園芸部のミタコマッタさん 〜私は見た!完璧ヒロインの”隠された一面”〜
「妾の男爵令嬢のくせに生意気なのよ!」
「婚約者のいる男性たちにばかり近づくなんて流石は娼婦の子ってことかしら?」
「常識がないのね」
その声は備品倉庫に向かう途中に聞こえてきた。
私の名前はハイケー・ミタコマッタ。
園芸部に所属するしがない田舎の子爵家の娘。
下町で流行ってる大衆小説の読みすぎで言葉が荒いのが最近の悩みだ。
その日は園芸部の作業中、夏に収穫する予定のトマトが萎びていることに気がついて、肥料を取りに行くところだった。
無視をすればいいものを、ただ事じゃない雰囲気に私はつい現場を覗き込んでしまったんだ。
…それが後にこんなにもめんどくさい事になるなんてこの時はまだ想像もしていなかった。
「そんな…っ私はただ…」
そこにいたのは数人の女子生徒達。
その中の一人が嫌に目を引く。
ヒローニナ男爵令嬢。
今この学園で彼女を知らない人はいないだろう。
まさに"時の人”。
男子生徒の間では可愛いとか天真爛漫とか
女子生徒の間では世間知らずや礼儀知らずなど
良い噂も悪い噂も絶えない人だった。
そしてそれを囲むのは次期王太子妃と言われているアクアージョ公爵令嬢のご友人達。
イジメにも見える問い詰め方は決して褒められたものじゃない。
けれど、彼女たちが指摘しているのは
『婚約者のいる男性に淫らに近寄る者ではない。』
という貴族社会の中で生きる者にとっては至極当然のマナーだった。
しかしヒローニナ男爵令嬢は怯むことも、謝ることもなかった。
それどころか桃色の髪の毛をシャラリと靡かせ、瞳には涙を溜め、庇護欲をそそるような素振りで余計に令嬢達を煽っている。
バシャッ
あまりにも反省を見せないヒローニナ男爵令嬢に対し、怒りの頂点に達した令嬢達の一人が、思わずと言った形で水魔法を放ってしまった。
ポタポタとヒローニナ男爵令嬢の髪からは水滴が滴り落ちていく。
あまりの衝撃的なシーンに思わず息を呑んだ。
まるで本物の下町で流行ってる大衆小説のような展開だった。
このまま殴り合いになったらどうしよう。
ハラハラしながら成り行きを見守っていると、流石にまずいと思ったのか、令嬢達は逃げるように話を切り上げ始めた。
「少しはこれで頭が冷えるんじゃないですの?」
「いい気味ですわ。
これに懲りたらもう二度と殿下たちの前に顔を見せないことね!」
このままじゃ鉢合わせてしまう!
と思った私は咄嗟に近くの備品の入った木箱の影に身を潜めた。
令嬢達が木箱のすぐ横を高笑いしながら通り過ぎていくのを息を殺して見送る。
…間一髪バレなかったようだ。
ところで、ヒローニナ男爵令嬢はどうなった?
あれだけ強く問い詰められて、挙句水までかけられたんじゃ泣いていてもおかしくない。
その場合は慰めるべきなのだろうか?
そんなことを考えて木箱の隙間から様子を伺ってみたら
「うへ…うへへ…原作通りじゃん…」
頬を赤く染め、鼻の下を伸ばして
濡れた体をくねらせている変態がいた。
違う。ヒローニナ男爵令嬢がいた。
そのあまりの気味悪さに鳥肌が立っていく。
どうやら私は今、見てはいけないものを見てしまっているらしい。
「もう少しここにいれば隠れ攻略対象のモブリットが来るはず…キャー!どうしよう!」
1人で興奮して、鼻息を荒くしながら壁をバンバンと叩いている。
あれが、彼女の…本性…?
話に聞いていたヒローニナ男爵令嬢とはあまりにもかけ離れた姿につい目を奪われた。
怖いもの見たさ、とでもいうのだろうか。
観察をするのに五感を研ぎ澄ませていたおかげで後ろからの足音にもすぐに気がつけたのだと思う。
「あ、居たい…っ」
視界の端に映った能天気なその人の腹にラリアットをかまして同じ木箱の影に隠す。
グエッとカエルが潰れたような声が聞こえた。が、そんなこと今はどうでもいい。
「…死にたくなければ大人しくしてください。」
無理に押し込んだせいで木箱がガタリと揺れる。
崩れそうになったそれを咄嗟に手で抑えた。
……セーフ。
まぁ、そのせいで距離が近くなって私の胸には彼の手が当たっているけれど。
「ん?今何か音がした…?
おかしいなー?そろそろ来てもいいのに…」
幸い気づかれずに済んだけど油断はできない。
ヒローニナ男爵令嬢のそんな声を聞きながら私は必死に目の前の彼を隠し続けた。
なぜなら彼こそが先ほど彼女が声に出して呼んでいたモブリットだったからだ。
同じ園芸部員のモブリット・グランド
辺境伯家の嫡男という上位貴族でありながら能天気で軽い性格をしている変人だ。
じゃなきゃ私の毒舌なんて許されるわけがない。
あと、ムカつくほど顔がいいからモテる。
そして今回もまたモテるが故に変なのに目をつけられたのだろう。
「…ハイケーちゃんって意外と…」
「…静かに」
「はいはい」
…そんなことを考えてる場合じゃなかった。
状況は何一つ飲み込めていないと思うけど、やれやれと肩をすくめ、とりあえずは私に身を任せてくれるようだった。
それに安心したのも束の間。
彼は突然目の前にある私の胸を揉みはじめた。
…意味がわからなかった。
事故で手が当たるのは仕方がない。
でもそれを謝るどころか、揉むだなんて信じられない。
こんな時にこの人は何を考えてるの?
思わず大声をあげそうになった瞬間、今度は私が彼に口を塞がれていた。
…もちろん手で。
「もう!いつまで待ってもモブリットこないし!
もしかしてイベント今日じゃなかったのかな?
そろそろ、授業始まっちゃうし、保健室行って服の替え貰ってこないと…」
どれくらいそうしていただろう。
ようやくヒローニナ男爵令嬢はモブリットのことを諦めたらしい。
何やら独り言を呟きながら私達に気づくことなく木箱の横を通り過ぎていった。
まるで令嬢達の事など何もなかったかのように。
足音が充分遠ざかるのを確認して、ようやく口元が解放された。
「っ最低!!」
「いやいや、意味わからないまま付き合ってやったんだからこれくらいのご褒美がないと…」
何がご褒美だ。
私は同じ園芸部のよしみで、あんな変態女に目をつけられたら可哀想だと思って身を張って守ってあげたのに!
「全く…人の気も知らないで…」
「え?何?」
「ムカつくって言ったの。」
可愛くて無邪気で、良くも悪くも貴族っぽくない存在として通っているヒローニナ男爵令嬢
彼女の本性が実は変態でした。なんて…
信じてもらえるとは到底思えないしそれ以上は口を噤む他なかった。
「…はぁ、それでなんのよう?」
「いや、肥料を取りに行くって言っていつまでも帰ってこないから心配して探しにきたんだよ。」
「あ…」
「え?」
「肥料のことすっかり忘れてた。」
「君、今まで何してたの?」
残り少ない昼休みの時間で肥料を撒くのは間に合いそうにない。
トマトには申し訳ないけど放課後まで栄養補給は待ってもらう事にしてモブリットとその場を後にした。
その日のことを見なかった事にして、
忘れてしまえば終わり。
そう思っていたのに現実は決して私を逃してはくれなかった。
なぜかあの事件の翌日から、変態、基ヒローニナ男爵令嬢と鉢合わせることが増えていった。
放課後に忘れ物を取りに行けば、ヒローニナ男爵令嬢が教科書を自分でゴミ箱に捨てている瞬間を見てしまったり…
トイレに行こうと美術室を通り過ぎたら自分で制服に絵の具をこぼしては満足そうにニヤニヤしていたり…
廊下では毎日殿下とすれ違い様にハンカチをわざと落としては、返事も待たずに
「やだ!私ったらドジばっかりで!」とか言って去っていく…
私にはヒローニナ男爵令嬢の考えが全く理解できなかった。
ただ、近づいてはいけない人という事だけは痛いほどにわかった。
どこで引っ掛けたのか、モブリットは謎に彼女から目をつけられている。
だから同じ園芸部として仕方なく、本当に仕方なく守ってあげていた。
ただ、当の本人があまりにも能天気だから隠すのは本当に毎回大変で…
そんな私の努力も苦労も知らない彼はあの変態珍獣に狙われているというのに、いつも頬を赤らめては幸せそうな表情をしていたけど。
彼はもう少し危機感を持ったほうがいいと思う。
そんな忙しい日々の中、学園中を騒がす事件が起きた。
アクアージョ公爵令嬢が自身の婚約者と仲のいいヒローニナ男爵令嬢に嫉妬して階段から突き落として怪我をさせた。らしい。
それが冤罪だと言うことを私だけが知っていた。
だって私はまた見てしまっていたから。
アクアージョ公爵令嬢とすれ違った瞬間、自分で階段から転がり落ちたヒローニナ男爵令嬢を。
階段から突き落とすのはやりすぎだと、アクアージョ公爵令嬢への風当たりが日に日に強くなっていく中、学園は卒業パーティーの日を迎えた。
上級生達が学園を卒業し、社会に踏み出していく。
その門出を祝い、応援する大事なパーティでそれは起こった。
「アクアージョ公爵令嬢!
貴様との婚約をここに破棄する!
ヒローニナ男爵令嬢へ陰湿で卑劣な行為を行う貴様にこの国の王妃は務まらない!」
その言葉に時が止まった。
「まぁ、虐めは良くないよな」
「そんなことをする方だったなんて」
ヒローニナ男爵令嬢の本性を知らない生徒達は、まさかそれらが全て自作自演だなんて思いもしないでそんなことを言う。
大衆の目に晒されたアクアージョ公爵令嬢はそれでも気高くその場に立っていた。
けど、その手が小さく震えていることに気がついたのは、きっと真実を知る私だけだ。
正直、真実を告げることは怖かった。
私の家はしがない子爵家。
王家やそれ以外に睨まれてしまったら一瞬で無くなってしまうだろう。
…でも、それでも
「私は新たにこのヒローニナ男爵令嬢と婚約を結びたいと思う!」
あの変態珍獣がこの国の王妃になるくらいなら晒し首になったほうがマシだと思った。
お父様、お母様、愛犬のジョン。
今頃は何も知らず、実家の庭でのんびり過ごしている頃でしょう。
不敬罪で…死んだらごめんなさい。
心の中で精一杯謝って私は口を開いた。
「意義あり!!!!!!」と
大衆の目がアクアージョ公爵令嬢からギョロリと一斉にこちらを向いた。
初めての経験に恐怖で体が強張るのがわかる。
「このめでたい日に無礼を働くとは何者だ!」
「私は!ハイケー・ミタコマッタです!」
声を上げたのはもう半ば自棄だった。
私が何をしたっていうんだ。
黙っておけば、このまま見て見ぬふりをすればきっとそれなりに幸せに暮らせたはずなのに。
でも私は知ってしまった。見てしまった。
アクアージョ公爵令嬢の目は確かに助けを求めていた。
凛としていてこの国の王妃に誰よりも相応しい人の、そんな姿を見てみぬふりなんてできるわけがない。
あの人は意味のわからない変態珍獣の理不尽に潰されていい人なんかじゃない。
「ミタコマッタってたしか子爵家の?」
「そんな奴がなんのようだ?」
「…こんなの原作になかったけど」
ざわつく生徒達の中で確かに聞こえた呟き。
ふと視線を上げたら壇上のヒローニナ男爵令嬢とバチリと目が合った。
その目はあまりにも冷たい
でも怖気付くわけにはいかなかった。
「私は見ていました!
アクアージョ様はそんなことをしていません!
全てはヒローニナ男爵令嬢の自作自演です!」
「っ…!
あなた、何を言ってるの?
わ、私が自作自演?
自分で教科書を捨てたり、階段から転がり落ちたとでも?」
「はぁ?そんなことをする意味がわからない。
未来の王妃に向かって言いがかりがすぎるぞ。
不敬罪で捉えられたいか?」
子爵家程度じゃ、やっぱり話を聞いてもらうことすらできないのか。
こんなことなら声なんて、上げなければよかった。と一瞬でも思ってしまった。
現実を見ていたのは私だけなのに。
私が言わなきゃ、誰もあの人を救えないのに。
罪悪感と、諦め。
全て、終わった。そう思って目を閉じた。
「…まぁまぁ、殿下、とりあえず彼女の話を聞いて見ましょうよ。」
「…モブリット貴様どういうつもりだ?」
「別に?余興ですよ、余興。」
なんてことないように言っているが一瞬だけモブリットと目があった。
それがどんなに心強かったか。
殿下の友人で辺境伯家の時期当主様の言葉は流石に無視はできないようだ。
今日ほどモブリットを助けていてよかった思ったことはない。
「…モブリットに免じて少しだけ聞いてやる。
あれだけ声を大にして言ったくらいだ。
もちろん証拠はあるんだよな?」
「…魔法の使用を許可いただけますか?」
「なんだ?脅しでもするつもりか?」
「…違います。
我が家秘伝の魔法があるのです。
私が見た過去の映像をそのまま投写する魔法です。
もし一瞬でも攻撃だと認識した場合は即刻私の首をお斬りください」
「…ほう?いいだろう許可する。」
「…ありがとうございます。」
ミタコマッタ家の歴史を遡っていくと、なんの因果か歴代当主達はそれぞれ見てはいけない何かをいつも見てしまっていた。
貴族の不倫や反乱の作戦会議、果ては王家のちょっとやばい事情まで。
これは到底口頭だけでは信じてもらえない事情を伝えるために編み出された魔法らしい。
我が家の由来は、そのまま、見た、困った。
ミタコマッタ家なのである。
そして例に漏れずその血筋を引いている私も今回その因果に巻き込まれていた。
『うへ…うへへ…原作通りじゃん…』
『勿体無いけどこの教科書を捨てたら殿下が助けてくれるのよね』
『これだけ体操服が汚れてたら殿下のジャージを借りて…うふふ…どんな匂いかな…』
『アクアージョ様だ!ちょうどいいじゃん!
一番上からは流石に痛いし2段くらい落ちればいいかな?』
数々の変態珍獣の映像が流れるたび、周囲にどよめきが広がっていく。
あまりの気持ち悪さに何人かの令嬢は気分を害してしまったほどだ。
こんなのはやっぱり普通じゃない。
能天気なモブリットもやっと自身が置かれていた状況を理解したのか青ざめていた。
彼はこれまでの私の頑張りにもっと感謝するべきだと思うんだ。
「ちょっと!こんな展開聞いてないわよ!?
というかあなた、見ていたの!?」
「見ていたのって…
ヒローニナ、それはどういう…」
「あ…」
「この映像は事実、なのか?」
「嘘です!言いがかりです殿下!
私はこんなことしません!」
ヒローニナ男爵令嬢は必死に取り繕っていた。
でもこの魔法が、嘘やでっちあげではないことなんて他の映像も見せればすぐにわかる。
全ては彼女自身が行ってきたこと。
ヒローニナ男爵令嬢は次々流れる証拠にやがては言い訳すらできなくなっていった。
そして周囲からの視線に耐えられなくなったのか、全ての映像が終わる頃にはペタンと力が抜けたかのようにその場に座り込んでいた。
「殿下。」
「…なんだ」
「一配下として陳情致します。
どうか、このような変態珍獣をこの国の王妃に迎えないでください。
民が不安になるようなことをしないでください。
アクアージョ様は無実です。
アクアージョ様は私のような子爵家のことにも気を配ってくださるような優しい方なのです。
愛情や恋情のお気持ちが無いのは仕方のないことかも知れませんが、どうか真実を見て正しいご判断をしてくださることを望みます。」
深々と頭を下げた。
私にできることは全てやり遂げた。
これでも尚、私を斬り捨てヒローニナ男爵令嬢を選ぶというならこの国に未来はないのかもしれない。
そんな思いで私は将来この国を背負うだろう殿下に視線を向けた。
「……そう、だな
先程の件はもう一度精査を…」
「っふざけるな!」
「ヒローニナ?」
「モブ如きが…」
俯くヒローニナ男爵令嬢の顔は見えなかった。
そして私を指差した。
「アンタのせいで台無しよ。」
顕になった顔は表情が抜け落ちていた。
隣にいる殿下を振り払ってゆらりゆらりとこちらに近づいてくる。
周囲もその異様さに一斉に後退りして自然と私までの道が開けていった。
「アンタを殺して、それでリセットすれば…」
「…っ」
「…ぜーんぶ元通り」
何を言ってるのか理解できない。
無表情のままケラケラと笑う姿はまさしく異常だった。
狂っていた。恐怖で腰が抜ける。
逃げなきゃとズルズル後退ろうとしても上手く力が入らなかった。
ヒローニナ男爵令嬢が目前に迫ってくる。
そして自身の髪を止めていたバレッタを外すと彼女はその尖った先端をこちらに向け、ゆっくりと振り上げた。
もうだめだ!本当に!
そう思ってギュッと目を瞑ったところで嗅ぎ慣れた花の甘い香りに包まれる。
「…っ大丈夫?」
そっと目を開けると目の前には心配そうにこちらを覗き込みながら片手でバレッタを受け止めるモブリットがいた。
喉の奥が詰まったように声が出ない。
なんとか頷くと、彼はホッと息を吐いた。
「モブリット!私を助けに来てくれたのね!」
「……はぁ?あのさ、君、誰?
俺の大切なハイケーちゃんに何してくれてんの?」
静かな、だけど確かにその声は怒りを含んでいた。
「は?モブリットは攻略対象で、ヒロインの私に優しくしないとダメでしょ?
婚約者とかそんなのもいないはずでしょ?
何かのバグ?そうよ、こんな設定知らない、ありえない…これは何かの間違いよ全部…全部…」
髪をかき乱してぶつぶつ呟き始める姿は最早同じ人間には見えなかった。
ギュッとモブリットの袖を掴む手に力が籠る。
「…ハイケーちゃん怖い?コイツ殺す?」
「待て待て待て」
「邪魔しないでくれます?殿下。」
「…衛兵!今すぐヒローニナ男爵令嬢をこの場から連れ出せ!」
「は?ちょっと!離して!
私はこの世界のヒロインなのよ!?
ゲーム通りに進めたのになんで!?
バッドエンド!?
リセットボタンは!?嫌、やめて!!」
羽交締めされズルズルと引き摺られながらヒローニナ男爵令嬢は会場から連れ出されて行った。
理解することができない叫びを上げる彼女に同情するものはこの場には誰一人居ない。
そして、ようやく静かになった。
「…ミタコマッタ嬢、勇気を持って伝えてくれたことにまずは感謝を。」
「…はい。」
「…俺はもう王位を継ぐことは叶わないかもしれないがこの件は最後までしっかり調査をし、二度と、このようなことがないようにヒローニナには厳罰を下すと約束する。」
そう言って笑う殿下は憑き物が落ちたみたいだった。
「ミタコマッタさん、助けてくれてありがとう」
そう言って笑うアクアージョ様はお綺麗だった。
やっぱり私はあの変態珍獣ではなくこの2人が並んだ未来の方が好きだと思った。
「アクアージョ…すまなかった。」
「…許すことはできませんが、この件については家同士でしっかり話し合いをしましょう。
ヒローニナ男爵令嬢はなにか魅了のような物を使って居たのかもしれません。」
「そう、だな…」
「皆様、卒業パーティという華やかな場での失態本当に申し訳ありませんでした。」
「パーティは仕切り直そう」
その言葉にゆっくりと会場の雰囲気が明るいものへ戻っていく。
オーケストラもワルツを奏で始めた。
「私達がいたら場を乱してしまうから」そう言って殿下とアクアージョ様は共に会場を後にして行った。
おそらくはこの後裏では色々な手続きや話し合いなどが行われるのだろう。
その結果がどうであれ、少なくとも変態珍獣がこの国の王妃になるという最悪なエンディングは回避できた。
「よかった…本当に…」
「まったく、無茶をするね。ヒヤヒヤした。」
「モブリット、助けてくれてありがとう。」
「お礼は胸揉ませてくれたらそれでいいよ?」
「ふざけないで。」
「…じゃあファーストダンスは俺と踊って?」
「…それくらいなら…まぁ…」
「セカンドダンスも、その先も」
「え?」
セカンドダンス以上を踊るのは婚約者や家族のみ、それ以外はマナー違反。
それは貴族なら誰しもが知るところ。
頭沸いたのか?と思って見上げたらこちらを見るモブリットの目があまりにも優しかったから思わずドギマギしてしまった。
その言葉の意味が、わかってしまったから。
「結婚式はいつがいい?」
「…気が早い。」
「否定はしないんだ?」
「うるさい。」
後にヒローニナ男爵令嬢は魅了の魔法を王族に使い国を混乱させたとして極刑が下された。
殿下は王位を献上、臣下に降った。
第二王子がこの国の新しい王太子となり、
その隣にはアクアージョ様がいた。
やっぱりアクアージョ様以外王妃務まらないんだなって思った。
そして私は、功績が認められ実家が子爵家から伯爵家に。
釣り合いが取れたからと意気揚々とモブリットが我が家に婚約を打診にきて、そして私はとんとん拍子に辺境伯家に嫁ぐことが決まった。
「モブリット、そこの肥料取って」
「…何が悲しくて可愛い奥さんの胸じゃなくて土を揉まなきゃならないんだよ。」
「いいから早く。」
「はいはい…。」
全てが丸く収まった。
時折異常な胸への執着を見せる旦那をあしらいながら、私は訪れた平和を噛み締めて新しい家の畑を耕している。
もうすぐ茄子が収穫できそうだ。
これほど幸せなことはないだろう。
めでたしめでたし
最後までお読みいただきありがとうございました。
タイトルの通り、家政婦は見た!のような空気感を少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。
感想やリアクション、誤字脱字報告などをいただけると創作の励みになります。
それでは、また次回のお話でお会いしましょう。




