にゲームクリア出来た気分になれそうだ」

〈ふふっ……いや、むしろ始まった瞬間ゲームオーバーかと……ふふ〉


 二人は大きな声で笑いあった。


「いやー、お前もなかなかやるな」

〈いえいえそちらこそ〉

 

 二人は堅くエアー握手をした。


〈遊ぶのは良いのですが、時間にはお気を付け下さいね〉

「ん?別にまだ半分ぐらい残ってるんじゃね?」

〈いやその、カウントは途中から早く出来る使用になっていまして、サカグチさんが早いうちに作り終えていたので、作動させていました〉

「あとどれぐらい残ってるの?」

〈えっと……あと3秒ぐらいですかね……〉

「え、ちょっ!!!!」


 サカグチの驚きの顔と共に、周辺の景色が真っ黒になった。


「おい、何があったの! 何が起こったの? 何が起ころうとしてるの!」

〈えー、今から異世界の世界へと突入して行くわけですが……、心の準備は出来ていますか?〉

「いや心じゃなくて見た目が出来てないって! いや、ある意味出来すぎてるんだって!」

〈そ、それでは一緒に参りましょうー〉


 キュリは半ばヤケクソ気味に話を進めた。


「キャンセルキャンセルキャンセルキャンセルキャンセルキャンセルトランセルキャンセル!!!」

〈えーと……どうか、世界をお救い下さいね〉

「BBB!! BBBB!!! BBBBB!! BBBBBBBBビービービービー…………」


 魂の叫び虚しく、再びサカグチは光に満たされていった。

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