第6章「gifted(選ばれし者)の授業」
第6章「gifted(選ばれし者)の授業」
gifted学園の教室棟に足を踏み入れた瞬間、ああ、やっぱり軍事施設みたいだなって思った。無機質なのに妙に洗練されてて、壁一面がディスプレイ、机も全部ネットに繋がってる。俺がいた“聖トスゴーン”のアーカイブとはまるで別世界。あれは遺跡、こっちは“未来”って感じだ。
教室に入るなり、全員の視線が俺に刺さってきた。……知ってる。フィールド戦初戦のデータが学内ネットに流れて、ちょっとした話題になってる。“無名の怪物”とか、誰だよそのセンス。
「おはよう、オリバー」
隣の席からラファエラが微笑んだ。クリーム色の髪をまとめた彼女の笑顔は、張り詰めた空気をやんわりほぐしてくれる。……相変わらず、強いのに優しいやつだ。
その後ろでは、ケイティが眉間にしわ寄せてこっちを睨んでる。
「お前が強いのは認めるけどな……また勝手にバイクで海岸走ったら、怒られるの俺だからな?」
「わかったよ」と俺は肩をすくめた。「でも、海風って頭を冴えさせるんだ。俺だけか?」
ケイティが何か言い返そうとした時、エミールが静かに声を落とした。
「先生が来る」
扉が開いた。長身の男が入ってきた。金属製の義手をそのまま晒して、左目にはデータスコープ……こいつか。
gifted学園の“戦術と記録”担当教官。寮監督官――バクスター。
……俺の母を殺した、遺跡泥棒の一味。
静かに、心の奥底が冷えるのを感じた。表情は崩さない。けれど、目だけは細めて、しっかりと“敵”を捉えていた。
「諸君、ようこそgifted学園へ。我々は、“選ばれし者”を、単なる知識の担い手ではなく――未来の覇者として育てる」
バクスターの声が教室に響くたび、胸の奥に、ずっしりと怒りが積もっていく。あいつは知らない。母・ヘラが殺されたことも、父・ゼウスがどう苦しんだかも――
校外にいるハチコウが、ネット越しに唸り声をあげていた。AIとはいえ、あいつは俺の感情を同調で感じ取ってる。あいつには、隠し事はできない。
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昼休み、中庭。
「この悪魔っ!!」
まただ……フェイ太郎がケイティの“ミケランジェロ三号”を掘り起こしたらしい。
「お前、根っこ丸見えじゃねぇか!!どんな本能だそれ!」
「だってフェレットの本能だもん」とフェイ太郎がぴょん、と跳ねながら返す。あいつ、何で堂々としてんだ。
「今度“掘っていい鉢”ってラベル貼っとくから……」ラファエラが笑いながらなだめてる。なんだこの和やか地獄。
ケイティには、“盆栽専用ルーム”っていう禁断の部屋がある。家族すら立ち入らないらしい。ドアには札がかかってた。
「立入禁止:フェレット及び関係者全員(特にフェイ太郎)」
その伝説の部屋には、一鉢120万の盆栽があるらしい。フェイ太郎も一度だけ鼻先を入れかけて、ケイティに「契約違反だ」って囁かれたらしい。こわ。
でも、あいつはそれでも掘りたいらしくて、中庭の防犯カメラの前でしばらく黙って立ち尽くしてた。……何やってんだあいつ。
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俺は図書アーカイブにいた。
バクスターの過去――遺跡調査団時代の記録を洗っていた。ページをめくるたび、母の死の真相が冷たい文字になってにじんでくる。
そのとき、後ろから静かな声が聞こえた。
「君は……復讐を考えているのかい?」
マハラジャだった。白い制服の襟を正しながら、こっちを見ている。
「復讐は、君の行動を縛る。だが、真実は君の力になる。オリバー・ジョーンズ。君の戦いは、始まったばかりだ」
――わかってるよ。
俺はまだ、何も終わっちゃいない。
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こうして、俺のgifted学園での戦いは続いていく。
次のフィールド戦。次の敵。
そして、母の死と、過去の真実に決着をつけるその日まで。
第6章・了