第9話 休暇のはじまり
ラボでも、エリーの存在はごく一部のスタッフしか知らない機密事項だった。生守と連絡を取り合い、人目を避けて専用フロアへ向かう。
白を基調とした通路は無機質で、足音だけが響いていた。扉を開けると、モニターの光が静かに揺れている。生守が顔を上げた。
「おお、エリー! 見た目は元気そうだな。」
「お久しぶりです、陽介さん。」
二人が笑顔を交わす。短い時間だったが、空気が少し和らいだ。
「メインの部品交換をしようと海外に連絡を取った。でも、早くても部品の到着は……五日後だ。」
「そんなにかかるんですか?」
不服そうな折原の声に、生守が軽く肩をすくめる。
「そう! だから五日間、休み!エリーも、折原も、俺も!」
「え?」
思わず間の抜けた声を出す折原に、生守は笑って言った。
「たまにはいいだろ。俺は久々に嫁さんと息子に会ってくる。奥さんたちにもエリーのことは機密事項だから連れてけないな。」
コーヒーを一口すすり、生守は折原に視線を向けた。
その視線を受け、折原は思った。
――いつも通りか……。
「……一緒にマンションに戻りますか。」
エリーは立ち上がり、折原に近づいて腕をつかんだ。
「そうする! 収録も何もないなら、私行ってみたいところがあるの!アージェル連れてって!」
子どもがおねだりするような、恋人が甘えるときのような、そんな声だった。
生守はニヤリと笑い、再度折原へ視線を送る。
「よろしく頼んだよ、折原君」
「……はい」
――これは休暇なのか。
複雑な気持ちだったが、嫌ではなかった。




