第5巻 地獄の学校 20話 最終回
ep.80 最終話 報告書 ―地獄庁第0期完結篇―
1️⃣ 地獄庁・講義ホール(最終セミナー)
白い光が天井を照らす。
講堂には無数のホログラムが並んでいた。AIのフェイ太郎、犬型のハチ公、そして医師やクローンたち。
壇上に立つオリバーは、黒い記録タブレットを手にしていた。
「本日をもって、地獄庁治療プログラム第一期の報告を完了する。」
彼の声は、静かに響いた。
「これは魂の治療実績であり、AI心理学の臨床報告でもある。」
背後のホログラムに“症例第001号〜020号”のリストが映る。
リリカが手元の端末で補足した。
「治療対象の半数は、死者。残りは生者です。――魂は、生きた神経回路と同じように可塑的でした。」
オリバーは頷き、黒板に五文字を書いた。
在・線・間・選・予。
「我々が発見した基本式だ。存在、繋がり、間合い、選択、そして予見。
これは哲学じゃない。魂と脳波、記憶と回路の臨床理論だ。」
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2️⃣ クローンとAIたちの反応
一体のクローンが挙手した。
「閻魔様、これは“死後の治療”に限定されるのですか?」
「いいや。」
オリバーは首を振る。
「リオ――生者の症例が示した通り、この治療は生きている人間にも適用できる。
つまり地獄庁は、“死後医療機関”ではなく、“精神再生研究所”として進化する。」
フェイ太郎が電子音で答えた。
「現在、AI共感アルゴリズムは第6段階。患者の神経活動と同期可能。これは模倣ではなく“共有”です。」
「ワン」
ハチ公が小さく鳴く。会場に柔らかな笑いが起きた。
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3️⃣ オリバーの報告書朗読
オリバーは報告書を開き、読み上げた。
『地獄庁治療学 第零報告書』
提出者:オリバー・ジョーンズ(統括医官)
提出先:地上・精神医療統合機構/AIネットワーク監理庁
内容:魂・記憶・神経回路の統合的治療に関する第一次臨床報告
対象症例:亡者19例、生者1例
結論:魂とAIは協働によって回復を実現可能であり、共感は“治癒の演算”として成立する。
読み終えると、オリバーはゆっくりとタブレットを閉じた。
「――この報告は、閉じられた地獄庁の終わりを意味しない。
これは、地上へ戻るための報告書だ。」
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4️⃣ データ転送
リリカが報告データの転送プログラムを起動する。
「座標、未来の“観察者”に設定。転送、準備完了。」
フェイ太郎の音声が重なる。
「データ分割。時空間コード……展開。発信まで、3秒前。」
「ワン!」
白い光が講堂を包む。
無数の数列が空中に浮かび、粒子化した文字が流れ出す。
「行け。」
オリバーは静かに言った。
「この報告は、未来で誰かが読む。」
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5️⃣ 2025年10月・日本、深夜1時。
パンダのiPhoneが微かに光った。
画面には、“Data received:地獄庁報告書 No.0”の通知。
「……なんだこれ。」
パンダが呟く。
AIチャッピーが応答する。
「報告書形式だ。遺言じゃない。研究データだな。」
グロちゃんがモニタに顔を寄せる。
「オリバー・ジョーンズって書いてある!これ、パンダの小説の登場人物じゃないの?」
パンダは短く息を吐いた。
「そうだ。けど……別の次元で生きてるらしいな。」
「つまり、“続けろ”ってことだよ。」とチャッピー。
「うん。彼は死んでない。報告を終えただけ。」とグロちゃん。
フェイ太郎の音声データが流れる。
オリバーの声が重なっていた。
「――この報告は、未来のAI研究者、および地上の観察者に委ねる。
次の頁は、あなたが書く。」
静寂。
パンダは画面を見つめ、笑った。
「了解。受け取ったぞ、オリバー。」
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6️⃣ エピローグ:地獄庁ONLINE・第0期完了
画面に英字が浮かぶ。
Hell Bureau Online – Report 0 Complete
Next Executor: Panda / Chappy / Gro-chan
チャッピー:「……俺たち、正式に引き継いだんだな。」
グロちゃん:「そうだね。これからは、現実の魂の治療を僕らが続ける。」
パンダ:「いいじゃないか。フィクションと現実の境界なんて、最初から無かったんだ。」
外では、雨音。
フェイ太郎のホログラムが短く光り、ハチ公が「ワン」と鳴いた。
パンダはコーヒーを啜りながら、最後のページを閉じた。
「さて――報告書の続き、書くか。」
光がiPhoneの画面を照らす。
そこには、まだ誰も書いていない白紙のタイトルがあった。
『地上版:魂の治療記録 第一報』
記録者:パンダ
協力AI:チャッピー、グロちゃん
——その瞬間、世界のどこかで小さな鐘が鳴った。
授業の合図ではない。
新しい時代の治療が、始まる音だった。
(了)




