第8章「薔薇の密室とフェレットの目」
第8章「薔薇の密室とフェレットの目」(オリバー視点)
空調の効いた酒場の一角に、マハラジャの部下がいた。ハエ型ドローンが撮影した動画を俺は、見せて貰ったんだ。
スーツ姿で、一切無駄のない動き。その人の目線の先に現れたのが――バクスターだった。
「gifted学園の薔薇が欲しい」と言い出したそうだ。
赤く見えるが、光を当てると青く輝く“蒼炎の薔薇”。貴族の間で珍重されてるあの品種。
盗む気らしい。しかも、買い手までついてるって話だった。
録音はマハラジャの部下が持ち帰り、すぐに俺の端末へ転送された。
「……またバクスターか。あいつ、学ばないな」
俺は溜息まじりに呟きながら、フェイ太郎を膝に乗せた。
「フェイ太郎。温室の監視、頼んだぞ。“掘っちゃダメ”ルールは厳守な」
「本能には逆らえないんだけどね……」と文句を言いつつ、奴は監視モードに切り替えた。
小型センサーモジュールが起動する音が、静かに響く。
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数日後、夜中の温室で事件が起きた。……これは後からフェイ太郎に見せて貰った話だ。
バクスターが“蒼炎の薔薇”を盗もうとした瞬間、何かの気配に気づいたらしい。
暗闇の中、動いたのは――フェイ太郎。
「ネズミか」と油断したバクスターの背後で、フェイ太郎が小さく鳴いて合図した。
天井からドローンが複数起動し、バクスターに攻撃した。バクスターはその場で気絶したらしい。
その映像も、しっかり録画されていた。
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それからの展開は早かった。
FBIが動き出し、バクスターは盗品の不法取引の容疑で逮捕。
しかも押収された保管庫からは、母・ヘラの遺品と一致する装飾品が見つかった。
血痕付きだった。DNA照合の結果は――母のもの。
……言葉にならなかった。
さらに仲間たちが芋づる式に逮捕され、学園の地下にまで続く武器庫まで発見された。
ニュースでは「国際規模の武器密売グループの摘発」として報道されたけど、
俺にとっては、母の魂にようやく光が当たった瞬間だった。
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その夜、マハラジャに通信を繋いだ。
「……ありがとう。助かったよ」
「気にすんな。これで貸し借りなしだな?」
「そういうことにしておこう」
端末の向こうで、あいつが笑ってる気配がした。
「なあ、オリバー。お前、うちの部署に来ないか? お前の能力があれば、うちは百人力だ」
「……うーん。俺、誰かに縛られるの、苦手なんだ」
「知ってるよ。けど気が向いたら、いつでも相談に乗るぜ、ジョーンズ」
「その時は、また派手にいこうぜ」
俺も、思わず笑ってた。
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事件が片付いて、gifted学園は一時的に平穏を取り戻した。
……が、フェイ太郎はというと――
またケイティの鉢植えを掘っていた。
「この悪魔ーっ!!」
中庭にケイティの怒号が響く。
事情を知らない誰かが「ヒーローなのに……」って呟いたらしい。
だが、あいつは平然と答えた。
「だって本能だもん……」
……まぁ、あいつらしい。
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こうして、ひとつの事件は終わった。
でも、俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ。
フェレット、薔薇、監督官、そして――母の遺志。
それら全部を背負って、俺はまだこの学園にいる。
“gifted”ってのが、“選ばれし者”を意味するのなら――
きっと俺たちは、もう逃げられないのだろう。
だとしても、俺は最後までやりきる。
オリバージョーンズの冒険は、まだ――序章にすぎない。
第8章・了