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【短編小説】ROSE陸奥

掲載日:2025/12/16

「判定の結果2-1で勝者、ローズ陸奥」

 レフェリーが掴んで挙げたきみの腕が光り輝いて見えたのは気のせいじゃないと思う。

 きっと油のせいだ。

 1R120秒を闘いぬいて僅差の判定勝ち。

 KOなんてのは程遠いギリギリの勝利。

 砂色をした君の肌は、油ボウズと言うよりは砂ぼうずだ。

 ヘッドギアの奥で照れくさそう笑う顔が可愛らしく見える。

 昨日までは目にあんな生気が無かったのにね。

 思い出すだけで愛おしさが込み上げてくるし、あの匂いも甦ってくる。

 さっき、リングに向かう長い廊下で何故だか急にきみは立ち止まって、振り向きざまにわたしに拳を見せて寂しそうに笑った、あの顔も。


 減量苦、と言えば恰好が付くのだろうけれどそれは結局、勝つ為に弱くなると言う矛盾に向かって緩慢な自殺に似た行為を繰り返す事なんだと分かった。

 それはきっと陸奥くん本人もそうだ。

 少しでも有利な条件を得て勝つ為、ルールと契約に服従して本能に逆らう。

 キックボクシングで言えばリーチと言う優位性の為に、健康体重を通り越した体形に落とし込む作業。

 修行や苦行を越えた何か。




「体重が減らない」

 一日に何度も体重系に乗っては走ったり縄跳びをする君をずっと見ていた。

 カロリー計算をして食べるほんの少しの食事はとても貧相だった。

 だから私は考えた。

 いつか二人で食べたバラむつを思い出した。

 テーブルの大皿にバラむつをたくさん盛って出すと、きみは少し戸惑った顔をした。

「吐き戻すのは体力を使うけれど、勝手に出ていく分には疲れない」

 そう説明すると、きみはこくんと頷いて一枚のお刺身を食べた。

「これなら食べられる。そうでしょう?」

 きみは弱々しく頷いた。



 

 きっと久しぶりの塩分と油分。それでタガが外れたように、一気にバラむつを食べ始めた。

 あまりにも嬉しそうに食べるからわたしも嬉しくなっちゃって、凄く幸せな気分だった。

 そして食べ終わった食事を肛門からジェット噴射したきみは抜け殻みたいになった。

 そこからがわたしの本番だった。

 軽くなった陸奥くんの胸部を開いて単気筒2ストロークエンジンを押し込む。燃費は落ちるが1R120秒なら保つだろう。

 関節各部の金属パーツはシリコン製のものに換装した。これで軽量化できる。

 腕の骨部はスライドレールを採用。これでリーチが伸びる。だがやり過ぎるとバレる。皮膚の余裕からいっても数センチが限度だ。

 脳味噌のミトコンドリアも最新のものを注入した。これで演算処理も向上する。


 かくして最強になったローズ陸奥。

 だけどわたしは知らなかった。事故でキンタマを蹴らないようにファウルカップをつけるなんて。

 それでは股間に取り付けたヒートシンクが機能しなくなる。

「ごめんね」

 わたしの呟きは聞こえないだろう。

 陸奥くんはリングを降りる前にガタガタと震え始めた。

「あぁ……」

 陸奥くんは熱ダレすると機能を停止させた。

 そしてムエタイパンツの隙間からぼたぼたとバラむつを撒き散らすと、それはやがて巨大な人型になり陸奥くんを取り込んだ。

「神……」

 わたしの恍惚。

 陸奥くんはどんどんバラむつを排出してどんどん大きくなった。

 そしてゴールドジムサウス東京ANNEXを突き破ると、大田区に降臨する巨大なアンドロイド観音と化した。


 わたしは陸奥くんの排出するバラむつを避けながら空を見上げた。

 陸奥くんは大田区を蹂躙する。

 今ごろ首相官邸では「大田くん」などと呼ばれているだろう。

 陸奥くんは肛門からバラむつを噴射しながら咆哮を上げて歩き回る。

「良かったね」

 もう我慢しなくていいんだよ。

 何の事か分からないと思うけどね。

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