第21話 ツェルバへの歌
エリーが再びステージにあらわれると、今までにない歓声がわきおこった。
"エリー"
"やめないで!"
"歌って!"
人々の様々な思いが、エリーに届けられる。
「ありがとう」
"エリー大好き!"
"こちらこそ、ありがとう"
「私の名前は、金の月エリノッティからつけられました。」
"やっぱり!"
"知ってるー"
エリーはかえってくる反響に驚いたように笑う。
「アルバムでも、写真集でも、このライブでも2つの月の神話をいれたくて初めてスタッフに自分の意見を伝えました。」
ステージの中央で静かに話すエリーは、先ほどまでの疲労を感じさせていなかった。
「このシルバーの衣装は、私の中ではウエディングドレスをモチーフにしてます。一度来てみたかった。」
少し照れるように、言葉尻が小さくなり、照れたように笑った。
"かわいいー"
"似合ってる"
「エリノッティは銀の月ツェルバを憎んでて、ツェルバはそれが辛くて泣いていなくなってしまう。ってのが一般的なんだけど」
「図書館で、神話を読み漁ってたら、少ないけどその続きの物語がのこってました。」
「ツェルバはエリノッティを愛してて、エリノッティもツェルバを愛してたんだって。」
会場がざわめきはじめる。
ステージの袖で、折原もエリーの言葉に戸惑っていた。
――そんな続きがあったのか……。
「最後の曲は、エリノッティから銀の月ツェルバにあてたラブソングです。聞いてください……」
ステージスクリーンには、夜空の映像が映し出される。金色の月と、銀色の月が、静かに並んでいた。
ゆったりとしたテンポに合わせて、ペンライトがゆっくりと左右にゆれていた。
折原は、彼女が歌っている間、涙が止まらなかった。
ステージ裏のスタッフたちは
「これってツェルバへの歌っていうか…」
「個人的すぎない?」
と、折原を遠巻きにみて小声で話していたが、折原の耳には入らなかった。
エリーが歌っている間、折原の頭をよぎったのはエリーとの静かな日常だった。
初めてのクリスマス。毎日一緒の朝食。ライブ配信やイベントの反省会。移動中の雑談。
はじめから終わりがあると知っていたが、この日々はもう続かないのかもしれない。
そう思うと涙が出ていた。
何事もなく、アンコールは終えた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
もしこの物語を気に入っていただけたなら、
世界のはじまりを描いた神話にも、少しだけ触れてみてください。
本作は、拙作「二つの月の神話」の設定をもとに紡いでいます。
誕生を司る金の月の女神、
そして終わりを司る銀の月の神。
ふたりの物語は、
この世界の“祈り”と“終わり”の原型でもあります。
全5話、2,659文字の短い神話です。
物語の余韻のまま、静かに読める長さになっていますので、
よろしければぜひ、あわせてお楽しみください。




