第6話 待つ人がいるという事
生守とエリーの資料を見直しをしていたら気づいたら20時を過ぎていた。
研究所から今の家までは一時間近くかかる。
帰り支度を始めながらスマホを開くと、エリーからのメッセージが並んでいた。
「まだ帰ってこないの?」
「何時に帰ってくる?」
「おなかすいたー!」
彼女からのメッセージが折原の心をあたためた。
研究所の入口の隅に立ち、スマホを操作する。
「21時過ぎに帰ります。」
――誰かに待たれているのは、悪くないですね。
エリーはこのメッセージを見てどんな表情をするのだろうか。
折原は脳内で彼女の笑顔を想像していた。
エリーにメッセージを送っている時の自分の表情を、彼は見る事が出来なかった。
ビルとビルの間から、金色の月が折原を優しく照らしていた。
「ただいま戻りました。」
エリーは22時過ぎに毎日配信をしていた。
21時30分過ぎ、エリーは"エリーの部屋"にいるだろうと予測していた。
予想通り、"エリーの部屋"に彼女はいた。
「アージェル遅いー。」
「ごめんなさい。ごはん食べましたか?」
「クッキー食べてた。」
「…クッキーですか…。パスタを買ってきましたが食べますか?」
「食べる!!」
エリーはパスタはトマト系を好んでいたので、トマトソース系と自分用にペペロンチーノを買った。
先にエリー用のトマトソースのパスタを温めた。
温めている間に、ポットでお湯を沸かしてスープの準備をした。
「あ!チョコケーキ!!」
「後で食べましょう。」
彼女を待たせてしまった罪悪感で、チョコケーキを買ってきた。
パスタを2つ並べ、スープも準備した。
配信まで、あと15分もない。
「ちょっとくらい遅れてもいいよね」
「僕は問題ないと思いますが…」
急いでパスタを食べ終えたエリーが頬を膨らませた。
「チョコケーキ食べる時間がなーい」
ふくらませた頬のまま、エリーは小さく足を揺らしていた。
怒っているのか拗ねているのか……その境界が愛らしい。
「残しておきますから。配信してきてください」
彼女の表情の変化を楽しむように折原は笑った。
「いってきます!」
夜の部屋に優しい空気が満ちていた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
もしこの物語を気に入っていただけたなら、
世界のはじまりを描いた神話にも、少しだけ触れてみてください。
本作は、拙作「二つの月の神話」の設定をもとに紡いでいます。
誕生を司る金の月の女神、
そして終わりを司る銀の月の神。
ふたりの物語は、
この世界の“祈り”と“終わり”の原型でもあります。
全5話、2,659文字の短い神話です。
物語の余韻のまま、静かに読める長さになっていますので、
よろしければぜひ、あわせてお楽しみください。




