第11話 初めての朝食
翌日。
折原が目を覚ましたのは昼の12時を過ぎていた。
ベッド横の時計の数字を見た瞬間、彼は慌てて飛び起きた。
そして、昨日の服のまま寝てしまったことに気づく。
寝室からでてリビングに移動すると、エリーが膝を抱えてソファに座っていた。
「アージェル、おはよう!」
「……おはようございます。寝すぎてしまいました。」
折原は申し訳なさそうに髪を整えるように頭を撫でた。
「シャワー浴びてきますね。」
折原がバスルームへ向かうと同時に、エリーも動き始めた。
今日は、折原に初めての朝食(正確には昼食だが)を作ると決めていた。
冷蔵庫からタマゴとウインナー、サラダを取り出し、トーストの準備とコーヒーもセットする。
しかし、初めての台所作業。いつも近くで見ているだけだった。
――目玉焼き、つぶれちゃった。
皿に置いた目玉焼きは、見事に形が崩れていた。トースターの"チン"という音が鳴った瞬間、折原がバスルームから戻ってきた。
見慣れない光景に、彼は固まった。
「……どうしたんですか?」
「アージェルと一緒にご飯食べようと思って作ったの……」
目玉焼きの失敗が気まずいのか、視線を合わせられないエリー。
「そうですか。」
予想外に柔らかい声で返され、エリーは驚いて顔を上げた。
――……アージェル、優しい顔してる。目玉焼き失敗したのに。
「運びましょうか。」
二人で料理とトースト、コーヒーを運び、席につく。
「いただきます。」は、気づけばいつも二人同時に言えるようになっていた。
「アージェルは今日、何したい?今度はアージェルがやりたいことやろ?」
「……そうですね。」
折原はふと窓の外を見る。曇り空で、雨が降りそうだった。
「久しぶりに本が読みたいですね。」
「何を読むの?」
「特に決めてはいませんが……図書館に行こうかと。」
不格好な目玉焼きをフォークでつつきながら、折原はふっと笑う。
「エリーは留守番していていいですよ。雨も降りそうですし。」
目玉焼きは、見た目は悪くても味は目玉焼きだった。
「私も行きたい!」
「……わかりました。ご飯を食べたら出かけましょう。」
折原の笑顔はいつもより柔らかいように見えた。
エリーは、不思議な感覚を覚えていた。心地よくて、胸の奥だけが静かに温かい。
彼女にとって初めての感覚だった。




