第23話 エリーの涙
ラボに着き、ひとまずエリーをカプセルに寝かせた。
エリーに会話が聞こえないように、隣の部屋にうつった。
「おそらく、中枢部を中心に腐食が進んでるんだろう」
生守が冷静に推論をいった。
「そうですね。」
折原もその推論に同意した。
「まだ、会話ができているということは中枢部が活きている証拠だ。このままだと中枢部ごと腐食する」
「そうですね。」
「中枢部は壊したくない、エリーを停止するぞ」
――そうなんですけど。
やることはわかっている、生守の考えが正しいのもわかっている。だが、折原の感情がついていかなかった。
「中枢部が腐食するのも時間の問題だ。」
――そうなんですけど。
折原は、下を向き両手を強く握りしめていた。
「君がやらないなら、俺がやる。」
折原の肩を叩き、生守はエリーのカプセルがある部屋に入って行った。折原もおいていかれないように、続いた。
「エリー、調子はどうだ?」
生守は優しい口調で問う。
「陽介さん。私、もうダメだね。」
横たわっていたエリーが生守の方に視線を向けた。
エリーの瞳から涙がこぼれていた。
生守は近くの椅子にすわり、エリーと視線を合わせた。
「そうだな。君の核が壊れる前に、スリープさせたいと思ってる。何か伝えておきたいことあるか?」
「3年稼働できなかったのが残念かな。」
「そうか。」
「……アージェル。」
名前を呼ばれ、エリーのすぐ近くまでよった。生守は椅子から立ち上がり、折原に席を譲った。
「エリー、どうしました!?」
「アージェル。私、幸せだったよ。一緒にコーヒー飲んで、一緒に本を読んで、一緒に笑えて、一緒に過ごせて。」
エリーの瞳から次々と涙の粒が流れていた。
ライブでも打ち上げでも、涙を流してなかったエリーが泣いていた。
「アージェルと一緒に過ごせて、私幸せだった。本当だよ」
「…はい、僕もエリーと過ごす時間は幸せでした。」
「ねえ、アージェル」
エリーは、折原の手をそっと取った。
「アージェルの手は、いつも暖かかった。」
エリーはそう言って、少しだけ微笑んだ。
「泣かないで……」
エリーはそっと手を伸ばし、折原の髪をなでた。
エリーは次に指で折原の涙をすくった。折原はその手を両手でつつみ指をからませた。
「アージェルの事、忘れない。忘れないから。だから泣かないで」
涙をこらえられずにいる折原をエリーは優しく見つめていた。生守も見守っていたが折原の肩を叩き別れの時を告げた。
「エリー、また会おうな。」
「陽介さんもありがとう。アージェルのこと、よろしくね」
「任せておけ」
生守はエリーの髪を数回なでた。
エリーは、最後の時を悟ったように目を閉じる。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
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本作は、拙作「二つの月の神話」の設定をもとに紡いでいます。
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全5話、2,659文字の短い神話です。
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