表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パンダの小説 オリバージョーンズの冒険  作者: 天才パンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/85

第5巻 地獄の学校 1話

嘘吐きたちの授業 1


――オリバー・ジョーンズの地獄の学校より



 嘘を吐く者は、いつだって孤独だ。

 だが、彼らのほとんどは最初から嘘つきだったわけではない。

 それは、ある日――誰かの“愛し方の間違い”から始まる。


 少年の記憶の中に、一枚の光景がある。

 母親の目。

 彼女はテレビの言葉を信じていた。「怒る時は、子どもの目を見て叱りなさい」。

 それを忠実に守った。

 褒める時は目を逸らし、叱る時だけ、射抜くように見つめた。

 その視線は愛ではなく罰の印になり、少年は次第に「見つめられること」を恐れるようになった。

 だから彼は言った――「大丈夫だよ」。

 本当は大丈夫じゃないのに。

 それが、最初の嘘だった。


 “嘘”は防衛本能だ。

 殴られぬために。

 嫌われぬために。

 そして、見放されぬために。

 少年は少しずつ学ぶ。

 真実を言えば怒られる。

 嘘を言えば許される。

 世界とは、そういう不公平なルールで動いているのだと。


 ⸻


 そして今、その少年の魂は地獄の講堂に座っている。

 閻魔大王オリバー・ジョーンズの前に、嘘吐きたちが整列する。

 天井には淡い光が降り注ぎ、壁には“罪”の文字の上から“問い”の文字が重ねられている。


「今日の授業は“嘘の起源”だ」

 オリバーの声は静かで、けれど深く響いた。

「お前たちは、なぜ嘘を吐いた?」


 一人が答える。「怒られるのが怖くて」

 一人が泣きながら言う。「父さんと母さんが喧嘩するのを止めたくて」

 もう一人は俯いたまま。「褒めてほしかった」

 オリバーは頷く。

「いいか、それは罪じゃない。嘘を強いたのは“恐怖”だ。お前たちは、それに従っただけだ。」


 だがその時、講堂の奥で低い声が響いた。

「違うな」

 黒いコートを着た男が立ち上がる。

「俺は嘘をつき続けることで、世界を守った。嘘こそ正義だ。

 真実を暴けば戦争が起きる。なら、真実など要らん。」

 その声には確信があった。

 オリバーは目を細め、問う。

「お前の嘘は、誰を守った?」

「……世界を」

「本当にか? それとも、お前が築いた“秩序”を守りたかっただけか?」

 男の瞳が揺らぐ。

「正義という名の嘘は、最も醜い。

 嘘で救える命もある。だが、嘘で支配された魂は救えない。」


 男はうつむき、静かに崩れ落ちた。


 ⸻


 オリバーは黒板に近づき、白いチョークで一文字を書く。

 “真”――。

 粉が舞い、光を受けてきらめく。


「真実とは、痛みに耐えても隠さないこと。

 だが、誰かを守るための嘘は罰しない。

 愛から生まれた嘘は、真実の兄弟だ。」


 列の中にいた小さな少年が、手を挙げた。

「先生……ぼく、怖かったんだ。

 お母さんが怒る時、目をじーっと見てきて、心が固まって……

 本当は怖いって言いたかったのに、“平気”って言った。

 それも嘘、ですよね」


 オリバーは頷く。

「その嘘は、生き延びるための叫びだ。

 罰しない。

 だが覚えておけ――“平気”と言った瞬間、本当の自分が少しずつ遠ざかる。

 だから、これからはその距離を取り戻すことを学びなさい。」


 少年は泣きながら頷いた。

 その涙は黒い床に落ち、光に変わって消えていった。


 ⸻


 授業の終わりの鐘が鳴る。

 嘘吐きたちの顔には、少しだけ色が戻っていた。

 彼らはそれぞれの“真実”を胸に、静かに講堂を出ていく。

 誰も裁かれない。

 ここはもはや地獄ではない。

 “学び”の場だからだ。


 オリバーは講壇に残り、最後に一行を書き加える。


 ――「真実とは罰ではなく、赦しの始まりである」。


 ペンを置き、天を仰ぐ。

 その瞳には、かつて“怒りの視線”を受けて震えた少年の面影があった。

 けれど今、その視線は優しく、誰かの痛みを包む光になっている。


 彼は微笑んだ。

「次の授業は、“嘘と愛の違い”だ」


 そう言って、静かにページを閉じた。



(了)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ