第7話 光の陰り
翌朝、研究所の一角。折原はデータモニターを見つめたまま、生守に問いかけた。
「……生守さんは、これまで多くのアンドロイド開発に関わってきたと思いますが、特別な感情を抱いたことは、ないんですか?」
生守はコーヒーをすすり、口元を緩めた。
「感情? もちろんあるさ。」
棚の上には、古い小型ロボットがいくつか並んでいる。丸い頭、幼いフォルム。それは、かつて彼が作った"お世話ロボ"や"子ども型"の試作機だった。
「どれも大切な存在だよ。俺にとっては、全部"自分の子ども"みたいなもんだ。」
生守は言葉を切り、少しだけ柔らかく笑った。
「今は……生まれたばかりのエリーが、いちばん可愛いかな。君も、そうじゃないか?」
「……そうですね。」
折原は短く答えた。その声には、何かを抑え込むような硬さがあった。生守は気づいていたのかもしれないが、何も言わなかった。
エリーの舞台は、次々と決まっていった。最初は新人たちと並ぶ小さな音楽祭。次に、毎年話題になる大型フェス。やがて、単独ライブ。そのチケットは発売直後に完売し、会場は少しずつ大きくなっていった。
単独ライブの回数を重ねるごとに、エリーの人気は急上昇していった。その笑顔はSNSでも拡散され、"希望のアイドル"と呼ばれるようになった。
だが――その頃から、折原は異変に気づいていた。
ライブの後、控室に戻るエリーの足取りが少しずつ重くなっていく。時折、言葉の途中で一瞬止まり、目を閉じたまま動かなくなる。
「エリー?」
声をかけると、彼女はハッと我に返るように微笑む。
「ごめん。ちょっと……頭が重くて。」
まるで立ちくらみを起こした人間のような仕草。だが、折原には分かっていた。これは身体の不調ではない。
――感情処理が、追いついていない。
観客が増えるほど、エリーは多くの感情を受け取り、変換して光にする。その負荷が、少しずつ彼女を蝕んでいた。




